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15 教育

 青い顔をするニルネスにアランディルスは首を傾げた。


「ルネ? どうしたの? お腹が痛いの?」


「え? あ、大丈夫です。そ、そうですか。弟君か妹君が……。ですが、妃殿下が陛下とお会いになるのは王子殿下が十歳になって王子宮へお住まいになるころだと思います」


『ルネったらっ! ナイスだわ。その猶予はとてもありがたいわ。それにその頃なら夫婦仲についても理解できるようになるだろうし』


 レイジーナが手を前に組んで目をキラキラさせたのを見て、ニルネスは正解を導けたとホッと安堵した。


「そっかぁ。ならそれまではがまんするね。

 あ! ルネとおかぁしゃまがお手々をつないだらおとうとがくるんじゃない?」


 耳元でナイショの話をされ、ニルネスは今度は赤くなった。あまりにも起伏の激しい感情に目眩さえ覚えたが無様な姿を二人には見せたくないため腹に気合を入れる。アランディルスの言葉はレイジーナには聞こえていないようでレイジーナは時間的猶予をもらって元の慈母に戻っていた。


「そうなれば光栄ですが、私もアランディルス王子殿下がいらっしゃれば寂しくはありません。十分に幸せです」


「うふふふ」


 アランディルスが甘えるようにニルネスの首に巻き付くとニルネスもそっと腕の力を強めた。


「妃殿下。よろしければ王子殿下を馬場へお連れしたいのですが」


「行きたいっ!」


 体を仰け反らせて目を輝かせる。


「それは嬉しいわ。わたくしでは乗馬を楽しませることはできないもの。

 帰ってきたらお茶でもしましょう」


「はい! おかぁしゃま。行ってきます!」


 アランディルスは大きく手を振り、ニルネスはアランディルスを抱いたまま笑顔で小さくお辞儀をして外庭へ続く扉に向かっていった。


「誰と誰が親子なのか、わからないわね」


「左様でございますね」


 ガレンも嬉しいような困ったような顔で二人の背中が消えるのを見ていた。


 のびのびと育つアランディルスに勉強とは思わせない形で教育を施してきた。三歳になるとレイジーナの続き部屋をアランディルスとバードルの寝室にして、レイジーナとソフィアナが毎晩交代で読み聞かせをする。レイジーナが二人の寝室を共にさせることを提案した時には全力で遠慮したソフィアナだったが、「バードルにはずっとアランディルスの良き理解者であり相談相手であってほしいの。相談相手の知識が乏しくては相談できないわ」と言われれば自分には思いつかない教育方法に従うことが最良であった。

 二人との会話の中で数字の問題や小さなクイズを出すことを使用人たちに徹底させた。そのうち使用人たちも二人に出すクイズを考えることが楽しくなり、どんどん高度な問題になっていく。


 こうして遊びの中で様々なことを学んできたアランディルスとバードルが五歳になり、本格的な家庭教師をつけるようになった。ただし、国王にバレても大丈夫なくらいのマナーや剣術の家庭教師だ。勉学に関しては執事が教師役をしていた。


 そんなある日、アランディルスとバードルが庭園の真ん中で剣術の家庭教師から手ほどきを受けている姿をデッキのテーブルから見ていたニルネスは常々思っていたことをレイジーナに聞いた。


「どうしてここまでご教育に熱心なのですか?」


 この国の王族はここ数代お飾りと化しており、血筋だけが取り柄の傀儡である。その事を進んで受け入れ贅沢に溺れているのが現状だ。だから、王族は進んでやる勉強はマナーとダンス、あとは個々に乗馬や絵画や音楽である。

 余談であるが、現国王は乗馬を好み、ここ南離宮に愛人を囲っていた時には馬を駆け、普通一日かかる距離を半日で走破していた。


「わたくしはアランディルスには政務に携わらせたいの」


「政務復権!? それは……」


「ええ、わかっているわ。いきなり全ての判断を寄越せとは言わないわ。でも、数十年後には正しい王族の役割を果たすようにしたいのよ」


「なぜ……?」


 ニルネスはゴクリと音を立てて喉を鳴らす。


『これを聞けば引けなくなる。だが、これを聞かねば妃殿下との今後は考えられなくなる。例え家臣としてでも私はこの方の……』


 ニルネスが伏し目がちにしていた瞳をキリリと上げるとニルネスの様子を観察しているレイジーナと目が合った。


『妃殿下は……すぐにお答えにならない……。私の反応を待ってくださっている。きっと今私が席を立っても(とが)めないだろう。私の決断を尊重してくださる……気がする』


 ニルネスはレイジーナの奥に秘める慈悲を受け止めた上で姿勢を正した。

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