12 既製服
喜ぶニルネスにうんうんと頷いたレイジーナは腕を前で組んで少し思案して口を開いた。
「確かに出資者を募って定期報告会をするのはいい案だわ」
ニルネスは顔色を変えて腕をぶんぶんと振った。
「ダメ! ダメです! 募らないでください!」
「はあ?」
「出資金はどれほどご入用ですか? いくらでも私がご用意いたします!」
ニルネスが先程レイジーナから預かり足元に置いてあった革袋を握りドンとテーブルに置く。
「差し当たりこれで。
はっ! 横領ではありません。家にあるお金で部下たちにはきっちりと払います」
革袋に目を細めたレイジーナに対して必死に言い訳をする。
「残りは後日お持ちします。あとどれくらい必要ですか?」
「配当を何%望むの」
ニルネスは顎に手を当ててじっくりと考えた。
「三十%ほど」
「はあああああ?」
『『うまい!』』
レイジーナは驚愕のあまり立ち上がり、執事やメイドや騎士たちはニルネスの判断に感心した。冷静になりたいレイジーナはガサッと荒々しく腰掛けた。
『それじゃあ本当に出資者を募れないじゃないの。それ以上を配当する分を募って万が一団結されたら奪われるもの。出資制度っていいかもって思ったのに! やっぱり商会がほしいのではないの?』
「それならとりあえずこの革袋をあと八つよ」
「わかりました。今週は予定が詰まっておりますので来週参ります。その時に出資者会議の日程についても詰めさせてください」
金額をふっかけたつもりのレイジーナは即了承されて固まり、気がつくとニルネスは帰っていっていた。
こうして建築屋と仕入れ屋を取り仕切る商会はレイジーナとニルネスの共同会社となった。仕立屋はモニエリーカに託すつもりだったので、他の出資者を入れることはしなかった。
仕立屋はすでに職人の確保はできているので問題なく再スタートできた。モニエリーカの名前のブティックにすると貴族夫人たちが押し寄せるようにコンタクトを求めてくる。レイジーナはこれまで社交らしい活動はしてこなかったので、客層の人選も含めて営業判断はモニエリーカに任せることにした。
しかし、レイジーナにはやってみたいことがあった。
それは子供用の既製服だ。子供はすぐに大きくなるため資産持ちは頻繁に仕立てるので商品対象にはならないが、資産のない家では兄弟姉妹従兄弟に従姉妹、回し合って着ているので安価に設定すれば喜ばれるはずだ。
「モリー。とりあえずお茶会を開いて子供のサイズの採寸表のマニュアルを作りたいの。年齢ではなく、身長でサイズ展開をしたいのよ。そしてドレスやタキシードのような特別な服はオーダーメイドだから、ワンピースやスラックスやワイシャツやブラウス、とにかく普段着がいいと思っているわ」
「不思議なやり方ね。でも、確かに子供って年齢が同じでも体格はそれぞれだわ。わたくしが出産時期になる前にやりましょう」
「妃殿下。恐れながら」
「ガレン。遠慮なく意見を聞かせて」
「年齢に合わせるのではないのなら、平民でも良いのではないですか? お腹周りやお胸のサイズは栄養的に貴族と平民では異なりますが、ウエストの位置や手足の長さなら身長に比例します。何より多くのサンプルが取れるので採寸表には適しているかと思います」
「それ! 採用! たくさんのおやつを用意して採寸会場を設けましょう。モリー。貴族子女のデータも必要だから、お茶会の手配はお願いできるかしら?」
「もちろんよ。子供の採寸をしてもトラブルにならない人たちを選んでお茶会をするわ」
『平民で採寸か……。安価な生地が手に入るなら、いつか平民用もやりたいわね。ワンピースやオーバーオールって…………売れそう!!』
お茶会に呼ばれた面々はモニエリーカが女の子にはドレス、男の子にはスーツをプレゼントする約束をしたので喜んで協力してくれた。
平民の子供を集めた採寸会は当日の朝に広告を撒いたにも関わらず多くの子供達が集まった。レイジーナの指示でパンやクッキーなどがたくさん用意されたのだが、わざと砂糖も控えめでクリームなどは使わないものとした。貴族との差を見せつけるようなものは控えるべきだと考えたためだ。
『そんな差異がなくなる日はくるのかしら……』
レイジーナは前世の格差について考えた。
『経済大国と発展途上国の末端くらいの差はありそうね。簡単な問題ではないってことだわ……』
ため息を吐いて遠い空を見つめた。