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11 出資者

 すでにニルネスたちに任せた者たちについてはとっくに興味がなくなっているレイジーナは踵を返して応接室へ向かった。


「そんなものより、貴方の足元にあるバッグの中身の話を聞くわ」


「もちろんです!」


 ニルネスもすぐさまレイジーナを追いかけた。


『ワンピース姿も上品で美しい。王妃宮にいらっしゃるときより知性と気迫を感じる。なんと魅力的な女性なのだ』


 ニルネスはレイジーナの後ろ姿を愛しげに見つめながらついて行った。


 応接室ではレイジーナは当然のように三人用ソファの真ん中に座り仰け反るようにソファに背中を預け、ニルネスは一人掛けに座り姿勢を正す。メイドもレイジーナに先にお茶を出し、後からニルネスの前に置く。他国の王族でもないかぎりレイジーナより優先される客人はいない。


「で? 彼らは?」


 レイジーナが手を出しながら問うとニルネスはバッグから書類を取り出しメイドに手渡してレイジーナへ届けてもらう。


「妃殿下のご指示通り従業員も含めた全ての商売の権利や資産を没収いたしまして、すべてを妃殿下の名義にする手続きも済ませました」


 レイジーナのいう彼らはとは仕立屋、建築屋、仕入れ屋のことである。


「つまり、横領や横流しに関わっていたのね」


「はい。入荷もしていない商品を納めたと書かれていたものも多数あります。元執事長と折半で着服していたそうです。

さらには王妃宮を紹介してやると言って賄賂も受け取っておりました。

店主だけでなく深く関わっていた者は収監しております。一年ほどで出る者もいるとは思いますが」


「何をどれほどしていたかはどうでもいいわ。罪のない従業員たちはどうしたの?」


「そちらも妃殿下のご指示通りです。私の手の者を置き、これまで通りの仕事をさせました。譲渡手続きに時間も必要でしたので」


「そう。ありがとう。従業員まで路頭に迷わせることは望んでいないから嬉しいわ」


 本来なら店主が捕まれば、店は瓦解し従業員は全員解雇、再就職が難しい者も出てくる。レイジーナはニルネスに頼んで店の維持をさせていた。


「ですが、王妃宮との仕事がなくなりましたので、規模は小さくなり売り上げも悪くなった中での維持ですから利益はありません」


「もちろんよ」


 レイジーナが入口に立つ執事に向く。


「先程の革袋を一つ持ってきて」


「かしこまりました」


 執事は隣室へ行きすぐに戻ってきた。指示されなくともすでに執務室に運ばれていたのだ。


『本当に優秀な者たちで嬉しいわ』


 執事に目配せをしてニルネスの前に革袋を置かせるとガチャリと重い音がした。


「それはこの一ヶ月、管理してくれた貴方の部下へのお給金よ」


「過分です」


「謝礼金も込みなの。気にしないで」


「わかりました。では、ありがたく。その代わりというわけではありませんが、あと二週間ほどは管理させましょう」


「わかったわ。では数日中にこちらの責任者になる者を向かわせるから引き継ぎをお願いね」


「かしこまりました。ちなみに、引き継ぎをさせる者をすでにお決めになられておりますか?」


「ええ。もちろん」


「………………そうですか」


 レイジーナの即答にがっくりと肩を落とすニルネスにレイジーナは首を傾げた。


「ニルネス卿も商売に興味があるの?」


「い、いえ。王城勤務をしながらでは無理です」


『そうよね。監査局の副局長で侯爵家の嫡男ですもの。商売に現を抜かす暇などないはずだわ。ならなぜ項垂れるのかしら?』


「この一ヶ月やってみてわたくしに渡すことが惜しくなった?」


「違います! 妃殿下の持ち物として管理のお手伝いをさせていただいただけですから」


『だが、手を離れてしまえば……』


 ニルネスは表情を暗くする。


「ふーん。…………なら出資者になる?」


「え!」


『犬がしっぽを振っているみたいって本当にあるのね。でも結局商売に興味があるんじゃないの』


 レイジーナは目を輝かせているニルネスに疑問を持つがニルネスの気分に水を差すことが(はば)かられてスルーすることにした。


「出資者になるとどういう特典が?」


「そうね……。出資金によって売上の数%を配当するわ」


「そうではなくて!」


 乞うようにレイジーナを見つめる瞳に少したじろぐ。


『お金以外に何がほしいのよ?』


 レイジーナはむむむと考えてから答えを導き出した。


「素晴らしい商品が見つかったら一番に送って差し上げるわ!」


 正解にたどり着いたと顔を明るくするレイジーナに対してニルネスのケモミミと尻尾は完全に萎れた。それを見たレイジーナが口を尖らせる。


「出資者特典に何を望むの?」


 再びニルネスの顔が明るくなった。


「定期的に出資者会議を開いていただきたいのです!」


『なるほど。経営に口を出したいのね』


 ハズレなのに悟り顔でニルネスを見るレイジーナとブンブンと尻尾を振っているニルネスの様子をガレンは呆れて見ている。


『絶対に妃殿下には伝わっていないわね。かといって、伝わってはいけないことだけど。もどかしさと心配が混在していて私が疲れるわ……』


 ガレンが小さく嘆息したのは苦笑いの騎士だけが見ていた。

 

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