救星の代償
次にエルディランが目覚めた時にはすべてが終わっていた。汚染された魔力の波は多くの竜種達の犠牲によって、祓われ多くの生物や土地が死の大地と化したが星と種が絶滅することは防がれた。
多くの竜は汚染した魔力を大量に浴びてしまい魂まで蝕まれ苦しみ全身を突き刺すような痛みに襲われながら死んでいった。生き残った竜も多少ながら汚染された魔力に体を蝕まれ、その命はそう長くないだろう。オーディスたちが星の滅びが防がれたことを知ったのは守護竜ヴィラスが帰ってきたからだ。
だが、そのヴィラスの姿は見慣れた姿とはまるで変ってしまっていた。
「ヴィラス様!!!」
「おう、戻ったぞ。心配するなしっかり汚染された魔力は消してきたぜ」
「ヴィラスその姿は・・・・」
赤い鱗に黄緑のラインが入った逞しい姿だったヴィラスの体は、片目は潰れ鱗が剥げ宝剣のように輝きを放っていた尻尾は切れてしまっている。何より違うのは体全体に黒い痣が纏わりついているのだ。
「いや~大変だった。竜のほとんど死んじまったな~今生き残ってるのは片手で数えられるぐらいだぜ」
「そうか・・・・この愚か者が」
エルディランは友の変わり果てた姿に涙を浮かべ、民もその姿を悲しんだ。
「んじゃ、俺は眠りにつくから後はよろしく」
「あぁ任せろ」
ここまで、汚染された魔力に侵食されてしまえばもう治す手段は無い。緩やかに死に向かいやがて魔物と化すだけだ。だが、死を伸ばすことは出来る。体の機能を全て止め、魂を魔力で守るのだ。動くことも会話することも出来なくなるが、見守り続けることは出来る。それにエルディランが居るのであればきっと大丈夫だ。
眠りにつくヴィラスの為に民はあり得ない速さで休息地となる神殿を作り上げ、ゆっくり安全にヴィラスが眠りに就けるように護衛となる神官を付けた。全国民が守護竜ヴィラスとの別れを告げ穏やかな死をヴィラスは迎えるはずだった・・・・
「そのまま眠りに就けなかったの?」
「あぁ厄災が残ってたんだ」
「というよりは、厄災がまた起きたと言った方が良いな」
「あいつらの性でな」
厄災を鎮め飛び去って行く竜を欲望に満ちた眼差しで見つめる者が居た。その男の名は、エルロー帝国皇帝ロートス自らを神と称し、全てを奪い取る男だ。ロートスは力を欲していたどんなものでもひれ伏し、全てを手に入れる力を。そして、厄災を鎮め祓う竜達の姿を見てこれこそが俺が欲しがっていた力だと気付いたのだ。
エルヴィラス皇国に赤い竜が居るのは知っていた、厄災との戦いで傷つき弱った今ならその力を手に入れられると考えたのだ。ただでさえ大戦と大魔法の犠牲によって、国は疲労し民が死んでいるがそんな事ロートスは気にしない。ロートスにとって国や民は自らの目的を果たすための道具でしか無いのだ。力に目が眩んだロートスは、今まで不可侵であったエルヴィラス皇国に進軍を開始し、全ての兵に汚染された魔力を纏う近畿の武器を持たせた。
それに対してエルヴィラス皇国はのうのうと進軍させる訳が無かった。国境沿いに兵を配置し、進軍してきたエルロー帝国に向け
「これ以上進めば宣戦布告とみなし攻撃する。今すぐ立ち止まれ!」
警告はしたがエルロー帝国も疲弊しているため必死だ。皇帝からは、この戦が成功すれば必ず報われるという言葉をただ信じて突き進む。いや、信じているというよりかは信じなければとこの苦痛に負けてしまいそうだったのだ。汚染された武器は強力で持ち主に実力以上の力を与え、兵たちは勝利を確信していたがタイミングが悪かった。
進行するエルロー軍を天高くから見下ろす大きな影。その影の正体は、竜の姿となったエルディランだ。その瞳は赫怒の色に染まり、この怒りをぶつける機会を今か今かと、待ちわびていた。本来人間の争いに介入することはしないが、親友を失い仲間を失い何も出来なかった自分に対する怒りを抑える事など出来ないのだ。
エルロー軍が国境を越えた瞬間、
キュインンンン
甲高い音と共に光の光線が大規模に広がっていたエルロー軍を一瞬の内に薙ぎ払い消滅させた。エルロー軍はそれを攻撃だと認識する前に骨も残らず消滅し、死ぬことすら自覚できなかった。エルロー軍を一瞬の内に壊滅させたのは竜が持ちうる最強の攻撃方法、ブレスだ。自身が持つ魔力を高密度かつ高出力で放ちありとあらゆる物を消滅させる究極の技。人間が竜に勝つことなど不可能なのだ。
圧倒的な力を前に撤退していくエルロー軍。エルディランも逃げ行く者を追撃するつもりは無い。もう二度とこの国に手を出させなければいいのだ。だが、一つ誤算があった。それは、皇帝自ら戦場に出ていたことだ。
皇帝はすでに80を超える高齢となっていたが、その見た目は若いままであり肉体も若いまま。皇帝にはある特殊な能力を持っていた、それは人の魔力を自由自在に操る技術。通常肉体を接触させ相手の合意と技術があれば他人の魔力を自由に使え、大量の魔力を使えば無理やり魔力を引き出すことは出来るが、皇帝は少量の魔力で、相手の合意なく命に係わる程の魔力を無理やり使うことが出来るのだ。そして、それは連鎖する。
「あぁやはり素晴らしい!あの力を我の物に!!!」
竜の力を手に入れるために、皇帝は味方の魔力を無理やり奪いそしてそれは連鎖していく。力を奪われた人間の魔力を使い、その傍にいる人間を魔力を奪う。残った軍人の全ての魔力が皇帝へと集まっていく。エルディランがそれに気づいた時には遅かった。
エルディランが止めようとまたブレスを吐こうとした時、その魔法は完成してしまった。
「不味い、まだ民達が居るのだ!」
あんなもの触れば一瞬で死んでしまう。防衛していた者達を守るために、自ら盾になろうと前に出た。
厄災の原因となった禁忌の大魔法、無理やり奪い変質し汚染された魔力がエルディランに襲い掛かろうとした時、地上に居た者が立ってられないほどの突風が吹いた。
「おうおう、俺の国何してくれてんだ!」
突風が止み声がした空を皆が見上げると、そこには赤黒く光るうろ路を持った偉大なる竜がそこにいた。ヴィラスは汚染された魔力を睨みつけると、今の自分に出来る本気のブレスをそれにぶつけた。
エルディランとは違う火と風が混ざった爆風のブレス。すべてを焼失させるほどの威力を持ったブレスだったが汚染された魔力はそのブレスを食らった。
「チッうぜぇな!」
汚染された魔力は侵食する性質を持っているため、魔力による攻撃は効果が薄い。今や汚染された魔力は高密度になり、ほぼ物質と化している。汚染された魔力はスライムのように意思を持ち大地を這いながら、禍々しい触手を二体の竜に伸ばす
キュイン
その触手目掛けエルディランもブレスを吐き触手を消滅させたが、消した傍から新たらしい触手が生えてくる。これでは切りがない。
「エルディラン、民を逃がせ!このままじゃ巻き込んじまうし、危険だ!」
「分かった!」
エルディランは眠っていたはずのヴィラスが突然現れたことに驚いたが、今は質問する時ではないと急いで前線に居た民の元へ行く
「全員我が背中に乗れ!!!!」
「はい!!」
圧倒的な汚染された魔力に何も出来ず悔しい思いをしていたが、此処に居ても邪魔になると急ぎエルディランの背に乗った。エルディランは戦いに巻き込まれない安全場所まで運ぶと、
「すぐに皇都へ戻り結界を張るのだ!全部族にも皇都へ避難するよう呼びかけろ!命令だ!!!」
「はい!」
命令を受けた者達は急ぎ皇都へと走り、各部族へ声を届ける風文の魔法を使い通達する。急ぎ皇都へ避難しろと。
エルディランは、その姿を見届けるとヴィラスが戦っている前線へと急ぎ戻った。一瞬の合間だったのに、既に汚染された魔力の塊はエルヴィラス皇国に進行していた。
「ヴィラス、あれは前と同じものか?」
「あぁだが規模が違うな。それに前のは空を飛んでいた地面に居るだけましだが・・・・」
それが通った場所は全て汚染され、魔力を吸われエルディランが豊かにした大地が死んでいく。あれに、意思は無いただただ魔力がある物を侵食し食らっていくだけ。その本能に敵も味方もおらず、既に魔法を発動した皇帝と軍は飲み込まれ食われてしまっている。
「何とかしなければ国が終わるな」
「あぁ、幸い星が滅びるほどでは無いが・・・・我が国に手を出そうなど許す訳が無いだろう」
「あぁすべて消し去るぞ」
そこから2体の竜と汚染された魔力の塊との戦いが始まった。
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