俺、聖域に来たよ!
豊かな自然の恵みを楽しみながら俺達は、どんどん山を登っていく。聖域に行く道のりは緩やかな坂道になっていて、結構な距離歩いているけどウォル達は辛くなさそうだね。
「本当に自然が豊かだな・・・・」
「この旅が成功すれば、このような景色を国中で見られるようになるだろう」
「うむ、この景色がこの国の本来の姿だからな」
「えぇ絶対にこの景色を取り戻しましょう」
「大丈夫、絶対に成功するからね」
丸々と美味しそうに育った果実に色彩豊かな花々、瑞々しく緑に輝く葉っぱに逞しく育った木々。これがこの国が本来の姿だ。いや、本来の姿というのは少し違うかも。この大地はエルディランとヴィラスが復活させたが、本来は何も無い不毛の土地だった。何故不毛の土地になっていたのか前に調べた時は魔力が足りなくて分からなかったんだよな~魔力が増えた今でも大地の記憶を深く探るのは無理そう。そこの謎が気になるけど、今は出来る事をやらなきゃね。
「国の復活を我々も望んでいます。遥か昔は遠く離れたセレルの人々も王都と深い交流が有ったと言いますから、その時代が再来するよう我々も出来る事をなしたいですな」
「そうだ、一つディオクス殿に聞きたいことがあったのですが、ネリアの現状をご存じか?」
「・・・・」
ネリアという単語を聞いた瞬間ディオクスは視線を落とし暗い表情を見せた。
「えぇ知っています。彼らを助けようと我々も何度も物資を運んでいたのですが今は大地の活性化によって長らく物資を届けられていないのです」
「ふむ。やはりか・・・・白風の一族だとしてもあの大地を越えるのは難しいか」
「戦士のみで越えるならば、相当な消耗を覚悟すれば出来るだろうが荷物を運んでとなると難しい。皆さんがセレルに辿り着いたという事はネリアを見たのでしょう?・・・・彼らには本当に申し訳ない事をしてしまった。何とか物資を届けようと思ったのだが・・・・俺は・・・・自分の民の安全を考えてしまった」
苦しそうにディオクスは顔を歪ませ、拳を血が出るほど握りしめた。でも、仕方が無いよ。ディオクスはこのセレルを守る責任があるんだから。セレルのヴィレン山脈は豊かだけど町の外に出れば、相当な実力を持つ俺達ですら苦戦し消耗するような魔物と命を焼く大地に取り囲まれている。それを突破して食料や水を届けるのは困難だ。
「あぁ全滅寸前だった」
「っ・・・・」
「だが、クーアによって大地と民達は完全に回復し救われた。だからそう自分を責めないで欲しい」
「水龍クーア様が・・・・?」
「うん、俺の魔法ですべて元通りにしたからもう大丈夫だよ!だから、そんな辛そうな顔をしないで」
俺はディオクスの手を取って傷ついた手を治してあげる。
「ですが、俺は彼らを見捨てたのです」
「そんな事無いよ。ディオクスは頑張ったんでしょ?それにネリアの人達はセレルの人達を恨んだりして無いよ。ね、ウォル?」
「あぁネリアの町長から助けようとしてくれて感謝すると言っていた。セレルの人々がネリアに来ていなければ俺達が来る前に全滅していたと。そちらの事情も理解しているし、感謝はすれどそちらを責める気など一切ないと言っていた」
「ネリアの住民達も白風の一族が物資を持ってきてくれていたことを感謝してたぞ。恨んでる奴らなんて一人も居ないぞ」
「そんな・・・・」
「父さん、過ぎてしまった事はどうしようも出来ないがケーアによって解決した今出来る事はあるだろ?後悔をしているならば行動で償えばいい」
そうだね!取り返しのつかない事態には成らなかった訳だし、後悔しているなら今からやりれば十分間に合うよ!
「ヴィラスと会えば、このセレルを取り囲んでいる焼ける大地も何とかなると思う。そうなれば、物資を届けに行けるでしょ?」
「・・・・そうですな。奇跡が起きたのですから、それに報いる行動を起こさなければなりませんね」
「でしょっ」
「ネリアでは防衛を任せられる人たちが少なくて困っていたらから、武に関して名高い白風の一族ならとてもいい戦力になると思うわよ」
「まずは、ヴィラス様に会わないとな!」
ディオクスは決意を決めたようだし、俺達は未来の為に参道を登っていくと明らかに他とは違う雰囲気を出している場所に辿り着いた。山の中だというのに、草木に燃え移らない炎の柵に囲まれ、中央には金によって装飾された供物を捧げるための石の祭壇。そして奥には火の魔力を濃く感じる黒い石によって作られた神殿のようなもの。ここが聖域かな?
「ふむ、久々に来たが聖域は変わらないな」
「当たり前だ。ここは白風の一族にとって、ヴィラス様へ感謝を伝える場所だ。この馬車はどれだけ周囲が変わろうが守り抜く」
「あの黒い神殿火の魔力が凄いね~」
「あの見た目・・・・もしかして」
「うむ、あの神殿はヴィラス様が作られた溶岩を冷やし固めた黒曜石によって作られている。聖域の儀式の際は、あの神殿にヴィラス様をお招きしてこの山の恵みを捧げるのだ」
「王都の祭りと同じね」
王都でお祭りなんてしてたんだ~次開催される時は俺も参加したいな~
「儀式か~一度見てみたいな」
「ヴィラス様は今はいらっしゃらないが、儀式は毎年開催されているので是非」
「そうなの~!?じゃあ、次は俺も参加するね」
「はい、楽しみにしておきます」
お祭りとか儀式って楽しくて好きなんだよね~俺が参加するのも良いけど、本当はヴィラスとエルディランの為の行事なんだから次の行事には二人も参加しないとねっ
「じゃあ、ヴィラスも儀式に参加できるように会いに行こう~!」
「おう」
「えぇ」
「この先は火の魔力が濃くなりますのでお気を付けください」
聖域となっている場所から山頂に向かってディオクスの後ろを付いていく。この先は行くことが殆ど無いしヴィラスの領域だから道を整備していないんだって。さっきまでの整備された道と違って山特有の凸凹した道や岩に木の根っこ、または木自体に道を阻まれながら少しづつ着実に登っていく。
歩きづらいけど、俺達を襲ってくるような魔物や魔獣が居ないから歩きに専念できるだけ今までの道と比べれば楽だね。それに自然を実感できてなんか楽しくなってきちゃう。
「ディオクスの言う通り火の魔力が濃くなっていくね~」
「クーア体調は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ~」
「山道なら獣の姿になった方が登り易そうだな・・・・襲ってくる魔物も居ないみたいだし」
「良いんじゃない?獣の姿になればクーアを乗せて歩けるでしょ?」
「うむ、良いと思うぞ」
「どうぞ、ご自由に」
「んじゃお言葉に甘えて」
シャールクはさっと木の陰に隠れると、一瞬で黒豹の姿に変わった。何度見ても思うけど、姿が変わるの不思議だよね~まぁ人のこと言えないけど。
「ん~久々にこの姿になったぜ」
「ずっと獣の姿では辛い場所だったからな」
「人の姿も良いが、こっちの姿の方が俺は楽なんだよな~それに鼻と耳はこっちの方が効くしな。スンスン、少し香辛料の匂いがするな。それに沢山の木々の匂いに混じる小動物達。火山特有の危ない匂いもしないし、ほんと良い山だな」
「火山には危ない空気が溜まっているというからな・・・・シャールクの鼻は頼りになるな」
「命を奪う空気のことなら、ヴィラス様が地上に流れないようにしてくださっているから大丈夫です」
「あら、そうなの?」
「流石だな」
火山には偶に吸い込んだから命を奪ってしまうような空気が出るって言うからね。もし吸い込んでも俺が治してあげるけど、危ない物を気を付けるに越したことは無いからね。
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