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俺、ネリアの町長さんと会うよ!

 道を歩き神殿に近付いていくと、何やら神殿の周囲に人が集まり騒がしい。町の何処もがお祭り騒ぎで盛り上がっているけれど、盛り上がり方が少し違うみたい。


「なんか人多いね~」

「まぁ、あんなことがあった後だからな。恐らくだが、守護竜様を拝みに来ているんだろう」

「そうね~一部始終を見ていた人達は、ヴィラス様の加護のおかげだと思ってヴィラス様に感謝を伝えるために来るでしょうね」

「ヴィラス様の幻影まで現れたからな」


 あ~なるほどね。この国の人達は守護竜に対しての信仰に厚いから、感謝を伝えるために人が集まって来てる訳か。確かに、最後にヴィラスの意思みたいなものが現れたからこの全ての奇跡はヴィラスのおかげと考える人も多いだろうね。ヴィラスが注目されるなら、突然現れた俺達に注目が向かないから俺達にとっては好都合。ちょっと悪いけど、俺達の隠れ蓑になって貰おう。


「じゃあ、俺達が注目されることは無さそうだね~でも、この人だかりだと町長さんに会えるかな?忙しいんじゃない?」

「ふむ・・・・確かにな」

「取りあえず、行ってみよう。もし会えなければまた出直せば良いだけだ」

「だな、会えなければ町の様子を見て周って時間を潰せば良いだけだからな」

「あれ、なんか神殿の前に集まってるみたいよ」


 人込みを抜けて、神殿の前まで来た俺達は人達が神殿の中に入ろうとしている訳では無く神殿の前に集まっている事に気が付いた。


「中に入ろうとはしていないみたいだな・・・・」

「あまりに人が多いからいくらあの大きな神殿でも入りきらないと判断したんじゃない?それか、順番に中に入れてるとか」

「いや・・・・どうやら神殿長の演説があるみたいだぜ」


 神殿の中に入ろうとはせず、神殿の前で何かを待つように集まっている人達を見てウォルとレイランは首を傾げていると、近くに居る人達に話を聞いて来たシャールクが事情を教えてくれた。


「なるほど、ここまでの人数を神殿内に入れるよりも神殿前で演説をすることを選んだのか」

「良い手段だ。列を整理する手間を除け大人数で祈る事によって連帯感も生まれる。そして、守護竜様の奇跡だと思われている昨日の出来事に関して、大勢に説明することが出来るな」

「そうね、人々は昨日の出来事について色々知りたいと思っているでしょう。守護竜様を祀る神殿の長からの説明なら説得力も高いでしょう」


 ここに集まってきた人たちは、神殿で長を務めながらこの大きな町の町長である人の演説を目的に集まってきた人たちなのか~。ということは、演説が終わるまで町長とは会えなさそうだね。


「問題と言えば、何も事情を知らない神殿長が何を言うかだな」

「そうね~神殿長も飢えによって動けない状態だったと聞いてるから、神殿長も何も知らないはずよね」

「最初から全て知っているのはコーネスだけだ、そのコーネスも事情を話していないと言っていたからな」


 確かに、何も知らないのにどうやって住民達に説明をするんだろう。


「それなのに演説って出来るの?」

「出来るか出来ないかで言えば、出来るな」

「ほへ~どうやって?」

「今回起きたことは普通ではありえない奇跡だ。普通ではありえない、つまり俺達の常識では測れない事に関してはどうとだって話を作ることが出来るんだ。この地に残っていたヴィラス様の意思が我々の危機に呼応して目覚めたや、星に帰ってしまったヴィラス様だが常にネリアを見守ってくださっていて奇跡を起こしてくれたとかな。自分の常識外の事が起きた時、その事象について自分より優れている者が教えてくれた場合人は簡単に信じてしまうんだ」

「でも、それって嘘ってことでしょ?嘘つきだ~って言われないの?」

「誰が言うんだ?」

「え?誰がって・・・・あっそっか」

「その通り、今回の奇跡について知っている者は俺達以外ではコーネスしか居ない。だから、誰も嘘だとは思わないんだ。もし、コーネスが嘘だと声を上げたとしても一人の声は群衆に殆どの場合勝てない」

「だな、群衆の意思って凄く強いんだ。それに、町長と言う立場はこのネリアと深く関わっている。よそ者であるコーネスが声を上げたって信じてくれる奴は少ないだろうな」

「む~なるほどね」

「嘘は嫌いだよなクーアは」

「う~ん、でもこの場合って必要な事でしょ?」


 嘘はあんまり好きじゃ無いけど、嘘をつかなければこの盛り上がりを見せている住民達に説明をすることが出来ない。それに、説明をしなければ町の意思を統一することが出来ないだろうから今回の嘘は必要な事だと思うんだよね。


「そうだな、町や国を導くには少しの嘘は必要だ。だが、クーアがしたことが皆に知られることが無くなってしまうが大丈夫か?」

「別に嫌な気分にはならないかな。別に俺は人々に感謝して拝まれたい訳じゃ無いから別に気にしないよ」

「そうか、感謝するクーア」

「まぁまだ演説でどんな事を言うのか分からないけどな」

「うむ、明言を避ける場合もあるな」


 俺達は町長がみんなの前に現れるまで雑談をしていると、集まっていた人達がざわつき神殿から人が出て来た。その人はすらっとした長身に、キラキラと輝く金色の腰まである髪を後ろに纏め、神殿の人達が着る白い服に金色の刺繍を入れた皇都周辺と比べると少し薄手の服を着た女の人が歩いて来た。顔立ちは、凛として美しく切れ長の目と立ち姿には洗練された強さを感じる。


「あれが町長さん?」

「あぁ、そうだ。彼女はネリアが作られた時から続く古い神官の出だ」

「ほへ~」

「あの歩き方・・・・」

「うわ~めっちゃ強そう」

「アルベルドが言った通り、優秀な戦士と言うのは間違いなさそうね」

「あの細身の体では想像できないほどの怪力の持ち主だ」


 町長さんは一切体がブレずに皆の前を堂々と歩き、神殿の階段から皆を見下ろすように立つと手を上げ、民衆のざわつきを止めた。


「今日、皆がこうして笑顔を浮かべてここに集まれたことを私はとても喜ばしく思う。皆が集まってくれたのは、昨日起きた奇跡について知るためにだろう。昨日起きた奇跡は、まるで守護竜様が我々を助けて下さったように見えた。その説明を私に望んでいただろう。だが期待してくれているところ申し訳ないが、私には説明することが出来ない!」


 堂々と、昨日の事を説明できないと言う町長に民衆は少し動揺したようだが町長は気にすることなく演説を続ける。


「何故か?それは、私程度の者では大いなる守護竜様の意図など分かる訳がないからだ!我々では、足元に及ばないほど強大で思慮深く慈悲に満ち溢れた守護竜様の意思は私では理解することが出来なかった。故に、昨日起きた奇跡は全て各々の捉え方に任せようと思う。私達が勝手に解釈することを、不敬だと思う者もいるだろう。だが、慈悲深い守護竜様がそんな事を思うだろうか?奇跡を起こし、我々を救ってくださった守護竜様はきっと私達がこの先ネリアを守っていくことを願っているだろう。奇跡を起こしたのは誰かと言う、下らない論争には囚われず私達は前へ進まなければならない!」

「おおおおおおおお!!!」

「私達は救われた、その事実が大事なのだ!この奇跡に報いるために、我々は努力しなければならない!決してこの奇跡を失ってはならないのだ!!!!」

「おおおおおお!!!」


 町長の演説は民衆の心を掴んだようで、大盛り上がりだ。だけど、ちょっと意外だったな~


「ふむ、町長は明言しない事を選んだか」

「混乱が生まれるかと思ったが、今ある事実に注目する良い方法だ」

「嘘をつかず誠実に、人柄が分かるわね」

「大胆な事をする町長だな」


 みんなは町長の演説に納得したようで笑顔を浮かべている。嘘をつかない事を選んだ町長さん、思い切った判断だよね~


「もう少し場が静まった後、神官に我々の事を伝え町長に会わせて貰おう」

「そうね、今は動かない方が良さそう」


 やっと町長さんとお話しできそうだね~

読んで頂きありがとうございます!

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