Ep.0 「完全勝利のプロローグ!!」
〇ある月曜日の朝 リビング
≪今! 世界中で大人気!! 新時代の対戦型ホビー、ビーストコマンダー!!
本日は私、矢野春子が販売元であるG;RoundsCompanyさんに取材に参りました!≫
テレビからは女性アナウンサーの元気な声が聞こえる。
ビーストコマンダーという言葉とG;RoundsCompany
通称GRCの名前に反応したオレはテレビ画面を食い入るように見つめた。
≪早速ですが時任社長! ビーストコマンダーの遊び方を教えていただきたいのですが…!≫
GRCの社長、時任怜司。ビーストコマンダーを作った人。
オレにビーストコマンダーを与えてくれた人で、オレが一番尊敬してる人だ。
≪That's right.お任せください!!
ビーストコマンダーは手首につけるビーストリングと、ビーストリングにはめ込むビーストコアがあれば遊ぶことができます! ビーストコアの内部にはホログラム投影機能とジャイロが内蔵されており、ビーストリングのパーツであるビーストギアに搭載されているジャイロスピナーによってコア内部のジャイロを回転させることができるのです。そしてその回転のエネルギーを利用してホログラムを投≫
≪と、時任社長!
仕組みのほうはー、その…子供たちには難しいかと思いますので、遊び方の紹介を……≫
≪ああ! 大変失礼しました。
いやはや私も技術者上がりなもので語りだすと止まらなくなってしまいまして…。
オホン! それでは気を取り直して…
ビーストコアをビーストリングにセット! そして───
『ビースト! オン!!』
音声認識によりコアがアクティブになり回転を始めます!
あとはリングにあるシュートボタンを押すとビーストギアを発射! 地面や壁に当たった衝撃でバト≫
プツンッ…
突然真っ暗になったテレビには、パンを咥えた見慣れた顔。
つまりオレの顔が映っており、その向こうにはこれまた見慣れた鬼の形相が映っていた。
「…やべっ」
「烈斗!! アンタいつまでテレビ見てんの! 早く学校行きなさい!!」
「わわっ!! はいはいはい! わかってるって母ちゃん怒んなよ! もう行くから!」
オレは急いでパンを口に詰め込み玄関へと向かった。
「はいは一回! ちゃんと口ん中飲み込んでから行きな!」
「ふぃっふぇひわ~ふ!(いってきま~す!)」
オレの名前は大河烈斗。
ビーストコマンダーが大好きな桜木小の三年生!
今やプロコマンダーと呼ばれる職業ができるほど世界的人気になったビーストコマンダー。
コマンドバトルの楽しさに目覚めたオレは、世界最強のコマンダーを目指して日々腕を磨いている。
「おーす! レッドォ!! 聞いたぜ。昨日の地区大会!
歴代最年少で優勝したってマジかよー! サク小のレッドタイガーは半端ねぇって噂になってるぜ?」
コイツはガバチョ…蒲倉千代丸だからガバチョだ。
ちなみにレッドってのはオレのこと。レツト。レッド。んでもって大河だからタイガー。カッコいいから気に入ってる。
「へっ、当然だぜガバチョ! なんてったってオレは世界最強のコマンダーになるんだからな。
オレとオレの"レッドジェット・マイティタイガー"にかかれば地区大会なんて楽勝に決まってらぁ」
「いいなぁ。うちもお小遣いもう少しあればリングとコア買えるんだけどなぁ」
「ガバチョはまずお菓子の買い食いやめないと一生買えないと思うぜ」
「ばっきゃろレッド! お菓子がない人生なんてアレと一緒だよ! えーと、えーっと…なんだっけ?」
「知らん」
ガバチョがバカなのはいつものことだし、オレも学校の成績の方は似たようなもんだからよく分からん時はスルーすることにしているのだ。
と、通学路を歩いていると脇道から二つの影が飛び出してきた。
「レッドォ!! テメェ昨日はよくも舐めたマネしてくれやがったなぁ!!」
「俺たち堀西ブラザーズがタッグ組めばお前なんぞけちょんけちょんに…」
現れたのは桜木中の制服を着たガラの悪い二人だった。
「誰だアンタら?」
「あぁん!? テメナメてんのか? 昨日の地区大会の二回戦!テメェに負けた堀ユータだよ!」
「そして俺が四回戦でお前にやられた西コーヘイだ! 対戦相手の顔忘れてんじゃねぇよ!!」
「ブラザーズじゃないじゃんか。どこだよ兄弟要素」
ガバチョがやや戸惑いながらもツッコミを入れた。コイツは意外と度胸がある。中学生にも怯まないそのメンタルはコマンドバトルに活きそうだ。
買えればだけど。
「ゴメン! マジで思い出せないけどバトルならいつでも相手になるぜ!」
「レッド、学校…」
「ガバチョ! 最強のコマンダーはいついかなる時も、誰の挑戦であろうと受けなければならないんだ!」
「そんなことないと思うけど…」
「行くぜ! オレのレッドジェット・マイティタイガー!!
ビーストォ!!オーーン!!!うおおおおおお!!!」
レッドの闘志のこもった叫びと同時に回転しだしたコアから
眩い光が溢れる。
その輝きは周囲を包み──────
「ぐわあああああああああ!!!!」「ぎぃえええええええ!!!!」
次の瞬間
堀西ブラザーズは激しい衝撃によって吹き飛ばされ地面に倒れ伏した。
「なぁ、レッド。なんでザコっぽい奴らはリングをかざすだけで吹っ飛ぶんだ?」
「気にすんなガバチョ。コマンドバトルではよくあることだ。それより学校遅れるぞっ!!」
「うーん、気になる…。あっ!ちょっと待ってくれよレッドー!」
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〇某所 某時刻
男は電話口に向かって誰かと話している。
「ああ、私だよ。以前君に話したアレについてだが…
やはり適合したよ。なんとしても『彼』を確保したい。
できれば、穏便にね…。」
≪─────────≫
「ハハハ! もちろんそれで構わないよ。君を信頼してのことだ。可能な限り穏便に、ということさえ覚えておいてくれるなら君のすることに口出しはしないさ。
では、頼んだよ───
───ヘルメス」