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暗闇を舞うハンターバット

 アレクシアと共にフリーデブルクを出発したマリカは、旧世界にて魔道艦と呼ばれていた金属の塊を発見した。かつては空をも飛行した魔道艦ではあるが今では船体の半分が失われ、残った部分が荒野の中で静かに横たわっている。その姿に哀愁を感じながらも、マリカは旧世界の技術力に改めて感嘆していた。


「これが魔道艦ですか?」


「そうよ。魔道艦ターミナートル級・・・元は全長二キロメートルにも及んだ巨大艦だったの」


「ターミナートル、ですか。やけにデカいサイズですね」


「この艦の用途が外宇宙への移民用だったからよ。多数の人間を乗せ、宇宙の果てに新たな大地を求めるためのね」


 宇宙への移民と言われてもスケールが大きな話で、マリカにはピンと来なかった。確かに宇宙には無数の星が存在しているが、目の前の存在がそれを目指すための艦などと信じられない。


「ターミナートルは十数隻が建造され、選ばれた人々が宇宙を目指した。そうして人類の生活圏を広めようとしたの。でも結果がどうなるか不明なまま旧世界は滅亡し、宇宙に旅立った者達の末路は人知れずといったところよ」


「ここに墜落した艦は何があったんですか?」


「さあね。軍事用に転用されたターミナートルもあったそうだから、戦争中に撃墜でもされたのではないかしら」


 マリカ達は車を降り、ターミナートルの傍に立って見上げた。この巨体が飛行するシーンを見てみたいものだが損傷と欠損が大きく、さすがのリペアスキルでも直すことはできそうにない。


「では早速、目的の品の所へ行きましょう。後方部の機関室にあるハズよ」


 アレクシアは大きな亀裂から艦内に侵入し、冷たい空気と暗闇が支配する空間を見渡す。アンドロイドの暗視カメラモードなら問題ないが、マリカは何も見えずカティアの手を握って付いていく。

 

「暗いね・・・やっぱりコレを持ってきて良かった」


「それは魔結晶ですか?」


「うん、王都三番街の地下でエーデリアが持っていたのと同タイプのヤツなんだ。昨日、お姉ちゃんから貰っておいて正解だったよ」


 発光機能を有する魔結晶に魔力を流す。すると眩しい程の光量で周囲を照らし、真っ暗だった艦内の様子が明るみに出る。

 外から入り込んだ砂や泥で汚れてはいるが天井や壁の鈍い銀色が光を反射し、そこは狭い個室のような場所であった。


「金属の壁か・・・凄い未来的に感じるよ。私達の家は木造だしさ」


「過去の遺物が未来的・・・妙なパラドックスが起きたような言い回しね。私達の時代には普通の物だったけれど、マリカ・コノエには新鮮なようね?」


「そりゃもう。お姉ちゃんにも見せたかったなぁ」


 旧世界の興味という点で言えばアオナの方が上回っているので、やはりこの魔道艦に連れてくればよかったかと思う。しかし店番で泣く泣く残ることになったのだ。


「軍用に徴用された艦だとすると、武器庫や兵器工場も存在すると思われます。アンドロイド用装備もあるかもしれません」


「カティア用の新装備も手に入るかもしれないね。ジャンク屋で売れそうな物品も持ち帰れればいいな」

 

 軍艦なら普段見かけることの無いような装備もあるだろう。既にカティア用の装備は充実しているが、様々な場面や戦闘に対応するために種類を増やしておいて損はない。

 錆びや劣化によって立て付けの悪くなったドアを外し廊下へと出る。巨大なトンネルにも思える廊下は古代遺跡の中にいるような錯覚に陥らせ、今より進んだ技術の結集体が風化している様子は物悲しい。


「この先を進んで行けば機関室に辿り着くわ」


 アレクシアの先導でマリカ達は廊下を進む。コツ、コツという彼女達の足音が静かな船内に響いて、多少ホラーのような雰囲気を醸し出す。


「これで本当にお化けとか出なきゃいいけど」


 カティア達がいるので心強いが、もしマリカ一人だったら怖さで歩くのも躊躇われただろう。魔物などの化物に果敢に立ち向かう勇気を持つマリカとはいえ、恐怖心を持つ普通の女の子であることを忘れてはならない。

 そうして少し進んだところ、ハタとアレクシアは足を止めた。


「・・・あら、私達以外のお客さんがいるらしわよ」


「お客さん、ですか・・・?」


「これは羽音・・・しかも虫などではない。大きな物体の羽ばたく音よ」


「まさか魔物・・・! 羽根付きの?」


 重くバサッという羽ばたき音がマリカにも聞こえた。その音が四方から耳に届いているのは金属の壁に反響しているからだ。

 しかしアンドロイド二人は的確に対象の位置を把握したようで、一点に目線を向ける。


「マリカ様、あそこに!」


「なんと!!」


 カティアが指さす先、数体の漆黒が天井付近に滞空してコチラの様子を窺っていた。それらはコウモリ状の姿をしているが、最もたる特徴は大きさだ。全高約四メートル、広げた翼を含めた横幅は十メートルにも達する程であり、動物としてのコウモリではなく魔物であるのは間違いない。


「ハンターバット・・・コウモリに似た魔物だ!」


「ヤバい魔物ですか?」


「昼間は暗闇に潜み、夜になると行動する魔物で、動物や人間を襲って血を吸い尽くすんだ。それこそ干からびるくらいにね。一説には吸血姫という存在が変容したのがハンターバットとも言われているけれど・・・・・・」


「マリカ様の血の一滴まで私のものです! あんな魔物如きには渡しません!」


「う、うん」


 憤るように魔物に対峙しようとするカティアだが、ハンターバットと呼ばれるコウモリ型魔物は近づいてこない。くるくると飛び回るだけで襲ってこないのだ。


「案外、平和主義な魔物かもね?」


「そんな事はありませんよアレクシアさん。ヤツは魔弾を使えますから・・・!」


 次の瞬間、マリカの言う通りにハンターバットが一斉に魔弾を発射した。鋭い牙を剥き出しにして大口を開け、撃ち出された人間の頭部程のサイズの魔弾は眩く発光しながら直進して迫りくる。

 マリカ達はすぐさま回避行動を取ったので直撃こそ避けられたが、着弾地点の床が爆発して崩壊を始めてしまった。いくら金属製とはいえ魔弾の破壊力の前には脆く、劣化による強度低下も相まったためでもある。


「うわっ!? 床が・・・!」


「マリカ様!!」


 崩壊に巻き込まれたマリカとカティア。このままでは下の階層の床と衝突は免れられず、生身のマリカにはピンチだ。

 しかしカティアの反応は速かった。近くに居たマリカを抱き寄せ、激突から庇うように自らが下となる姿勢を取ったのである。これでクッションのような役割を果たし、多少はマリカの被害も少なくなることだろう。


「しまった・・・!」


 リペアスキルという希少な能力を持つマリカを死なせるわけにはいかないと、難を逃れたアレクシアも大穴へとダイブしようとするが、


「魔物如きが私の邪魔をするな!」


 優位に立ったと判断したハンターバットが一斉に飛びかかってきた。それらの素早い攻撃を躱すのは難しく、アレクシアは反撃できずに苛立ちながらバックステップの要領で距離を取る。


「数が増えた・・・増援か!」


 最初に襲撃してきた集団以外にも隠れていたようで、次々とハンターバットが現れた。総数はおよそ二十体といったところか。


「チィ・・・! アンドロイドの祖たる私にナメたマネをしてくれる!」


 脚をリペアスキルで直してもらったことにより本来の機動性を取り戻したアレクシアは、リミッターを解除して最大戦闘モードへと移行する。

 

「ン・・・? 敵は二手に分かれたわね・・・・・・」


 ハンターバットは十体ずつのチームに分かれ、大穴に落下したマリカとカティアを追うつもりのようだ。

 

「戦闘が久しぶりだからと、こうもナマっているのでは・・・!」


 アレクシアは自らの脚の怪我のために長年戦闘を避けていた。さすがにアンドロイドとはいえブランクはあるようで満足な戦いができていない。

 杖と剣を用いてハンターバットと渡り合いながらマリカが死んでいないことを祈り、まずは自らの生存のために全力を出す。






 一方、落下したマリカとカティアは状況を整理しつつ、互いに怪我をしていないか確認する。


「お怪我はありませんか、マリカ様?」


「私は平気だよ。それよりもカティアこそ大丈夫なの!?」


「少し・・・腰の部分を痛めてしまったようです」


「待ってて、今すぐスキルを使うから!」


 カティアを抱きしめて全身にリペアスキルを行使した。少々のダメージを受けていたカティアの腰部分は瞬時に回復し、元通りの健康さを取り戻す。


「ありがとう、カティア。自分の身を挺してまで・・・・・・」


「わたしはマリカ様のメイドなのですから当然です。あなたのためなら、この身が砕けようと絶対にお助けします」


 魔結晶の光に照らされる二人は見つめ合うが、悠長にしている時間は無い。ハンターバットの群れが降下してくるので、これらを撃破しなければ二人の時間は永遠に失われてしまう。

 マリカとカティアは魔具を装備し、襲いくるハンターバットに立ち向かうのであった。



   -続く-

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