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AX-Concept/T、その名はアレクシア

 モンストロ・ウェポンがフリーデブルクを襲撃してから二週間後、特に異常も無く平穏な日常を過ごすマリカ達。改装したコノエ・エンタープライズの営業は順調なようで、これはエーデリアのアドバイスの賜物であるが、バニースーツに身を包んで体を張って宣伝するカティアの努力も忘れてはならない。

 そんないつも通りの昼下がり、コノエ・エンタープライズを目指す人影があった。どうやら脚が悪いようで、魔具ではなく補助道具の杖をつきながら歩いている。


「カイネハインの話ではこの辺りのハズね・・・・・・ん、アレは?」


 歩みを止め、健気にも店前で声掛けをするカティアを視界に入れる。そしてカティアの全身を舐めまわすように見つめた後、何か確信したように不敵な笑みを浮かべて近づいていった。


「そこのアナタ。話があるのだけど、いいかしら?」


「はい・・・って、アナタはアンドロイド・・・!」


 声を掛けられて振り向いたカティアは驚いたように口を開けている。それもそのはずで、杖をついた人物をスキャンしてアンドロイドだと分かったからだ。

 現代において稼働しているアンドロイドの数は多くはないハズであり、だからこそ珍しい種族の訪問者に対してカティアは多少警戒感を抱いた。以前のトゥエルヴの例もあり、何かを企んでいる可能性もゼロではない。


「ふふ、気がついたようね。初めましてメイド型アンドロイドのカティア。アナタの話はカイネハインの報告で聞いたわ」


「アナタは・・・プロトタイプアンドロイドですね。全てのアンドロイドのベースになったAX-Concept/T型の」


「よく知っているわね。まあ旧世界でのアンドロイド界隈では有名人だったのだし当然かしら。ちなみに自己紹介をしておくと、私に与えられた個体名はアレクシア。旧世界の破滅を生き残り、今は王都にて王家のサポートを行っているの」


 アレクシアは被っていたフードを捲り、綺麗な銀髪と整った顔立ちを晒す。まるで芸術品のような美しさで、人工的にデザインされたとはいえ芸術的過ぎる容姿であった。


「アンドロイド同士の会話を楽しみたいところではあるけれど、実はマリカ・コノエに用があってココに来たの。店にいるかしら?」


「はい、マリカ様ならいらっしゃいますが・・・しかし、何故マリカ様に?」


「この脚を直してもらおうと思って。シェリー・ヴィン・カイネハインから聞いた話によるとリペアスキルを使えるというじゃない?」


「なるほど・・・分かりました、コチラへどうぞ」


 悪意や敵意を感じ取ることはできなかったので、カティアはひとまずアレクシアと名乗るプロトアンドロイドを店の中へと誘導する。


「マリカ様にお客様です」


「私に?」


「はい。この方はアンドロイドでして・・・・・・」


 店番をしていたマリカはカティアから紹介を受け、興味津々になってアレクシアの手を握った。やはり人肌と寸分違わない感触で旧世界のアンドロイド製造技術の高さに改めて感嘆している。


「アナタがマリカ・コノエね? リペアスキルの使い手の?」


「はい、そうです。はぇ~、アンドロイドって皆可愛いんですね!」


「か、可愛い・・・?」


「とても綺麗な瞳ですし、お人形さんのような顔立ちですもん」


 精巧な人形をスケールアップしたような容姿に見惚れるマリカ。そんな中、アワアワとしているのがカティアで、マリカがアレクシアを褒めて見つめているという状況に我慢ならなかった。


「すとっぷ、すとーっぷですマリカ様! 直すべき箇所は脚ですよ、脚!!」


 カティアは両手を振り回しながら二人の間に割って入り、アレクシアの損壊した左足を指さす。勢いのまま嫉妬心を隠さないカティアにアレクシアはフッと口角を上げて小さく笑い、マリカはよしよしと頭を撫でてあげた。


「も、申し訳ありません・・・錯乱していました・・・・・・」


「心配しなくても私はカティアが一番可愛いって思っているよ」


 客の前で取り乱してしまったことを後悔し、顔を赤くしながらカティアは少し引き下がる。メイドという立場の者としては有り得ない行動だという自覚はあるし、しゅんと反省してアホ毛もしな垂れていた。

 そんなカティアを後で慰めてあげようと考えつつ、マリカはアレクシアの左足に手を添える。


「ここを直せばいいんですね?」


「ええ、頼むわ。内部フレームが折れている上に寸断されているの。私達アンドロイドには自己修復機能があるけれど、これ程のダメージを直すことはできなくてね・・・・・・」


「私のスキルなら問題ありません。カティアも出会った時はボロボロでしたが、私のスキルで今は元気そのものになってます」


 自信満々にマリカはリペアスキルを発動し、アレクシアの脚が光に包まれた。するとスキルの効果はすぐに表れ、破損していたフレームは元通りとなって再び歩行ができるようになり、店の床に足を降ろして動作を確認するアレクシアは満足げに笑みを浮かべている。


「この感覚・・・久しぶりよ。こうやって杖の補助なしに歩くことができるなんてね」


「成功したようで良かったです。特に異常はありませんね?」


「とても調子がいいわ。ありがとう、アナタには礼をしなくてはね」


 アレクシアは肩から下げているポシェットを開け、仕舞われていた厚みのある黒い小包を取り出して差し出す。受け取ったマリカは中身が気になって開封すると、十数枚の金貨が入っているのが見えた。


「こんなに代金を頂けるんです!? 暫くは食うにも困らないですし、結構な贅沢もできるほどの量を・・・?」


「私にとってアナタは恩人ですもの。感謝してもしきれないわ」


 高度な技術の失われた現代においては、アンドロイドの破損した脚を直すのは困難で容易いことではない。なので人間に置き換えてみれば不治の病を治療してもらったのと同じようなモノであり、アレクシアはマリカに多大な感謝をしていた。


「希少なリペアスキルの使い手・・・ふふふ、ようやく出会うことができた・・・・・・私はツイているわね」


「えへへ、お役に立てたなら良かったです」


「ねえ、もっと稼ぎは欲しくないかしら?」


「他にも私にできることが?」


「あるわよ。世界を変えるかもしれない仕事がね」


 高揚しているアレクシアは、店を訪れた時よりもワントーン高い声と共にマリカを指さす。


「アナタのリペアスキルは大きな機械にも効果があるのかしら?」


「どれくらいの大きさかにもよりますけど、時間は掛かりますが可能ですよ。実際に車のような機械だって直すことができましたし」


「そう・・・なら結構。アナタに仕事の依頼をさせてもらうわ。勿論、報酬はちゃんと払うから安心してちょうだい」


 アレクシアとは初対面であるが、金払いの良さは先程の事で分かっているので信頼して頷く。とはいえ仕事の内容を訊かなければ話は先に進まない。


「一体どんな仕事です?」


「フリーデブルクから北に十数キロメートルの場所にて、旧世界で墜落した魔道艦の残骸が転がっているの。そこから魔道推進機関を回収し、直してもらいたいのよ」


「あ~・・・魔道艦、ですか?」


「艦と言っても海に浮かぶのではなく、空中飛行ができる艦よ」


 旧世界に関する資料の中で見たことがあるなとマリカは記憶を呼び起こす。魔道艦とは魔道エンジンを動力とし、海上ではなく空や宇宙をも航行できる航空艦である。今でこそ見る機会もないのだが、旧世界においては複数が建造されていたらしい。


「これは私がお仕えしている女王陛下が望まれていることよ」


 アレクシアは首周りを装飾しているネックレスに軽く触れる。これは女王から信頼された者にのみ与えられる純金製のネックレスで、王家の紋様の形をしたプレートが取り付けられていた。

 このネックレスについては学校でも習うのでザンドロクの民なら知っていて、アレクシアが王家に関わる職にいるのは間違いないとマリカにも理解できた。


「女王陛下が?」


「国家プロジェクトに関する重要なファクターとなり得るの。この仕事に成功したら詳細を教えてあげてもいいわよ」


「分かりました。ともかく残骸の中から魔道推進機関を発見し、私のリペアスキルで直せばいいんですね」


「そういうこと。前払いとしてコレも渡しておくわね」


 再びポシェットの中から金貨入り小包をマリカに渡してきた。こうも気前よく金貨を渡してくる相手など初めてで、富裕層にお宝を売った時よりも高い収入にマリカは舞い上がっている。


「出発は明日の朝にしましょう。では、また」


 アレクシアは小さな笑みを浮かべながら店を去った。

 まさかアンドロイドが来店するなど思ってもみなかったが、彼女のもたらした報酬は更に予想を上回るものである。


「こんだけ儲けることができたんだから、ちょっとはお姉ちゃんにも楽をさせてあげられるね。しかもアレクシアさんの依頼を達成すればもっと貰えるし」


 魔道推進機関とやらについてカティアに訊いておいた方がいいだろう。事前情報があるのと無いのでは仕事にも影響する可能性がある。

 明日に向けて今から気合を入れつつ、今日の夕食のメニューは豪華にしてもいいよねと金貨を握りしめながら考えるマリカであった。


 

  -続く-

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― 新着の感想 ―
[一言] 自の躰での確認でしょうか。王家が魔道推進機関をどう扱うのか、気になる処です。
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