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訪れる静寂

 ついにモンストロ・ウェポンの指揮を執るトゥエルヴの元へと辿り着いたマリカ達。しかし、そのアンドロイドはマザー級の上部に陣取っており撃破するのは簡単ではなかった。

 

「バタムさんがカティア用のキャノンパックを運んできてくれれば・・・!」


 キャノンパックに装着された魔道キャノンは出力が高く、タンクパック用の大型魔道キャノンほどではないが高威力の魔弾を発射することが可能だ。その火力ならマザー級の分厚い装甲状の皮膚も破壊することができるだろう。

 しかし、キャノンパックを輸送するバタムが到着するまで時間を稼がなければならず、マリカはマザー級の触手攻撃を回避しながら多少の焦りを感じていた。


「マリカ様に触れさせません!」


 後方から杖による魔弾で援護射撃を行うカティアは、マリカの背後から迫ろうとする触手を狙撃する。フリーデブルク防衛戦の時のようにマリカが再び刺されるのを許す気はない。

 そんなカティアのすぐ近く、モンストロ・ウェポンを産み出すという特殊な魔結晶が鈍い光を纏い始めていた。異変に最初に気がついたのはカティアで、偵察ユニットのレーダー上でどんどん魔力反応が濃くなっていくことにハッとして振り返る。


「まさか・・・モンストロ・ウェポンを産み出すつもりでは・・・!」


 すぐさま魔弾で魔結晶に攻撃するが表層に弾かれてしまった。

 カティアのメモリにある記録では、その魔結晶は戦地における稼働も想定していたために防御性能を付与されたとある。なので魔力を帯びた魔具の攻撃でも破壊するのは難しく、たった一発の魔弾如きではかすり傷を与えるのが精一杯なのだ。


「エーデリア様、ここは一度退避しましょう。魔結晶がヤバヤバな状態なので」


「そのほうが良さそうですね」


 カティアに匿われているエーデリアの魔力回復量は、まだ戦闘に耐えうるレベルにはない。そのため、今モンストロ・ウェポンが間近に出現した場合、ある程度の自衛はできるが高い確率で殺害されてしまうことだろう。

 二人が離れた直後、魔結晶の光は一層強くなり、内部から黒い影がゆっくりと抜け出るように実体化する。物理的にどうなっているのか不明だが、これが魔結晶によるモンストロ・ウェポンの排出行為らしい。


「しかもマザー級だなんて・・・・・・」


 小型のヒトモドキなら対処もできたのだが、出現したのは忌まわしむべきマザー級だ。一体ですら強敵なのに、このドーム内には合せて二体にもなってしまった。これではキャノンパックが到着しても勝てるか分からないし、なんならその前に全滅もあり得る。


「カティアさん、あの巨体には弱点はないのでしょうか?」


「明確な弱点という弱点はありません・・・脚の付け根を破壊して行動を抑制するくらいです」


「それも火力が必要ですものね・・・・・・わたくし達はかなりピンチに陥ってしまった・・・・・・」


「状況は確かに悪化しましたが、まだ勝機はあります。頼れるお二人が間もなく到着しますよ」


 レーダー反応を確認していたカティアはドーム西側の客席スタンドに視線を移した。するとバンと勢いよく通路に繋がる扉が開き、陽動に出ていたアオナとシェリーが姿を現す。


「アオナ、想定以上に激しい戦闘になっているようですよ。早く援護しないと!」


 頷くアオナと共にシェリーがマリカ達に合流する。彼女達は街中のヒトモドキ達を速攻で撃滅してドームに駆け付けてくれたのだ。


「お姉ちゃん!? ソッチの戦いはもう終わったの!?」


「待たせたね。あんなヤツら如きにウチらを止められはしないさ!」


 大きく跳躍してきたアオナがマザー級の触手を切断する。まだ魔力残量は問題ないようで、漲る闘志がジャイアント・ホークの輝きとなって表れていた。


「それに間もなくバタム様も到着されます。想定より早い到着ですね」


 バタムは運転への適応力があったのか、カティアの計算以上の速度でドームに近づいてきていたらしい。アオナ達の参戦も相まって、これで人類側に大きく優位に戦況が傾くのは間違いない。

 それから三分程経過した後、ドームに車を横づけしたバタムは荷台からキャノンパックを抱えて運び出す。魔導士ではないバタムにはキャノンパックは超重量級の代物であるが、自分の双肩に皆の命が懸かっているという使命感によって走り出した。


「カティアさん、あの扉からバタムさんが」


 野球フィールド外縁部にポツンと存在する避難用に使われる非常用扉がギギッとゆっくりと開き、疲労困憊のバタムがキャノンパックを抱えてのっしりと歩を進める。ドーム内の構造をよく把握していないバタムは非常口から連なる通路を見つけ、そこから中心部を目指してきたようだ。


「ついに来て下さったのですね。でもバタム様は疲れているようですし、あそこまで急がないと・・・・・・」


「わたくしに任せてください。皆さんのおかげで魔力は半分程度回復しました。これならカティアさんを連れて充分にエスパスシフト可能です」


「それではお願いします!」


 エーデリアはカティアを連れて転移術であるエスパスシフトを行使し、バタムのいる非常口まで一気に移動する。


「ありがとうございます、バタム様」


「い、いえ・・・お役に立てたならよかったです」


 カティアは偵察ユニットをパージし、バタムから受け取ったキャノンパックを装着した。そして片膝を付いて照準を定め、トゥエルヴそのものを狙う。


「撃ちます! どっかーん!!」


 砲塔から飛び出した魔力の閃光がビームのように迸り、一直線にトゥエルヴを目指す。しかし攻撃に気がついたトゥエルヴはマザー級を盾として利用し、その巨体に魔弾は着弾した。

 

「くっ・・・ハズレましたか・・・!」


 確かにトゥエルヴへの直撃とはならなかったが無駄な一撃ではない。カティアの魔弾はマザー級の側面に当たり、皮膚の一部を抉っただけでなく触手の付け根をも粉砕したのだ。これで右側面から伸びていた触手は失われ、トゥエルヴ防衛に死角ができたのである。

 だが、それを理解したトゥエルヴはカティアへとマザー級の向きを変え、正面に捉えるように動いた。そしてマザー級の頭部に魔力を集中させて再び魔弾掃射を実行する。


「エーデリア様、バタム様を連れてお逃げください!」


 頷くエーデリアはバタムの腕を掴んで引き寄せ、非常口の中へと避難した。それで魔弾から逃れられるかは分からないが、少なくとも野球フィールド内にいるよりは生き残れる確率は高そうだ。

 二人を見送ったカティアは横に跳躍して魔弾を回避する。しかしキャノンパックの重量が災いして距離を稼ぐことができなかったうえ、着地時に姿勢を崩して転倒してしまった。


「あっ、偵察ユニットが!」


 なんとか被弾を免れることはできたが、先程までカティアがいた場所が焼き飛ばされていた。そこに放置された偵察パックは跡形も無く消失しており、せっかく直してくれたマリカに対する申し訳なさがこみ上げてくる。


「くっ・・・これ以上はやらせません!」


 カティアは再び狙いを定めるが敵のほうが一歩早い。既に次弾の発射体勢を整えており、カティアは自分の敗北を悟るが、


「コッチを見なさいよ、化け物!」


 マリカがマザー級の頭部に向けてジャンプして剣を突き刺す。あまりにも無謀な攻撃だが僅かに射線を上に逸らすことに成功し、カティアを狙った魔弾は客席スタンドを破砕して終わった。


「マリカ様っ!」


「カティア、私に構わずに撃って!!」


「狙い撃ちます・・・!」


 マリカの決死の行動は全てはカティアのためであり、それを理解したカティアもまた期待に応えるべく魔道キャノンを構える。そしてトゥエルヴをロックオンし、最大出力の魔弾を放った。


「カティアちゃんの邪魔はさせないよ!!」


 トゥエルヴは再びマザー級を盾にしようとしたが、同じ手を見過ごすアオナではない。カティアの砲撃を成功させるべく、両手に握ったジャイアント・ホークを全力でマザー級の脚の一本に叩きこんだ。

 その斬撃で脚に大きなヒビが入り、マザー級は動きが阻害されて防御の姿勢を取ることができない。


「当たった・・・!」


 マリカとアオナの協力を得た魔弾は狙い通りに飛翔し、トゥエルヴの下半身を吹き飛ばした。支えを失ったアンドロイドは無表情のままで落下していき、受け身もとれないまま地面と激突して更に損傷する。

 腕がへし折れて動かなくなったトゥエルヴ。動作を停止したのはモンストロ・ウェポンも同じで、威圧感と共に迫ってきていたマザー級二体も擱座して一切の行動を止めてしまった。


「トゥエルヴの指揮機能が壊れたのですね・・・・・・」


 頭部に内蔵されているバイオ量子コンピュータも破損したようで、モンストロ・ウェポンへの指揮能力も失われたようだ。


 魔弾や剣戟の音が消え、静寂が場を支配する。

 モンストロ・ウェポンとの戦いは、今、終わった。



    -続く-

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