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巣窟

 カティアが探知した正体不明のアンドロイドがいる場所へと向かうマリカ達。恐らくはその個体がモンストロ・ウェポンの制御ユニットであり、となれば戦いは避けられず皆一様に緊張した面持ちだ。


「生体反応も多数感知しました。これはモンストロ・ウェポンで間違いありません」


「了解。ここで車を停めよう。敵の支配地域までは徒歩で向かって、様子を確認しながら攻撃タイミングを見計らうよ」


 このまま車で突っ込んでも袋叩きに遭うだけなので、岩陰に隠すように停めて降りる。そして歩きで敵地へと接近し、詳しい状況を見てから作戦を立てて攻撃するという安全策を取ったのだ。


「この先の緩やかな丘陵を抜けた先、廃墟となっている街があるようです。そこを敵は根城としているのでしょう」


「廃墟都市のアンドロイド・・・・・・なんだかカティアとの出会いを思い出すよ」


 フリーデブルクの遥か北に存在する廃墟都市にてマリカとカティアは出会った。壊れていたカティアを拾い、リペアスキルで修復したことによって今の関係が始まったわけだが、その出来事は既に遠い過去のように感じる。実際にはまだ二ヵ月も経っていないのに、それほど二人は濃密で特別な時間を共に過ごしてきたのだ。


「わたしもです。マリカ様との出会いでわたしの時は再び動き出して、とても充実した幸せな時間を過ごすことができています。あの場所に来て下さって、わたしを見つけて下さったこと・・・本当に感謝しています」


「改めて感謝されると照れる・・・てか、なんかお別れ前の言葉みたいだね・・・・・・」


「そ、そういう意味ではないのです! わたしは未来永劫マリカ様に仕えていたいですし、これからもあなたのお傍に置いてほしいという意思は変わりません」


「私だってカティアを手放すなんて絶対にしたくない」


 隣に並んで歩くカティアの手を握るマリカ。こういう時でも心に安らぎを与えてくれる存在は貴重であり、だからこそ一緒に居たい相手だと改めて認識させてくれる。

 偵察パックのレーダーによると、ここから少し先にモンストロ・ウェポンらしき生体反応があるようで、その手前にある緩い丘陵の頂点部に陣取ったマリカ達が目視で索敵を行う。


「うわ・・・化け物の巣窟だなコリャ」


 前方約五百メートル先にある無人の街に複数のモンストロ・ウェポンの姿が確認できた。巡回するように半壊したビルの周囲を回る個体や、微動だにせず道路の真ん中に立ち尽くす個体もいる。


「ヒトモドキが何体もいるね。やっぱりここを拠点としているんだ」


「アンドロイド反応は街の中心部にある野球ドームの位置にあるようです。そこで指揮を執っているのでしょう」


 カティアの指さす先、野球やソフトボールといった競技を行うための球場ドームがある。天井の一部が崩れているが原型は留めており、内部の様子は分からない。


「AS-12型・・・日ノ本エレクトロニクス社と魔道研究所が共同開発した制御ユニット用アンドロイド・・・・・・記録によればトゥエルヴというコードネームで呼ばれていたようです」


 レーダーでは相変わらずアンノウンと示されるだけで型式番号等も不明だが、モンストロ・ウェポンを警備に付けるアンドロイドなど他には思い浮かばない。かつて旧世界において人類に対して牙を剥いた忌むべき相手の名前を呟き、カティアは険しい表情でドームの観測を続けた。


「そのトゥエルヴがあそこに・・・でも辿り着くまでが一苦労だろうね」


「偵察ユニットで得た情報によると生体反応は三十二体です。その内一体は大型であることからマザー級ではないかと・・・・・・」


「あのデカブツか・・・私にとってはトラウマだな」


 マリカの体を触手で貫いたのがマザー級であり、若干の忌避感を感じている。できれば会いたくない相手だが、避けることはできないのだろうなとマリカは額の汗を拭いながら覚悟を決めていた。

 

「けど敵はコッチに気がついていないみたいだね?」


「そのようですね。恐らくトゥエルヴにはレーダー機能が搭載されていないのでしょう」


 数十キロ先のフリーデブルクにいるモンストロ・ウェポンに電波を飛ばして指揮できる能力があるのだから、もしレーダー索敵を可能としているならとっくに見つかっているハズだ。しかし敵は特に防衛線を築いている様子は無く、マリカ達はまだ発見されていないようだった。


「いくら量子バイオコンピュータを搭載しているとはいえリソースやキャパシティは無限ではなく、レーダーを組み込むほどの余裕が無かったのでしょう。トゥエルヴはモンストロ・ウェポンの視覚器官とリンクしているので偵察機のように運用できますし、それで機能を代用していたのだと思います」


「あ~・・・つまりモンストロ・ウェポンがトゥエルヴの目となり手足となり、外の情報を得ているんだね」


「はい。本来はそれで充分なのでしょうが、魔導士の皆様によって個体数を減らされたことで街の防衛用に集中配置するのが限界だったのですね」


 トゥエルヴは少ない戦力を分散させて自分の警備に空白ができることを嫌がったのだろう。そのため、攻め込まれても対応できるようドームを中心にして周囲に配置したのだとカティアは推測する。


「なあマリカ、どう攻撃を仕掛ける?」


「まずはお姉ちゃんとシェリーさんに街の西側から突撃してもらって敵の注意を引いてもらう。その隙に東側から残りのメンバーで街に潜入してドームを目指すってカンジかな」


「単純明快でいいね。しかもあたしにはステルススキルがあるしエーデリアにはエスパスシフトスキルがあるから、もし何かあっても多少は強引にドームまでの距離を詰められるぜ」


 戦闘力が高い年長者二人なら囮という大役もこなせるだろう。

 アオナとシェリーはそのマリカの案に頷き、街の西側へと回り込んでいった。


「カティアは装備を変更する? キャノンパックを車に積んであるけど」


「このまま偵察ユニットで行こうと思います。というのも、トゥエルヴがわたし達に気が付いた場合に逃走する可能性がありますので、逃がさないためにも常に位置を監視しておきたいのです」


「そうだね。残りの敵の数や、お姉ちゃん達の動きも把握する必要があるしね」


 通信機などは無いので、姉達の戦況を把握するためにも偵察ユニットが不可欠なのだ。


「ですがトゥエルヴとの決戦では火力が欲しいですね・・・・・・」


「確かにね・・・となると・・・・・・」


 マリカは顎に手を当てて考え、何かを思いついてバタムに向き直る。


「バタムさん、一つ頼まれてくれませんか?」


「私にお手伝いできることがあるなら喜んで」


「私達が合図をしたら、車を運転してドームまで来てほしいんです。いくらお姉ちゃん達が敵を引きつけてくれるとはいえ、戦場に足を踏み入れることになってしまいますが・・・・・・」


 マリカやカナエ達が抱えて運ぶという手段もあるがキャノンパックは大きく重量があるため、いくら魔力で肉体を強化している魔導士であっても疲弊と消耗は免れられない。それがトゥエルヴとの戦闘で足を引っ張るかもしれず、なら安全策を取るしかないと判断したのだ。


「やりますよ。私だけ傍観しているのは心苦しいですから」


「ありがとうございます。車の運転は簡単ですから・・・・・・」


 マリカがエンジンの掛け方や運転方法を軽くレクチャーし、バタムは多少自信なさげではあるが呑み込めたようだ。本当なら実際に運転席に座って訓練するべきであるが、そんな時間的余裕はない。

 

「でも合図はどうやるんです?」


「信号弾を使います。わたしの偵察ユニットに備え付けられているモノで、上空に打ち上げて花火のような虹色の光を放つのでスグに分かりますよ」


「ナルホド」


 偵察ユニットの側面には人間の腕くらいのサイズの筒が取り付けられていて、ここから空に向かって信号弾を上げることができる。旧世界においても味方への合図として利用されていた代物で、遠距離からでもハッキリと視認することが可能だ。

 バタムは駆け足で車へと戻り、マリカ達はアオナとは反対に街の東側へと移動する。






「よし、始めるよ。敵を引きつけるのがウチらの役割だけど、ただ引きつけるだけじゃなくて全滅させてやろう」


「ですね。エーデリア達の負担を少しでも減らすためにも」


 二人の魔導士は魔具を構えてモンストロ・ウェポンに向かって突撃する。それに気がついて複数体が勢いよく寄ってくるが、これは作戦通りでアオナはしてやったりとニヤついていた。


「そうそう・・・もっと来いやぁあ!」


 両手に握ったジャイアント・ホークの強烈な一撃がヒトモドキの異名を持つモンストロ・ウェポンを粉砕する。もはや刃物というより鈍器のような攻撃で、この攻撃を見れば普通の魔導士なら恐れを抱いて逃げ出すか戦意喪失するだろう。

 しかし生物としての感情を持たないモンストロ・ウェポンは一直線に突っ込んでくるだけだ。


「アオナはわたしが守ります! 騎士のプライドにかけて!」


 素早い剣戟がアオナに飛びかかろうとしていたヒトモドキをスライスするように切り裂く。


「さすがシェリー、頼りになるぅ」


「任せてください。あなたを傷つけさせはしません」


「フッ・・・後は頼むよ、マリカちゃん」


 命を預け合う二人は背中を合わせて取り囲むように迫る化け物達と対峙し、マリカ達の勝利を願うのであった。



  -続く-

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