仇討ち、激昂のアオナ
負傷したマリカを持ち前の特殊のスキル”ハイレンヒール”で治療したアオナは、魔具を装備して戦場と化した街の外に出る。
最初にモンストロ・ウェポンの襲撃を受けた街の西側は徐々に魔導士優勢の戦況に移り変わりつつあるも、防衛戦力の手薄な北側と東側は厳しい状況が続いていた。特にマリカを瀕死に追い込んだ”マザー級”と呼ばれる巨体の出現した北側は被害が大きく、一刻も早い救援を欲しているようだ。
「待ってて、シェリー。今ウチが行くから」
精鋭揃いの王都騎士団所属のシェリーなら簡単には負けないだろうが、いくら魔導士とはいえ万能ではない。その魔力が尽きれば普通の人間と変わりはないし、これ以上大切な人が傷つく姿など見たくないと、アオナは全速力で戦地を駆け抜けていった。
「チィ・・・こうも押し込まれるとは!」
そんな中、シェリーは文字通りの死闘を繰り広げていた。
身に纏う鎧の防御力もあって、まだ致命的なダメージは受けていないものの、徐々に街の近くへと追い込まれつつある。というのも、他に戦える魔導士の数が絶対的に足りておらず、魔力障壁を再生させたマザー級の侵攻を食い止めることができずにいるのだ。
「まったく何なの? この化け物は・・・・・・」
マザー級は魔導士に目もくれず、低速ながらも進路を曲げずに街を目指している。どうにかして足を止めようと接近を試みるが、周囲に守護神のように展開する人型のモンストロ・ウェポンに阻まれてしまう。
「王都騎士団だって言っても敵の侵攻を止めることができなきゃ意味が無い・・・!」
だがシェリーの活躍によって少しは足止めできているのも事実だ。
敵の一体を切り捨てたシェリーに対し、三体が飛びかかろうとする。回避もままならないために剣を構えて防御の構えを見せるが、
「ソイツらはウチに任せて」
「アオナっ!?」
側面からアオナの声が聞こえ、敵もそちらに注意を向ける。
「シェリーにまで手出しをさせるものかよ!」
人間の身長程もある長大なジャイアント・ホーク二丁を軽々と担ぎ、アオナは脚に力をグッと入れて地面を蹴った。
瞬く間にトップスピードへと加速したアオナはヒトモドキの一体を強襲する。
「叩き斬る!」
ジャイアント・ホークの重量とアオナの魔力で強化された腕力が合わさった渾身の一撃が振り下ろされ、それに対してヒトモドキは魔具のように硬化した両腕で防御を行うも、まるで紙を切るように簡単に突破されて頭部から真っ二つとなる。フルパワーのアオナの攻撃はシェリーであっても受け止めることなど不可能で、回避以外に命が助かる方法は無い。
シェリーを襲った残りの二体が距離を取って立て直しを図るが、
「逃がすか!」
それを逃がすアオナではなく、散開した敵の一体に向かって跳躍して背後から粉砕するように叩き斬った。更にもう一体も瞬く間に撃破され、マリカを傷つけられて怒りに燃えるアオナ相手では生物魔道兵器のモンストロ・ウェポンも雑魚と化している。
「怪我はない、シェリー?」
「はい、わたしは大丈夫です。それよりマリカさんは?」
「ウチのハイレンヒールで治したよ。今は西門で休ませてる」
「良かった・・・でも、ごめんなさい。わたしが近くにいながらも守ることができなかった・・・・・・」
「シェリーがいてくれたから、カティアちゃんがマリカちゃんを運ぶ余裕ができたんだよ。だから、ありがとう」
その言葉にシェリーはアオナの器の大きさを実感し、精巧な装飾の施された剣を握りしめる。人々を守る騎士団員として、これ以上被害が増えるのは何としても防がなければという使命感を沸き上がらせていた。
「あのデカブツがマリカちゃんの仇か・・・・・・」
「見たこともない敵です。カティアさんは魔物ではなく、何か別の種だと仰っていましたが・・・・・・」
「どっちにしろウチのブッ殺すリスト入りしているのは明確な事実だよ。マリカちゃんが受けた痛みを万倍にして返し、仇討ちをさせてもらう!」
立ち塞がる敵を薙ぎ払いつつ、二人はマザー級へと距離を詰めた。だが魔力障壁に阻まれて至近距離まで接近することはできない。
「魔力障壁を破壊しないことにはヤツの血肉を浴びることはできないか・・・・・・」
「怖い言い回しですが、その通りです。前回はカティアさんの魔弾による援護を受けたおかげで一部を崩すことができましたが、今回はちょっと厳しいですね」
「こんなの叩き割るまでのこと!」
アオナは両手のジャイアント・ホークに魔力を集中させ、全力の一撃を魔力障壁に与える。
魔力同士の激しい干渉によって閃光が散るが、まだ破壊には至らない。
「次はわたしが!」
そこにシェリーの火炎剣による斬撃が繰り出された。灼熱を纏う剣戟によって追加のダメージが入るも、魔力障壁は亀裂が生じるだけで砕くことができず、シェリーは舌打ちしながら次なる攻撃を敢行しようとする。
だが連戦によって魔力と共に体力を消費していたシェリーは膝を付いた。重りが体にのしかかったような感覚で、もう立ち上がることすらできず剣を落としてしまう。
「くっ・・・! 敵を道ずれにすることもできずに・・・!」
モンストロ・ウェポンがシェリーにトドメを刺すべく忍び寄り、棍棒のような魔具を振りかざした。もはやシェリーにこれを躱す力もない。
「やらせるわけには・・・!」
そこにアオナが割り込み、棍棒を弾いて逆撃を叩きこんで沈黙させる。
「アオナ、敵の魔力障壁が!」
アオナ達が離れた隙に、連撃で消耗していたマザー級の魔力障壁が徐々に回復を始めていた。このままでは完全に魔力障壁が再生してしまい、いよいよ打つ手がなくなってしまうが、
「アオナ様、シェリー様! そこを動かないでください!」
「カティアちゃん!?」
いつの間にか戦線復帰していたカティアがパージした大型魔道キャノンを装着し直し、アオナ達が狙っていた魔力障壁の部位に対して砲撃した。
「撃ちます! どっかーん!」
この一撃によって魔力障壁は大きく砕ける。ダンプカーすらも通行できそうなほどの大穴となり、カティアは無限軌道を唸らせて突入していく。
「アオナ、カティアさんを支援してあげて! わたしは一人でも平気ですから」
「一人になんてしておけるか! ウチの目の届く場所に居てくれなきゃね」
「ア、アオナ!?」
魔力の少なくなったシェリーをオプションユニットのように背負い上げ、アオナはカティアの後を追う。果たしてこの状態のシェリーが何の役に立つのかは不明だが、少なくともアオナのやる気アップには繋がるようだ。
「カティアちゃん、どうしてここに? てっきりマリカの傍にいるとばかり」
「これはマリカ様の御命令ですので! アオナ様と共に敵を討つようにと」
メモリーに刻まれたマリカとのやり取りを想起するカティアは、与えられた指令を思考回路で反復する・・・・・・
時は少し戻り、アオナが西門から出ていった直後の事である。
「ごめんカティア、迷惑かけちゃったね」
「迷惑なんてことは全くありません! むしろ、わたしはマリカ様をお守りすることができず・・・・・・」
アオナによる治療を受けたマリカは傷こそ治ったものの、まだ体力は回復していないためにぐったりとしていた。その体に抱き着くというよりは、ガッシリとしがみ付いてカティアは離れようとしない。
「私が油断しちゃったからさ・・・・・・まあそれはともかく、私のことよりもお姉ちゃんを手助けしてあげてほしいんだ」
「わたしはマリカ様の元を離れたくありません!」
「はは、ありがとう・・・でもここは安全だから心配しなくても大丈夫。でもお姉ちゃんは戦場に、あのマザー級のいる場所に向かったんでしょう? ならお姉ちゃんもピンチに陥る可能性があるから守ってあげて。それが今の私の願い」
「マリカ様・・・・・・」
「どちらにせよ、あの化け物を倒さなければ街ごと私も殺されてしまう。カティアを危険な戦いに赴くように指示するなんて私はカスだしご主人様失格だけど・・・頼めるかな?」
「マリカ様は最高の、わたしにとってお慕いするべきお方です! あなたの為なら、わたしはどんな事もすると誓っているのです!」
マリカの自虐に反発するように真剣に訴える。カティアはマリカをカスなどと微塵も思っていないし、言葉通りにマリカの為なら世界だって敵にする覚悟すらあるのだ。
「承知いたしました。アオナ様と共にモンストロ・ウェポンを撃破し、マリカ様を今度こそお守りします!」
「本当にありがとうね。この戦いが終わって帰ったら、逆に私がカティアになんでもしてあげるから」
「なんでも・・・・・・ハッ! いけない、わたしとしたことが邪な妄想を・・・・・・」
「一体どんな・・・?」
「な、内緒です! 出撃しますね!」
恥ずかしがるようにカティアは赤面し、膝を曲げて無限軌道を接地させ、急加速して門の外に行ってしまった。
その後ろ姿に苦笑しながらも、動けないマリカは全てを託す。
瞬時に回想を終えたカティアは気を引き締め、マザー級の魔弾を回避しながら荒れ地を無限軌道の履帯で走り回る。重戦車並みの火力を有しながら軽戦車よりも小回りが効くので、このタンクパックは戦車が目指した究極系の装備と言えるだろう。
「マリカ様の願いを実現するのが、メイドアンドロイドであるわたしの役目!」
二門の大型魔道キャノンでマザー級を照準し、決着を付けるべく斉射するが、果たして・・・!
-続く-