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和解の姉妹

 コノエ・エンタープライズにて、カイネハイン家の姉妹が再び顔を合わせる。一度は喧嘩のような言い合いになってしまったが、二人は周囲のアドバイスを聞いて冷静になり、今度は正面から話し合う意思を持って口を開いた。


「エーデリア、戻ってきてくれてよかった」


「先ほどは申し訳ありませんでした。つい取り乱してしまって・・・・・・」


「いえ・・・わたしのほうこそ、もっとちゃんとエーデリアの話しを聞いてあげるべきだったと反省しています」


 カイネハインの名を持つ騎士として、与えられた任務に忠実であろうとするシェリーの生真面目さがアダとなって先程は叱ってしまったが、アオナとの会話で姉としての想いを捨てるべきではないと気が付いたのだ。


「聞かせてください。エーデリアの気持ちと、今どうしたいのかを」


「わたくしはディザストロ社から、お母様の元から離れたいのです。お母様の考えには付いていくことができませんし、あの虚飾で飾られた家を出て新しく人生を始めたいのですよ」


「ふむ・・・新しい人生をどう生きるかの計画はできているのですか?」


「まだ全然です・・・衝動的に飛び出してしまったので、何も思いついてはいません」


「自立を考えるのは素晴らしいことだと思いますが、それと同時に難しいことでもあります。それでもいいのですね?」


 シェリーの言葉にエーデリアは頷くが、漠然として具体性の無い自立案は不安なものでしかない。エーデリアにまだ子供のような甘さがあるのはこの場にいる誰もが思っていることで、マトモな大人からすればエーデリアの考えは失笑ものだ。


「まあ一人なら厳しいでしょうけど、エーデリアの傍にはあたしがいます。あたしが支えるので心配はいりませんよ!」


「そ、それは頼もしいですね・・・?」


 正直カナエのことはよく知らないし、トレジャーハンターを名乗るような人間を信用するのもどうかと思うが、エーデリアとカナエの間には確なる絆があるのはシェリーにも見てとれた。それはシェリーとアオナの関係に似ているようで、シェリーは少し微笑ましく感じている。


「姉妹とは似るものなんだなぁ。テキトーな自堕落人間を一番の友人にしてしまうのだから」


「アオナさんとあたしは似た者同士ですからね。でも、あたし達のような人間って殺伐とした世界に丁度いい性格だと思うんですよ」


「うんうん。真面目なだけでは疲れてしまうから、緩衝材のような役割で支える存在が必要であろうよ」


 と、アオナとカナエはドヤ顔でサムズアップする。

 二人の言い分はもっともで、エーデリアもシェリーも二人の楽天的で軽い性格に励まされてきたのは間違いないことであった。


「姉妹で似るってつまり、マリカちゃんもウチと好みが似ているという可能性が・・・?」


「それはあるかもね。カティアは勤勉で純真だし、そういう相手をコノエ家の人間は好むのかも」


「ウチらは不真面目だから、見張ってくれる正気な人がいないとダメダメなんだよね!」


「そこは同じにされたくないな・・・・・・」


 好みと言われたカティアは再び体内が高温となって緊急停止寸前だ。しかし今回はギリギリで耐え、ショート寸前の思考回路が必死に理性的な感情を精製しようとフル稼働している。


「・・・いいでしょう。お母様にはわたしから話をしておきます。エーデリアは自らの新しい道を模索するために旅に出たとでもね」


「お姉様・・・・・・」


「ですから、自分からカイネハインの名を捨てることはありません。この事を聞いたお母様がどのような判断を下すかは不明ですがね」


「ありがとうございます。お姉様にもご迷惑をおかけすることになりますけれど・・・・・・」


「気にすることはありません。わたしは姉なのですから、妹のためにできる努力はしますよ」


 エーデリアを捜索して連れ帰るという任務には失敗することになるが、それで叱責されても構わないとシェリーは腹を括っている。あの厳しい母親に反抗したエーデリアに感心しているし、ここまでエーデリアを追い込んだ母親への怒りがあるからだ。


「せっかく王都を出てきたのですし、暫くはわたしもフリーデブルクに滞在するつもりです。なので何か相談事があれば頼ってください、エーデリア」


「はい、お姉様。わたくしもお姉様を安心させられるように将来を考えたいと思います」


 どうにか一件落着となったようだ。エーデリアは姉の協力を取り付けることに成功したことで、家出をしたという後ろめたさが和らぎ、気持ちも少し楽になる。


「ウチも一応は姉なので、マリカちゃんのためにできる事は何でもするつもりだから!」


「なら、まずはちゃんと店番してちょうだいね」


「へーい・・・・・・」


 ピリピリとした緊張感も解け、ようやく平和な雰囲気に皆が包まれる。

 マリカは久しぶりに再会した友人達と、そして新たに出会ったカティアとの輪の中で心からの笑顔になるのだった。






 その日の夜、マリカ宅にて食事会が催される運びとなり、マリカとカティアが調理を行って準備を進めていた。ちなみにアオナはシェリーと街の繁華街に出ており、二人きりの時間を楽しんでいるようだ。


「マリカさん、わたくしもお手伝いさせてくださいな」


「エーデリアはお客さんなんだから、ゆっくり待っていて。そんな豪華な食事は用意できないけどから期待されると困るけどね」


 苦笑いを浮かべながらエーデリアをリビングに通す。お客に手伝わせるのは気が引けるのもそうだが、お嬢様のエーデリアは料理が壊滅的にヘタクソなことを知っているので台所には立たせたくないという理由もある。


「そうだぞ、エーデリア。ウチらは期待せず待ってればいいのさ」


「カナエ、アンタは手伝いなさい」


「なんで!? 客だぞあたしも!」


 カナエはマリカに首根っこを掴まれて連れていかれ、抗議しながらも台所に消えていった。その姿を見送るエーデリアは、求めていた安らぎがかえってきたことを実感している。




 そうして完成した料理を味わいつつ、カナエを中心にまるで宴会に参加しているようにマリカもはしゃいでいるようだ。アルコールもないのに普段よりもテンションを上げている様子を見るに、よほどカナエ達とは気心の知れた仲であることが伺える。

 暫く騒いでいたマリカは疲れたのか、カティアの太ももを枕にして寝落ちしてしまった。それを愛おしそうに見つめ、カティアは愛撫そのものの手つきでマリカの頬を撫で上げる。


「マリカは寝ちゃったのか」


「はい。安らかな寝顔で」


「なんか死んだみたいな表現だな・・・・・・」


 カティアは近くに置いてあったタオルケットをマリカに被せ、主の安眠のためにアイマスクも付けてあげた。


「カティアさんはマリカさんのことが本当にお好きなのですね。わたくしの家にもメイドはいましたが、尽くす度合が大きく違うように感じますよ。仕事としてではなく、マリカさんを真に想うからこその忠誠心のように思えます」


「仰る通り、わたしはマリカ様に絶対的な忠誠を誓っています。マリカ様のためならどんな事だってしますし、それはマリカ様がわたしの中で特別な存在だからです。わたしを見つけて直してくれた恩義にも報いなければなりませんし」


「まさに運命の出会いとなったわけですね」


 カティアは頷き、運命という科学的ではない不確かなものに感謝していた。これはまさに人間的な思考で、他のアンドロイドも同じような考えを持つのかは分からないが、恐らくはマリカと接する中で今のカティアが形成され、高度思考が可能なアンドロイドは自己の置かれた環境によって性格などが変動するのだろう。


「実は、わたくしとカナエさんが出会うキッカケを作ってくださったのはマリカさんなんです。つまり良い運命をもたらして下さった恩人ということですね」


「キューピットのような役割ということですか?」


 それは初耳と興味を示すカティア。マリカの関わることなら何でも知りたいし、なんなら自分が知らない学生時代のマリカを知っているエーデリア達に嫉妬心すらある。


「こちらの学校に来た初めの頃、王都一番街の出身ということで不良グループに目を付けられ、お金を脅し取られることがあったのです。大切にしていた髪留めを壊されたこともあって・・・・・・」


「そんなことが・・・・・・」


「髪留めはマリカさんに直してもらえたのですが、それでも嫌気が差したので退学して王都に帰ろうと思いました。しかし、被害者が泣き寝入りするのはオカシイとマリカさんが引き留めて下さって、そうした不良達に対する打つ手を考えてくれたのです」


 その打つ手とやらにカナエが関わっているらしく、エーデリアに続いて意気揚々と話し始めた。


「マリカとは以前から友達でさ、相談されたんよ。クラスメートが不良に金を毟り取られているからどうにかできないかなって。あたしも不良にカテゴライズされる人間だが良心は一応あるし、トレジャーハントが上手くいっていなかった時期でむしゃくしゃしてたんで、鬱憤晴らしに丁度いいって協力することにしたんだ」


「は、はあ・・・・・・」


「で、不良共に呼び出されたエーデリアに付いていって、ステルススキルを使って近くに待機することにしたのさ。金を要求したタイミングでいよいよ登場してな、こんな薄汚いことしてんじゃねぇってキレてやったのよ」


「それで解決したのですね」


「いや、アイツらは数が多かったし、逆にあたしをナメ腐るようなコトを言いやがって・・・・・・だから全員ブッ飛ばしてやった」


 なんともカナエらしい直球な解決方法だ。


「マリカとしては奪われた金をあたしが取り戻してくる算段だったんだろう。ステルススキルで近づけば気取られないし、あたしのトレジャーハンターとしての手癖の悪さなら簡単なことだしな。いわゆる目には目を歯には歯をってヤツに近いやり返しだけど、それは根本的な解決にはならない。またエーデリアに寄ってたかってくるのは分かり切っている」


「ですね。エーデリアさんに関われないようにしなければ、延々と事態は繰り返されてしまいますね」


「だろ? ああいう輩は口で言っても聞かないし、実力行使で分からせてやるしかないんだ」


「ですが、暴力沙汰となればカナエ様の学校での立場も悪くなってしまうのでは?」


「後先考えないのがあたしの良い点であり、悪い点でもある。まあともかく後悔は無かった。決して褒められるようなやり方じゃねぇけどさ」


 本来なら手を出さずに解決できれば最善だろう。だが世の中は綺麗事でハッピーエンドを手繰り寄せられるほど純粋ではない。時には必要悪でしか救えないものもあるのだ。


「けど運の良いことにお咎めはナシだった。不良共は街で窃盗もしていたから警察や衛兵にマークされていて逮捕秒読みの段階だったんだ。その一件を機に不良共はお縄にかかり、むしろあたしは被害者を助けたということで表彰までされてな」


「表彰されている時のカナエさんったらオドオドして可愛かったですよ。それに、わたくしを助けて下さった時のカナエさんはカッコよかったです」


「よせやい、照れるじゃんよ」


「ふふ、照れるカナエさんも良きです。あれ以来わたくしはカナエさんと交流するようになり、今では親友すらも超えた存在になったのですよね」


「ああ。というわけで、あたし達を引き合せてくれたマリカには感謝しているんだ」


 当の本人は眠ったままで、まさかカナエから感謝されているなどとは微塵も想像していない。マリカがこの場にいる者達に与えた影響は計り知れないが、きっとそれも無自覚だろう。

 カティアに手を握られたマリカは自然と握り返し、幸福な夢の中に意識を落とすのであった。



  -続く-

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