爆裂、マインレイヤー
エーデリアによって拘束を解かれたカティアは機雷投射ユニット”マインレイヤー”を背中に装備してマリカと合流する。しかし再会を喜ぶ暇はなく、複数体のグロット・スパイダーに囲まれて窮地の真っただ中にいることに変わりはない。
「カティア、その装備で勝てる?」
「マインレイヤーは前線戦闘向きではありませんが、使い方次第でなんとかできるはずです! 搭載された十発の機雷で敵を仕留めてみせます!」
両手でガッツポーズを決めるカティアに対し、一体のグロット・スパイダーが迫って蜘蛛の糸を吐き出した。これに絡めとられれば最後、再び囚われてしまうが、
「そうくるのなら・・・ポイっと!」
その場から動くことなく敵に向けてマインレイヤーから機雷を放つ。と言っても派手に撃ち出すようなカッコいいものではなく、射出口から放り投げられるような雑なものであるが。
ともかくカティアの作戦通り、蜘蛛の糸は投射された機雷を絡め取る。そしてこれを獲物と勘違いしたグロット・スパイダーはそのまま口元へと糸を戻した。
「今です!」
カティアは機雷を起爆させる。カッと真っ赤に発光し、甲高い炸裂音と共に爆煙が巻き上がった。
「うまくできました・・・!」
グロット・スパイダーの半身を吹き飛ばすだけの威力があり、これで一体を倒すことができたものの敵はまだ残っている。
「同じ手は通じなさそうだね・・・・・・」
先行した仲間の死でマリカ達を脅威的な相手と判断したのか、今度は集団で襲い掛かってきた。多勢に無勢とはこのことで、いくら火力のある装備を手にしたカティアがいるとはいえ、正面から戦うのでは勝機は薄いと言わざるを得ない。
「マリカ様、ここはわたしに付いてきてください!」
「どうするの?」
「とりあえず逃げます!」
カティアに続き、マリカは接近する敵から逃走する。だがこれはカナエ達を見捨てての行為ではなく、カティアの策を見抜いたからこそだ。
「誘導に引っかかってくれたなら!」
背後に迫るグロット・スパイダーの群れは恐怖そのものであり、追いつかれそうになってマリカは発狂しそうになるがカティアは冷静だった。これはマリカが傍に居るからの精神安定で、なんとしてもマリカを救おうという使命感があるからこそである。
「ポイポイ!」
走りながら残る九発の機雷全てを投射し、飛びかかられる寸前で起爆させた。一斉に爆裂することによる相乗効果で火力は単発時よりも増し、地面をも抉る一撃となってグロット・スパイダー達を包み込む。
「倒せた・・・!」
焦げた残骸を撒き散らしてグロット・スパイダーの群れは四散していた。俊敏性に優れる相手を一体ずつ接近戦で仕留めるのは困難であったろうが、今回は爆発物による面制圧攻撃が功を奏したと言えるだろう。
「ご無事ですか、マリカ様!」
「な、なんとか・・・でもカティアの脚に破片が刺さって・・・・・・」
近距離での爆発であったことから、その爆風にマリカとカティアも巻き込まれた。しかしこれを予測していたカティアはマリカを抱き寄せて自分を盾とし、機雷の破片から守ってみせたのだ。
「このくらい平気です。痛覚はカットしていたので痛みはありません」
金属片を引き抜き無事をアピールするカティア。人間であれば痛みで歩くこともままらないだろうが、アンドロイドのカティアであれば機能に問題は無く歩行もできる。
「すぐにリペアスキルを使うからね!」
カティアの負傷箇所に手を当て、マリカはスキルを発動する。魔力が青白い燐光となって傷口を優しく覆い、瞬時に元通りの人工皮膚が再生された。
「ありがとうございます、マリカ様」
「へへ、感謝なんていいよ。私も助けられたんだしね」
「いえ、元はと言えば捕まってしまったわたしの失態なので・・・・・・あっ、カナエ様達もお助けしませんと」
「だね」
敵を殲滅することには成功したが捕まっているカナエ達はそのままだ。
マリカとカティアは蜘蛛の糸に自分が引っかからないよう気を付けながら二人を救出するのだった。
激戦を終えたマリカは、リペアスキルを用いてトロッコ用の線路を修復してから地上へと帰還した。閉鎖的空間である地下は息苦しさがあったため、空を見上げて澄んだ空気を吸い込むことで開放感を感じる。
「やっと地上に出れた・・・・・・」
「皆さんお疲れ様でした。それと、わたくしの都合に付き合って頂いたばかりに危険な目に遭わせてしまい申し訳ありません・・・・・・」
「友達が困ってるなら放っておけないし、全員無事だったし謝ることはないよ」
「ありがとうございます、マリカさん。グロット・スパイダーに連れ去られていた作業員の方達も救うことができればもっと良かったのですが・・・・・・」
巣の調査の結果、行方不明となっていた作業員と思わしき遺体が数体発見された。それらは体の一部を喰い破られた状態で放置されており、生存者は一人もいなかったのだ。
疲弊してボロボロのエーデリアに、現場責任者が恐る恐るといった感じに近づいてくる。
「エーデリア様、どうでしたか?」
「地下に巣食っていたのはグロット・スパイダーで、連れ去られた方々はお亡くなりになっていました・・・・・・」
「そうですか・・・・・・残念です」
過酷な労働環境で共に働いてきた同僚はもはや戦友であり、その戦友を失った悲しみに現場責任者は帽子を取って静かに黙祷を捧げた。
しんみりとした雰囲気が広がる中、その空気をブチ壊す存在が無遠慮に現れる。
「おやおや皆さん、工事作業のほうはどうなっているのですか? こんな所で集まって楽しいティータイムのお時間?」
カッチリとしたスーツに身を包んだ、いかにも企業幹部といった格好の者数名が嫌味ったらしく現場責任者達に問いかけた。
「エーデリア、アイツらは誰だ?」
「ディザストロ社の幹部ですよ。今更なにをしに・・・!」
カナエの問いかけにエーデリアは険しい表情で答え、ディザストロ社幹部の前に出る。このような事態を招いたのは社の上層部の怠慢と、現場の声を無視してきたことが原因であり、エーデリアはそれを抗議せずにはいられない。
「あらエーデリア様、ごきげんよう。アナタは本社周囲の草刈り業務を命じられているハズなのに、何故ここにいらっしゃる?」
「草刈りなんかしている場合ではなかったからですよ! それより、ここで起きた事故や、作業員が行方不明となる事象について報告を受けていたのでしょう? 何故放置していたんですか!?」
「放置なんて人聞きの悪いことを仰る。だから我々がわざわざ来たのです」
「どうせ作業に遅れが出ていることから母にせっつかれたのでしょう? これ以上の遅延が出れば責任問題となるから、自分達の保身を考えての行動で部下達を慮っていないのは分かり切っています」
「やれやれ・・・・・・」
幹部達はエーデリアを嘲笑い、見下すようにして高圧的に話しを続けた。
「我が社の社訓である”服従”と”忠誠”をお忘れか? これはつまり、下々の社員は命を懸けて業務に取り組み、会社のために犠牲になる覚悟を持てという意味なのですよ。ですから事故だの行方不明などというのは些細な事であり、そもそも社員のことを慮る必要もないのです。我々は遅延を解消するべく、この現場にいる役立たず共にもう一度社訓と社会の厳しさを叩きこみ、更に効率的な業務遂行ができるよう指導を行います」
「そんな無茶苦茶な!」
「ディザストロ社の幹部なら上級国民なのですから、そう言う権利もあるのです。アナタのように愚かしくも会社に異を唱える社会不適合者には分からないでしょうが。まあどちらにせよ草刈り専任者のエーデリア様が口を出すことではありません。さあ、お帰り下さい」
邪魔者扱いされて締め出され、エーデリア達は地下工事現場を後にする。これ以上は何を言ったところで無駄だろうし、長居する意味もない。
「アイツら気にいらねェ・・・ケツにナタを突っ込んでやりたい気分だよ。勿論刃先のほうでな」
「落ち着いてください、カナエさん。ああいう連中には関わらないのが一番ですよ。今回のことでよく分かりました」
「そうだがさ・・・しかし会社に戻ったら大変だな。アイツらにも目を付けられたんじゃあな・・・・・・」
「いえ、わたくしは会社には戻りません」
「えっ?」
キッパリと言い張り宣言するエーデリア。その言葉に驚いたのはカナエだけではなく、マリカも目を丸くしている。
「戻らないってもさ、そんじゃあどうするの?」
「それについてですが・・・・・・あの! わたくしをフリーデブルクに連れていってください!」
-続く-