xx日目――入学式
今年の桜は、入学式にぴったり合わせて、満開になった。
俺諸星優は、今日から中学一年生になる。
「優、何組だった?」
「俺は3組」
「えー! 離れちゃったじゃん!」
「俺は優と一緒ー!」
小学生の頃からの変わらないメンツで、クラス表を見てはしゃぐ。自分では理由はわからないけれど、昔からこうやって、俺の周りには人がいた。
「あ、あの、何組ですか?」
「え。3組だけど」
「きゃー! 一緒! よろしくー!」
嵐のように騒いで消えていく女子生徒は、ちょっとしたメイクをしていて、いかにも今時の子って感じだった。
「いいねえ優くん、モテますねえ」
「優がモテるのはいつものことだろ」
「いい加減彼女作ったら?」
「いや、そういう感じで作るもんでもねえだろ」
恋愛に興味がないわけではないけれど、これ、っていう女の子は特に今まで見つからなかった。寄ってくる女の子が、さっきの子たちみたいに、最初から俺に好意があるとわかっているからだろうか。
「捻くれてんな」
なにが? と問う友人に、なんでもないと笑って返す。
ふと。クラス表を見上げる、ずいぶん小さな女の子を見つけた。
その子は一人で、生徒の平均身長に合わせた高さに貼ってあるクラス表を、背伸びをして見つめている。自分の名前を探しているのだろうか。
「ちょっと、外す」
「おっ、さすがイケメン。助けに行くんー?」
「るっせーなー」
茶化す友人を背に、わかってんなら助けてやれよ、と思う。
女の子の近くまで行くと、ざっと20cmくらいは身長差がありそうなことがわかった。
肩で二つ結びをしている、おさげって言うんだろうか。真っ黒な髪が、俺の周りにいる女の子にしては珍しくて目を引く。
「名前、見つからないの?」
「えっ、……はい」
驚いた様子で俺を見上げた女の子は、本当に小さくて、華奢だった。
きっちりと着られた制服は、それでもぶかぶかで、たまに見える首元が、――紫?
「あの、丹生、です。牡丹の丹に、生きるで、にい。」
「あ、うん。ちょっと待ってね、探すから」
紫が気になって、それでも女の子の名前を探す。
珍しい苗字は、すぐに見つかった。
「あった、3組。……俺と一緒だ」
「ありがとうございます」
俺と一緒だと言うことには触れずに、丹生さんはぺこりと頭を下げた。さらに小さくなった体に対して、俺もなんだかお辞儀をしてしまう。
「じゃ、俺行くから」
「はい。また、教室で」
ああ、ちゃんと聞いてはいたんだ。
そんなことを思いながら、友達の輪の中に戻った。