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ギャルズメロディー3期  作者: キスよりルミナス
2章   アイドル部創設
8/30

8話  2人だけの時間 (神楽)

アイドルのライブを終えた後、神楽が療養所を出ることをヒメに問われる場面から。

 8話   2人だけの時間  (神楽)



 「………私、沙川さんから聞いたんだ。……神楽お姉ちゃんは、あと少しで此処を出るって……。2日……だっけ。」


 「…………!」

 

 ヒメからの言葉に、返す言葉が何も見当たらない。深い罪の意識が私を覆う。

 私は、此処を出ることをヒメに対して隠していた。直接言うことが苦しくて、別れの言葉を告げるのが嫌で。ヒッソリと居なくなろうとしていた。


 他人のことを考えず、自分のことしか考えきれない。

 

 私を見上げるヒメの表情から、強い怒りと悲しさが読み取れる。こんな表情をするヒメは初めて見た。いつだって明るいヒメなのに……。こんな風にさせたのは私である。

 

 「ひどいよ!どうしてなの?……私に、私に黙っていたなんて……!」


 「そ、それは……」


 「神楽お姉ちゃんのばかっ……!」


 ヒメはそのように言い放つと、プイッと反対を向いて重い足取りで室内へと帰っていった。


 「ヒメが怒った………。そんなつもりは無かったのに……」

 

 ヒメの言葉が心に刺さっている。放たれた言葉の刃を私は避けることが出来なかった。避けてはいけない、私はその言葉に込められた意味を真摯に捉えなければならない。

 普段、汚い言葉を使わないヒメが、感情を素に出してまで使った「ばか」の一言。このセリフを言わせた私に全ての責任がある。

 

 「神楽さん、追いかけなくていいのですか?」


 ヒメの後ろ姿を見つめることしかできなかった私に、背後から沙川さんが話しかけてきた。よりによって、一番悪いタイミングで本人と居合わせてしまう。


 ヒメが「沙川さんから……」と言っていたが、その事を本人に聞かれてはいけなかった。無実なもの沙川さんが、罪悪感を感じてしまうだけである。

 私が伝えなかった事を、ヒメに伝えてくれた。そのおかげで、自分が悪かったと再認識できた。

 だから、沙川さんには、ヒメに事実を伝えて事を悪いことだと思われたくなかった。


 「沙川さん!?……今のやり取り見ていましたよね?」


 「はい………少し離れたところから見ていました。……すみません、私が理解不足なものでして。本当に申し訳ございません。」

 

 深々と頭を下げられてしまう。沙川さんが悪いわけでは無い。なのに、どうして私に謝るの……!

 無実の人に謝罪の意を感じさせた自分に腹が立つ。自分が事をうまく処理できないからこうなるんだ。


 「私が悪いんです。沙川さんは悪くなんて無い……!ヒメに伝えなかったのは、私なのです……。」


 私が全てを言い切ると、沙川さんは頭を上げて「そうでしたか……。」と、一言だけ呟く。何かを考えるかのように、虚空を見上げている。

 

 「まー、世の中に完璧な人間は居ませんから。自分の犯した誤ちを償う、それが大事ですよ。時間は無いです、神楽さん。」


 『完璧な人間は居ない』という言葉も、とある書物の名言だった気がする。これは、当たり前のことだと思ってヒメに伝えていなかったが、自分はその事を理解できていなかった。

 ヒメの中での唯一無二を目指し、完璧になろうとしていたが、それは不可能だったのだ。


 私は勝手に完璧になっていたつもりだった。


 けど、他の人から見れば、全く完璧な人間では無かったのだ。沙川さんは、それを理解していたから、敢えてその言葉を私にぶつけたのだろう。


 「でも……」


 変なプライドが私を邪魔している。ここでヒメに自分の誤ちを伝えに行けば、私はヒメにとって完璧ではなくなるんだ。

 沙川さんからサラッと事実を伝えられたけど、それを認めたくない弱い自分が、私の内にしっかりと居る。


 「ヒメさんには謝り、あなたの思っていることをぶつけてきてください!ここでしないと、絶対に後悔しますよ!」

 

 ザッと足音を立てて半歩だけ私に近寄る。掴みかからんばかりの勢いだ。

 私が此処に来てからの今までを振り返っても、沙川さんが感情的に言葉をぶつけることはなかった。


 人が感情的になり何かを言う時は、大半が間違いを含んでしまっている。その場でカットなった時、人は考えもせずに思うことを言い並べてしまう。だから、間違いを含んだり、誤解を生むような意味に捉われたりすることがある。  


 だけど、沙川さんの言葉は、今の私が取るべき行動の適切な答えであった。それに気づいた時、邪魔していた弱い自分がサッと姿を消した。

 

 私のヒメの仲を第三者の視点から、冷静に見ていた沙川さんにしか分からないことがある。

 この後2人がどうなるのか、その事を当事者の2人は冷静に考えられない。だけど、事を落ち着いて考えることが可能な第三者からなら分かる。


 その結果が分かっているからこそ、今の私の態度に焦りを覚えているのだろう。

 

 「分かりました。」


 私はその一言だけを沙川さんに伝えると、走ってヒメの後を追いかけた。




 ※  ※  ※ ※ ※ ※




 久しぶりに運動をしたせいか、息があがって呼吸を整えるだけで精一杯である。

 此処はサナトリウムなので、療養者の迷惑になってはならない。迷惑にならぬように屋内に入ると早歩きでヒメを追いかけた。

 ヒメが自室に入るのが、廊下の奥に見える。追いかけている時、私はヒメに気づかれていなかった。おかげで気恥ずかしくなることなくヒメに話せる。


 ヒメが完全に部屋に入ったのを確認して、私はヒメの部屋の前へ行く。

 普段から入り慣れている部屋なのに、まるで知らない人を訪ねる時のような気持ちである。

 ドアをノックをしようとあげた右手が止まる。そのまま、その手を自分の胸に当てる。徐々に鼓動が強くなっていくのがわかる。


 目の前のこの扉を、自らの力で開けれない気がする。


 「私が気づかないわけないよ……?」


 突然、ガーっとドアがスライドした。

 中から、半ば呆れたような表情を見せるヒメが現れる。歳下、よりによって、本物の妹のようなヒメに、そのように見られるのが恥ずかしい。

 ヒメに、かまって欲しい幼子が親から言われるようなことを、サラッと言われてしまった。私は日常でも優しく接していて、そんな事言わないのに……。


 「はぁ……。神楽お姉ちゃん、部屋の中で話そうよ」


 左手を冷たく小さな手でギュッと握られる。握る力は弱いものの、その手からは何かの強い意志が伝わってくる。

 

 「では、お言葉に甘えて。失礼します。」


 部屋に入ると「あぁ、ヒメの部屋だ」とわかる、独特な空気が私を包み込んでくれる。

 年中通して、ほとんど変わらない室温。部屋を包み込むヒメの甘い香り、上手く畳めていない掛け布団や服。

 こんな事が起きなければ、ヒメの部屋に来ることもなかっただろう。

 部屋を見回しながら、ベッドにヒメと横に並んで座る。初めて此処に来たときよりも、右側に座るヒメの肩の高さが、私に近づいてきてくれたことを実感する。


 ヒメが私の右手に小さな左手を絡めてくる。だが、私と目を合わさずに、床の一点を悔しそうに睨んでいる。私がヒメの立場であったならば、同じような行動をとっただろう。

 私がヒメならば、それにプラスで、感情を抑えれずに、声を荒げたり相手の頬をビンタしていたかもしれない。

 

 「どうして伝えてくれなかったの?私達は友達とかよりも、ずっとずっと深い関係だよね?」


 深い関係の言葉が何を指すのかハッキリと分からない。恋人みたいなのか、1番の親友であるのか。だが、何となくなら分かる。

 此処で過ごしてきた中で、他人と関わる機会は殆ど無かった。だから、ヒメや沙川さんは、私の中で特別な存在になっていた。特に、此処での日々を姉妹のように過ごしてきたヒメは、誰とも代えられない唯一の存在だった。

 

 「だからこそですよ……!……苦しいんですよ……。ヒメと、別れることが……。別れの言葉を告げることを考えると、心が苦しいんです……。だから、ずっと黙っていて……。」

 

 口に出して言い、ヒメとの別れを実感する。初めて会った日からの出来事が、走馬灯のように流れてくる。

 ヒメの明るい笑顔、匂い、温もり、甘えたような声……。全てを感じれなくなる日が来てしまうんだ……。


 悲しみで胸が締め付けられたような気がして息が苦しい。目頭が次第に熱くなって、抑えきれない感情が、一粒一粒の涙としてこぼれ落ちてくる。隠さなければと、握っていない方の手で涙を拭おうとする。


 「理由、わかったよ。言えない時くらいあるよね。」


 「……ごめんなさい、私は……、もっと……。」


 ヒメと離れることを拒み、さめざめと泣く私。少しでも悲しませないようにと優しい笑顔を見せるヒメ。同じ日々を一緒に過ごしていたのに、何故、このような状況に対しての態度が大きく違うのだろう。


 「離れることは寂しいけれど、これから神楽お姉ちゃんが幸せになれるなら私は嬉しいな。それに、神楽お姉ちゃんが、『外の世界』を味わうことができること羨ましいよ。」


 「私は、ヒメと離れるのは嫌です!ヒメが心配で……!」


 「もういいんだよ。私、神楽お姉ちゃんのおかげで、立派に成長できたよ……!」

 

 右隣には、初めて会った時の幼いヒメの姿は無かった。立派に成長した顔立ちをした少女が、……ヒメがいた。

 幼い姿をしていないヒメを見て、私が居なくても大丈夫なんだと安堵する。それなのに、私はもう必要ないと思うと、何とも表せない漠然とした寂しい感情に包まれる。


 ヒメのことを信じて旅立って良い。と、正しい私が自身に訴えている。


 「それならば、私は自分の新たな夢へと羽ばたいて行きます!」


 「わかった!私も早く此処を出れるように元気になって、必ず後を追うよ!」


 此処に居る人達に元気な人なんて居ない。それぞれが、精神を病ませていた後の療養中、身体の弱い方が療養をしているためだ。そんな中でも、ヒメは明るく、療養する人々も和ませているのだ。私も精神崩壊を起こして此処に来た時も、ヒメが居てくれたおかげで少しずつ回復し始めた。

 だが、決してヒメの身体の調子は良くない。今でも突然に倒れ込んでしまうことがある。それでも懸命に生きている。私が居なくても大丈夫なのか、そのように自分に問うことが幾度とあった。

 

 しかし、今のヒメは絶対に大丈夫だ。アイドルになる私に出来ることは、応援をしていくのみ。


 だから自身に誓った。ヒメのためにアイドル活動をしようと。


 「元気になるのですよ。次に会うとき、あなたの元気になった姿を楽しみに待っておきます。頑張りなさい、ヒメ。」


 「うん。……じゃあ、忘れないように誓いのキスしよ……?」


 「え、あ……!」

 

 もう片方の手も絡ませて、目を瞑り私の唇にキスをする。「大切なことを誓うときに、キスをします」なんて教えた記憶は無かった。キスの甘さで溶けてしまいそうになりながら、思い出そうとするけれど思い出せない。


 こんなに甘いキス、本当に誓いのキスなのか?少なくとも、私はこのキスは他の意味も含んだキスだと思い、ヒメとキスし続けている。



 こんな幸せが、いつまでも続かないと分かっていた。



 それでも、切に願っていた。大好きなヒメと離れたくないと。

 

今回で神楽の話は一旦終わりです。この人だけ別路線で話を作ろうと思ってます。


次回もギャルズメロディーをよろしくお願いします。

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