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ギャルズメロディー3期  作者: キスよりルミナス
5章 アイドルの自覚
23/30

23話 伝説の先輩達 (華奈)

23話  伝説の先輩達 (華奈)



 「もう一度、初めからやるっスよ。サビのところ、ダンスに集中しすぎないように。」


 少し古めなラジカセの再生ボタンを押して、今度の大会用の課題曲を流す。そのあとは、みんなを正面から見て演技の改善点を見つける。

 ようやく、カナにも仕事が板についてきた気がする。

 アイドル部の中体連の大会が、あと2週間まで迫ってきていて、練習により一層身が入る。

 歌、ダンスは格段に上手くなっていってるのだが、みんなの顔色が明るくない。きっと、大会のプレッシャーがそうさせているのだろう。

 ネットニュースやテレビ番組を見ても、大会関連の話題が流れてくるようになってきた。その中で、現在の新しい桜咲学園アイドル部が注目を集めている。

 他の学校のアイドルグループと違って、ライブハウスでライブをするなどはしていない。しかし、ここは人気の高いアイドルグループCosmicrownの出身校であるため、名門校として注目されているというわけだ。




 桜咲学園アイドル部の歴史は短く、今年で初めての部活創立から5年目になる。

 始まりは、カナよりも4つ歳上の松崎先輩が、「アイドル活動をしたい!」という理由で、仲間を募り学校にアイドル部を作った。

 当時は、学校にアイドル部があるなんて非常に珍しかったらしい。というよりむしろ、そんな珍しい学校は、全国にも20校無かったんだとか。

 そのような学校が、現在のアイドル強豪校に名を連ねるらしいが、どの学校もアイドル部の創設は、数十年前からなものが多いらしい。

 そう考えると、アイドル部の強豪校と言われている割に、桜咲のアイドル部は新しい。それに加えて、うちのアイドル部は部員数が少ない。

 他のアイドル部名門校なんかは、部員数が30人とか40人とかいるらしく、多いところでは100人もいるんだとか。

 元々、桜咲のアイドル部は10人くらいいたらしいが、アイドルとして他の道を進んだ人や普通にやめていった人達がいたらしい。このような話を田崎先生から聞いたことがある。




 カナは、上林先輩や大宮先輩と直接会ったことがない。しかし、先輩方がアイドル部を存続させて、桜咲学園アイドル部を日本のトップに立たせたという伝説は知っている。

 胡桃先輩、菜月先輩、椿先輩の3人は、大宮先輩たちが現役だった時期にアイドル部に所属していた。琴音は、あの上林先輩の妹なので言わずもがな。神楽は、琴音と上林先輩のミニライブを生で観たことがあるんだとか。

 菜月先輩達にとって、大宮先輩達は身近にいるアイドルなのかもしれないが、カナや神楽にとっては、同じ学校出身のアイドルにすぎない。はっきり言って菜月先輩達が羨ましかった。

 

 「カナも1度は会ってみたいっスよ〜。」


 ため息混じりに呟くが、こんな態度だと運命は来てくれないだろう。

 Cosmicrownのメンバーである大宮先輩達と直接会う機会があったらいいのに。と思うが、Cosmicrownは活動が忙しので、そんな暇は無いだろう。また、上林先輩はアイドル活動を休止してしまったので、なおさら難しいだろう。

 そのことを残念に思いながらアイドル部の練習を眺めていると、大会の課題曲が流れているのを邪魔するかのように、ピンポンパンポーンという放送のチャイムが聴こえてきた。

 

 「1年、アイドル部の夢咲華奈さん、夢咲華奈さん。職員室まで来てください。繰り返します。1年、アイドル部の……」


 ダンスをしていた全員が一旦止まった。菜月先輩と琴音が、「何かやらかしたのか…?」と心配そうな顔つきでこちらをみている。

 宿題も提出してるし、授業も真面目に受けている。悪いことは絶対にしていないので、職員室に呼び出される筋合いが分からない。

 どちらにしろ、大会前なのに、カナのせいで部活を中断させて申し訳ない気持ちになる。


 「と、とりあえず行ってきます!田崎先生、マネージャーの仕事もよろしくっス!」


 顧問の田崎先生は、元大人気アイドルユニットのメンバーの1人だったらしい。

 わざわざカナがマネージャーとして練習メニュー決めとかをしなくても、先生が部活の練習メニューとか全部決めてくれたらいいのに。素人のカナよりも、先生の方が絶対に良いのに、「私が本気で部活させたら面白くないじゃん?みんなでがんばらなくちゃ。」とにこやかに言うので、先生が部活を完全に仕切ることは無さそうだ。

 一時期、カナが部活を休んでいた間は、先生が皆を上手くサポートしてくれていたらしいので、今回も上手くサポートしてくれるだろう。


 「分かったわ。気をつけてね〜。」


 顧問の田崎先生にカナの分の仕事も頼んで、急いで職員室へと向かった。

 まだ5時になったばかりなのに、廊下には赤い夕陽が差し込んできていた。日が暮れるのが早くなっているのと同時に、冬が近づいてきていることを実感する。

 

 


 職員室に着くと、カナは教頭先生の元へと連れて行かれた。背の高い50歳くらいの強面の教頭先生が、固定電話の受話器を持って待ち構えている。


 「夢咲さん。とある方から電話が入っております。」

 

 「わ、分かりました……。」


 怖い教頭先生を前にして、声も手も震えながら、受話器を受け取り電話に出る。それを見た教頭先生は、サッとその場から離れていった。


 「電話代わりました。桜咲学園中等部1年生の夢咲華奈です。」


 『こんにちは、華奈ちゃん。上林琴音の姉の上林香織です。突然ごめんね。』


 「えぇー!!」


 職員室であるにも関わらず、大声を出してしまう。職員室中の先生達が、一斉にこちらを向いたので、怖さと恥ずかしさで縮こまってしまう。

 そして、カナが驚くのも無理はない。電話に出てきたのは、あの上林香織先輩だった。アイドル活動を引退してからというもの、テレビやラジオでは全く声を聞かなくなったので、とても懐かしかった。

 上林先輩が電話をしてきたということは、教頭先生が琴音とカナを呼び出し間違えたのかと思ったが、本当にカナに用があるらしい。


 「ど、ど、ど……。どのような用件でございましょう、、でしょうか……?」


 大人気アイドルとの人気で声は震えるし、手汗で受話器はビチョビチョになる。心臓がバクバクと跳ねている。夢でも見ているような気分で上林先輩の言葉を待つ。


 『ふふっ、華奈ちゃん可愛いね。そんなに緊張しなくていいよ。』


 上林先輩が楽しそうに笑っているのが、電話越しに伝わってくる。不思議なことに、それを聞いているこちらも幸せな気持ちになる。

 これが、元大人気アイドルの力というのか……。とか変なことを考えてしまう。


 「本題に入るね。実は、華奈ちゃんに会って欲しい人がいるの。」


 いきなり本題を入れ込まれて、頭の処理が少し遅れてしまった。

 それにしても、上林先輩がカナに会って欲しい人がいるってどういうことなんだろう。上林先輩と話したのは今日が初めてなのに、そんなカナに会って欲しい人物がいるらしい。


 「え、あ、会って欲しい人っスか?」


 『うん。高等部の大宮鈴音っていう人に会ってもらっていいかな?鈴音には話を通してあるから、明日の放課後ならOKなはず。』


 カナに会って欲しい人は、桜咲学園の学園長の娘である大宮先輩らしい。こちらの大宮先輩も、大人気アイドルのうちの1人。

 現在、上林先輩がアイドル活動を引退したことで、大人気アイドルグループCosmicrownの新リーダーを任せられている。

 大宮先輩といえば、男子からはモテまくり、成績は優秀で運動もできる。美人でスタイルも良く、おまけに性格も優しい。という感じで、学園の女神とまで言われている。

 高等部だけでなく、中等部の男子からも絶大な人気を集めていて、女子からも人気であり、学園内でも大人気アイドルである。

 そんな人と会うのは緊張するけど、これもいい機会ではあるので、快く引き受けることにした。


 「分かりました。明日、高等部に行ってみるっス!」


 『ありがとう。それじゃあ、バイバイ』


 カナの返事を聞いた上林先輩は、満足げに電話を終えた。最後まで楽しそうに話していた上林先輩の声を聴くと、アイドルを辞めた理由がますます分からなくなる。終始、暗いムードで話していたら、精神でも病んで疲れたのかな?なんて思うけど、あんなに楽しそうに話していたら、そんなこともなさそうだ。

 事務所も本人も、上林先輩がアイドル活動を辞めた理由について詳しく触れていないから、真相は隠されたまま。友達の姉ということもあり、初めの方は心配していたが、今日話してみて安心した。


 あとで、琴音にも伝えてあげようかな。


 そう思ったが、上林先輩が琴音に連絡を入れていないという話を思い出したので、今回のことを話すのはやめておくことにした。




  ※ ※ ※ ※ ※

 


 高等部の正門前に着くと、中からゾロゾロと高校生が出てきているところだった。ちょうど高校生の下校時間に当たったらしい。出てくる高校生達の邪魔にならないように、正門の脇で高校生達の波が終わるのを待つことにした。

 カナの存在に気付いた高校生達は、「どうしてここに中学生がいるんだ?」という眼差しを向けてくる。その多くの視線に耐えつつ、波が終わるのを待った。

 ある程度いなくなったところで、高等部の中に入ろうとすると、正門入ってすぐの所に1人の女子生徒が立っていた。

 女子生徒の身長は、バスケ部の千紗と同じくらい高く、細身過ぎることなくスタイルがいい。サラサラとした美しく長い髪が、そっと吹く風で微かになびいている。

 わずかに微笑んでいる女子生徒は、大人びた顔立ちをしている本物の美人だった。テレビで見た時も美しいが、生で見る方が美しかった。


 これが大人気アイドル、大宮鈴音なのだ。


 「あなたが、夢咲華奈ちゃんかしら?」


 「あ、ハイッ!えっと、大宮先輩ですか……?」


 超有名人を目の前にして緊張している。というのもあるが、大宮先輩が美しすぎて見惚れてしまった方が強かった。

 心臓がバクバクしていて、返事をするのがやっとである。

 バクバクというより、ドキドキな方が正しいのかもしれない。と思ってしまうくらい、鈴音先輩の美しさの虜になってしまった。


 「えぇ、そうよ。香織からの依頼でここに来たのよね?大宮鈴音って人に会って来て、って。」


 「そうっス。上林先輩から学校の方に電話が掛かってきたんですよ。それで、頼まれたって感じです。」


 「まぁ、ここで話すのもアレだから、高等部のアイドル部で話すことにしましょ。」

 

 そう言われたカナは、大宮先輩の後についていき、高等部のアイドル部に来た。

 高等部のアイドル部の部室は、中学のアイドル部の部室の4倍くらいの広さをしていた。

 高額そうなスピーカーや幾つかのマイクスタンドなどの音響機器も揃っており、中学との差を感じずにはいられない。

 高等部の方が部員数も圧倒的に多く、歌やダンスの技術も段違いで上手かった。Venus Liveのアイドル達に劣ることのない実力を持ち合わせた実力派集団である。

 地元のテレビ番組で見かけたことのある人もいた。この中には、大宮先輩たち以外にも、アイドルとして成功した人達もいるようだ。

 琴音達も2年後には、あんな風になっているのかもしれないと考えると楽しみである。

 琴音達のために、ハイレベルな先輩達の良いところを覚えて持ち帰ろうと、必死に練習を見るカナの横で、大宮先輩は「コレが高等部のアイドル部よ。」と、自慢気な様子も見せずにサラリと告げた。

 悔しいけど、コレが差なのだ。素人のカナの力で、どうこう出来るものではない。

 きっと、大宮先輩や上林先輩達が、中学時代の練習やCosmicrownとしてのアイドル活動を最大限に生かしているから、こんなハイレベルな練習になっているのだろう。


 「華奈ちゃんは、アイドル部のマネージャーだったよね。菜月達をありがとう。」


 「いえ、カナはいつも助けられてばかりで……。」

 

 大宮先輩に礼を言われるが、カナ自身が何か頑張っている実感は無かった。自分の与えられた役割をこなしていただけ。

 中学のアイドル部が活動出来ているのは、部員全員のおかげである。

 特に、菜月先輩は部長としてずっと部活を引っ張って来てくれている。カナと一緒に部活の練習メニューを考えてくれたり、他のメンバーにダンスと歌にアドバイスをしてくれる。自分の練習に専念したいだろうに、部員のために自分の時間を削ってくれている。

 改めて思い返すと、菜月先輩は世話好きなんだろうな……。

 菜月先輩って怖そうなだけで、とても良い人なんだなと実感していると、「そういえば、菜月で思い出したんだけどさ……。」と、横に座る鈴音先輩に声をかけられた。


 「菜月に胡桃の世話を任せすぎちゃったから、菜月も自由な学校生活送れなかったのよね。菜月には、本当に申し訳なく思ってるわ。」


 菜月先輩に伝えられたことがあった話だ。聞いたのは、初めて会ったばかりの5月くらいだった気がする。

 胡桃先輩の世話に疲れたと苦しそうな様子を見せる菜月先輩の姿を思い出す。周りからの視線や態度が相当なストレスになっていたらしい。今でこそ、本人が思い出話のように話せているが、当時はかなり悩み込んでいたんだとか。


 「でも、あなたが来てくれたおかげで、アイドル部も復活して、菜月もアイドル活動を再開することができた。私達のアイドル部を復活させてくれてありがとう。」


 「ど、どうもです……。」


 言われてみれば、部活が始まってからというもの、菜月先輩が胡桃先輩のことで悩むことはグッと減った気がした。

 ストレスを発散する場所として部活が扱われることが、良いか悪いかはさておき、菜月先輩が安心できるような居場所が出来たのなら、それだけでも良かったと思う。

 

 この学校に入ったばかりの頃、アイドル部を作るなんてこと、カナは考えていなかった。

 

 あの時、校舎裏で琴音と出会い、菜月先輩と胡桃先輩を部活に誘い、神楽が部活に入ってきて、二学期になって椿先輩も部活に入った。

 全ての偶然からできたものだ。色んなことが上手く噛み合ったかこそ、今のアイドル部がある。みんなの居場所ができた。

 その要素のひとつに、カナの存在があるなら、カナはそれだけで満足である。


 「あ、そうだったわ。華奈ちゃんに渡して欲しいものがあるって、香織から頼まれていたことがあったの。ちょっと待ってて。」


 唐突に何か思い出したらしい大宮先輩は、部室の奥にあるもう一つの部屋に入っていった。

 正直言って、大宮先輩と話していることに夢中になっていて、上林先輩から頼まれてここに来たことを忘れていた。

 他のメンバーではなく、華奈に頼んできたことだから、華奈にしかできないことがあるのか?

 少しして、奥の部屋から大宮先輩が出てきた。先輩は、結構な大きな段ボールを抱えて戻ってきた。大きさの割に重そうではなく、むしろ軽そうであった。


 「それは……?」


 何なのか気になり尋ねてみると、「実はね……。」と、その段ボールを開けながら大宮先輩は答えた。


 「大会のための衣装よ。前回大会、大会が用意した貸し出し用の衣装を使っていたでしょ?」


 「ま、まぁ……。」


 大宮先輩は少し不満そうに話す。桜咲はアイドル界では有名校のためか、先輩のプライドはかなり高い様子。大会の貸し出し用衣装を、あまり好んでいない様子だ。

 大宮先輩世代のアイドル部は、ファッションブランドである『Hot beetle』が衣装を作ってくれていたらしいし、衣装のことに関しては、尚更プライドが高いのだろう。

 

 「アイドルはルックスも大事!っていうことで、香織が衣装をデザインしてくれて、4人分を発注してくれたの。」


 段ボールの中から出てきたのは、ライブ用の衣装であった。ピンクやホワイトをベースとした可愛らしいデザインだった。

 コレを琴音達が着るのかと想像すると、それだけで見惚れてしまいそうである。普段から見ているカナでさえ楽しみで仕方ないから、当日観に来てくれる桜咲ファンの心は鷲掴みにするに違いない。


 「うわぁ……。めっちゃステキです!わざわざ、ありがとうございます。上林先輩にも伝えておいてくださいっス。」


 「分かったわ、伝えておく。香織にこの実物を見せれてないから、今日写真で香織に見せてから、明日、中等部の方に送るわ。」


 「あ、ありがとうございます!」

 

 上林先輩が気持ちを込めてデザインしてくれた大切な衣装を輝かせるためには、大会で琴音達が最高に輝いていなければならない。

 

 あと2週間、カナにできることをしていこうと改めて決意した。

 

ギャルズメロディー1、2期を読んでみると、今回の内容がより分かりやすくなると思います

是非読んでみてください

次回もよろしくお願いします

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