12話 姉の苦労 (琴音)
この話を読む前に、ギャルズメロディー1期 29話 と、2期 2話 を読むことをお勧めします。そうすると、内容が掴めると思うので。
12話 姉の苦労 (琴音)
プロローグ 姉との出会い
私が小学1年生の時の11月だっただろうか。私よりも3つ歳上の全く知らないお姉さんが新しく家族になった。
今でもそのことを昨日のことのように鮮明に覚えている。
幼稚園生の頃に私の両親は離婚した。原因は父親の浮気であったはず。私は母親の方に引き取られた。
父親が居なくなり、家に入ってくるお金もどっと減って、つつましく生活することを余儀なくされた。
母親は勤務時間を増やして、少しでも経済的に安定させようと頑張っていた。当時の私にでも分かるほど、母親の勤務時間は長くなっていた。
離婚前まで母親は昼間のみの勤務だった。しかし、離婚後は、私が学校に行くのと同時に母親は仕事に行き、夕方6時過ぎに学校の託児所に迎えにきていた。
土曜日は母親の仕事場に一緒について行っていた。
そのように母親が、女手1つで私のことを育ててくれていたある日のこと。
母親は土曜日の仕事を午前中で切り上げて、私を連れてとある施設に連れて行った。
母親の話によると、母親に知らない場所に連れて来られた私は、「お母さん、ここどこなの?」と不安そうに聞いていたらしい。いくら、私が記憶力が良いとは言えど、そこまでは覚えていなかった。
そんな私と母親の前に、その施設の人であろう大人の女性に連れられて1人のお姉さんが姿を表した。
身体は細身であり、私よりも背は大きめ。ふんわりとした髪を肩甲骨辺りまで伸びていた。美しい顔を持っているのに全ての感情を失ったような顔をしていた。どこを見つめるでもなく、ただボーッと突っ立っていて目の前の私達にもまるで気づいていないよう。
お姉さんがそんな姿だったから、当時の私には大きな人形のように見えた。
「この子ね、香織って名前なの。今日から、私達の新しい家族になるの。つまり、あなたのお姉ちゃんになるってわけ。」
母親が嬉しそうに微笑んで私に紹介した。香織お姉さんは隣の大人の人からこちらへと案内されて、「香織ちゃん、この人達があなたの新しい家族になるんだよ。」と紹介した。
「……よろしく。」
本人がこちらに感情を表そうとしているのは分かったが、その言葉からは、機械が読み上げたのかと思うほど、感情が感じ取れなかった。香織お姉さんは色白で細い手をサッと私の前に出してくる。
「よろしくね、お姉ちゃん!」
その手を握るとビクッとなるくらい、姉の手は冷えていた。しかし、その冷たい手からは、何か優しさに似たような温かいものが感じ取れた。
その時に私は確信した。この人がお姉ちゃんなら、私は仲良くしていけそうだなと。
こうして私は、上林香織と姉妹の関係になった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
① 姉の体調不良
7月になると同時に蝉たちも元気に鳴き始めた。気温は高い、湿度も高いと、6月よりも外は蒸し暑くなった。
そんな周りの環境が悪化したことと、学校の期末試験も終わって1学期も残すところあと2週間になったこともあり、クラスメイトの数人は授業中に気が抜けた状態である。
教師陣も目に見えるほど疲れた様子で授業をして、「お互いあと少し頑張ろうな。」と生徒達を頑張って励ましている教師達もいる。
私はといえば、あと少しで来る姉の誕生日についてのことしか頭にない。しかし、私も疲れが出ているせいで大して頭が回らずに、姉に対してのサプライズの良い案が全く思い浮かばない。
考えて頭を使うと余計に疲れてしまい、私に悪い睡魔が襲ってくる。
だが、こんな時期に疲れで弱っているようではいけない。
6月の終わりから7月の初めにかけては、中学生の一大イベントである中体連の大会がある。むしろ、コレがあるから運動部の生徒は疲れが出ているのかもしれない。
私達アイドル部にとっても他人様のことではない。今年からアイドル活動が中体連に加わったのだ。
理由は言うまでもなく、Cosmicrownの影響である。アイドル活動が人気を博したことで、多くの小、中学校でアイドル部が作られた。以前までは、アイドル部の大会といえば、『全国スクールアイドル・トーナメント』というイベントくらいだったが、人気急上昇により中体連に正式に加わった。
それに伴い、アイドル部は文化部から運動部へとクラスチェンジした。アイドル部も他の部活と同様に大会の結果が重視されるようになったため、アイドル部も大会を見据えて部活の練習がハードモードになり始めた。
今日は、顧問の田崎先生が出張に行っているので、マネージャーの華奈が練習を仕切ることとなった。
「暑いのなんて平気平気!さ、今日もあと少しがんばろー!」
「桜咲学園の皆さんはお疲れの様子ですね。何故だか私は暑さには強いので平気ですが。」
アイドル部には、周りの生徒たちと様子が大きく異なる2人が居る。小学生の時に、バスケをすることで体が鍛え上げられ、暑さなんて何も気にならない華奈。体は弱そうなのに、意外にもしっかりとした神楽。
他の生徒達にもこの様子を見せてあげたいなと思うほど元気である。だが、その横には2名の疲れ果てた様子の人がいた。
「あっちー……。バカ、こんなん溶けちまうだろ、エアコンか扇風機くれ……。」
「うぅぅ……。私も溶けそうぅ……。」
菜月先輩と胡桃先輩は床に座って、パタパタとうちわを扇いでいる。隣の2人の後輩を見習ってほしいものだと思いながら、私はタオルで額の汗を拭く。
偉そうに上から目線で様子を見ている私だが、実は私もだいぶ疲れてしまっている。ここ最近、重度の夏バテとまではいかないが、食欲が無かったり元気が出ない時がある。
「疲れてる様子だし、今日の練習はここまでっスね。早く寝て健康的な食事に心がけるっス。皆んな果物とか食べて元気を取り戻すっスよー!」
カナは時計をチラッと見て、今日の練習の終わりを告げた。
元気いっぱいのカナはいつもと変わらぬ元気な様子で部室を出て行った。これからカナは、バスケ部の臨時コーチに行く。
うちのバスケ部は、中体連の県大会を突破して全国大会へ駒を進めたそうだ。姉達の影響で桜咲学園はアイドル部の強豪校のイメージが強くなったが、実はバスケの強豪校であり、中体連では必ず県大会までコマを進めるほどの強さである。
例年ならば、こんな早い時期に県大会が終わるなんてあり得ないが、今年からアイドル活動が中体連に加わった影響で、一部の部活の大会に日程の変更があったらしい。
幸いなことに私達の大会が始まるのは、7月の中盤からである。まだ練習期間は充分に残されている状態である。
「先輩、アイドル部ってどれくらい練習すればいいのでしょう?」
暑さでダウンしている菜月先輩と胡桃先輩に聞く。2人は元アイドル部だったということで、私よりもアイドル部に関しては詳しいはずだ。
「ま、これくらいじゃ、足りねーよな。……っし!大会まであと少しだ!もっかい、始めから流そう!」
菜月先輩は自分の頬をパンパンと叩いて立ち上がる。菜月先輩が立ち上がる様子を見て、胡桃先輩は「うぅー。あと少し、私もがんばる。」と、弱々しく立ち上がる。
「あんまり無理しないでくださいよ?」
菜月先輩は不安そうに胡桃先輩のことを見つめるが、胡桃先輩は「へーきだよ。」と笑顔で返す。
普段の菜月先輩は、口調が男っぽくて荒々しいので怖い印象が強い。しかし、意外と優しい一面も持っていて、今のように何気なく相手のことを気遣える頼れる先輩である。
「じゃ、曲流しますよー。」
ヴーッ、ヴーッ……。
ラジカセの再生ボタンを押そうとした時、私のカバンでスマホが振動し始めた。
「すみません、ちょっと……。」
誰からだろうと思いスマホをカバンから取り出すと、鈴音先輩からの電話だった。以前、姉に会うために桜咲学園の高等部に行った時、姉と一緒にいた鈴音先輩から、「あなた、琴音ちゃんよね?私と連絡先交換しましょう。」と、半強制的に連絡先を交換させられた。たまに連絡するけれど、殆どやり取りは無かったので、突然電話がかかってきたことに少々驚いた。
「はい、香織の妹の上林琴音です。」
『琴音ちゃん。今から高等部に来てくれるかしら?』
「今は部活中ですが、高等部なら行けます。どうしたんですか?」
『香織が倒れちゃったの。でも、熱中症とかではなく、ただの疲労らしいの。だけど、琴音ちゃんには伝えとこうと思って。姉のことだと、妹として不安だろうから、高等部に来て様子を見てもらおうと思ったの。』
「……はい。わかりました。至急、高等部へと向かいます。ご連絡ありがとうございました。」
いつか来ることだろうと何となく分かっていたことだった。気がつくと3人の視線が私に集まっていた。3人が私のことを気にしてくれていることが分かる。
しかし、大会前の大事な時期に、他のメンバーに迷惑をかけることはできない。
「ごめんなさい、私、今から高等部に用事ができてしまったの。行ってくるわ。」
私はそう告げると、汗で濡れた体操服のまま高等部へと走って向かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
桜咲学園の高等部は、中等部から直線で400メートル程離れたところに位置する。その間には幹線道路や公園、マンション、オフィスビルなどを挟んでいる。そのため、高等部の校門に着く頃には、高等部の下校時間になっていて高校生が中から十数人出てきている。
「琴音ちゃん、わざわざごめんなさいね。」
群れの中からヒョッコリ姿を現した制服姿の鈴音先輩が、走り終わって息を整えている途中の私を迎えてくれる。
初めて鈴音先輩と会った時、鈴音先輩は体操服を着てきたので、制服姿を見るのは今が初めてとなる。
「出迎えてくれてありがとうございます。ところで、私の姉は大丈夫なのでしょうか?」
「今は保健室でゆっくりと休んでるわ。ついてきて。」
高等部は中等部よりも生徒数が2倍がいるため、校舎も中等部の2倍近くの大きさがある。その上、高等部は新校舎に建て替えられたばかり。高等部内はピカピカであり、中等部には無い施設も多くある。私は、久しぶりに来た高等部に憧れを持ちながら、鈴音先輩と保健室に向かった。
「ここが保健室。きっと、香織もあなたの顔を見ると喜ぶわ。私は廊下で待っておくわ。」
「わかりました、では行ってきます。」
鈴音先輩に背中をポンと軽く押された。私は保健室のドアを軽くノックする。
「失礼しまーす……。中等部の上林琴音です。姉に会うために来ました。」
そーっと保健室のドアを開けて中に入る。
電気をつけているのに、落ちかける夕日が、一階にある保健室を紅く照らしているのがよくわかる。もうそんな時間なのかと思い、私のスマホで時間を確認すると18時10分を示していた。
「あなた、香織さんの妹ちゃんね。わざわざ高等部まで来るなんて偉いわねー。それに、姉妹揃って美人ねー。」
こちらを向く保健室の先生が笑顔で私に声をかけてきた。この女の先生、40代といったところだろうか。初めて会った私にも親しげに接してくれる。中等部の保健室の先生は、優しいのだが、一般の人よりは口数が少ない女の先生だ。
そのため、中等部の保健室で、先生と2人きりになると気まづくなる。しかし、高等部は、保健室に来ても気まづくは無さそうなので、怪我とかしたらこっちに来たいと思った。
「琴音、わざわざ来てくれたの?」
こちらに気づいた姉は、ゆっくりと起き上がる。
「お、お姉ちゃん。無理しないで。」
私はササっと姉の居るベッドに向かう。近くで見ると、顔に疲れが出ているものの、キツそうでは無い様子だ。
近くの椅子に座り、ベッドで上半身だけを起こし座っている姉の背中をさすった。少し寝汗をかいているのか、髪がしっとりとしていて、体操服もじっとり濡れている。
「寝汗、拭いてあげるわ。」
「ありがと、琴音。」
保健室の先生から乾いたタオルと貸し出し用の着替えをもらい、サーっとカーテンを閉める。
「お姉ちゃん、体拭くから脱いで。」
私はベッドで姉の隣に座り、服を脱いだ姉の体を丁寧に拭く。以前、姉と2人で入浴した時よりも、姉は細くなっていた。
「お姉ちゃん、どうしてこんなに無理をしてまで……。」
「私と琴音の2人が私立の学校に行ってるから、私達の学費は高い。私は、1人のアイドルとして活動して給料を手に入れて、月本さんの力を借りずとも学費を払えるようになった。琴音だって知ってるでしょ?私の年収はお母さんよりも遥かに高い。だから、私が頑張らなくちゃいけないの。」
姉は、寂しげな目をして私を見つめている。こんな穏やかな様子の姉が、アイドル活動だけで、年に〇〇〇万円を稼いでると考えると、少し恐ろしくもある。
お母さんが倒れた日以来、近所の月本さんが姉の学費を代わりに払っていた。しかし、去年の夏、「自分は稼げるようになったので、自分で学費を払います。ありがとうございました。」と、姉が今までの感謝を月本さんに告げ、今までの学費分も返した。月本さんも姉の意思を尊重して、姉を見守るだけにした。
月本さんからも安心されるほど稼いでいる姉。その金額の分、体への負担は大きい。姉の給料からして、体調を崩さないほうがおかしい。
家族のために、姉は自分を犠牲にしてまで懸命に働いている。
「でも、それだと、お姉ちゃんが……。お姉ちゃん、壊れちゃうわ……。」
「私が、琴音のカチューシャ買った時のこと覚えてる?」
姉はほっそりとした手で、私が頭に付けてるカチューシャを指差した。
「ええ、覚えてるわ。今でもずっと大事に使ってる。」
私の付けているカチューシャは、私にとっては特別なものだった。私が小学5年生になってすぐの私の誕生日のこと。
姉が「安物でごめんね。でも、琴音にピッタリのカチューシャ選んできたよ。」と言い、私に緑色のカチューシャを買ってきてくれた。それは1000円は超えていたと思う。
姉は自身で稼いだお金で買ってくれたもの。姉が、私のためにと買ってきたことが嬉しくて、その日以来、そのカチューシャを大事に使っている。
「誓ったじゃん、私。琴音とお母さんに散々迷惑かけていたから、これからお返ししていくよ。ってね?」
姉は新しい着替えに袖を通しながら答える。
姉からそんなことを言われたことまでは覚えていなかった。しかし、昔のことを懐かしげに思い出す姉の横顔を見て、実際にそう言っていたんだなと悟る。
姉は、そのまま前を見ながら言葉をつづける。
「私ね、琴音とお母さんが大好きなんだ。その気持ちが私を支えてくれてる。だから、私は大丈夫なんだ。」
「今の状況で、本当に、そんなこと言える……?」
考えるより先に言葉の方が出た。怒りの篭った静かな声には、自分でも驚いたくらいだ。
姉は私に意表を疲れたのか、私の声にサッとこちらを振り向く。悪いことがバレてしまった時の子供のようにおびえた様子だった。
その姉の様子が、心に刺さって私の胸が締め付けられる。
「お願い、お姉ちゃん……!私も、お姉ちゃんとお母さんが大好き。だから、お姉ちゃんとお母さんには無理をして欲しくないの!」
私は姉に抱きついて懇願する。カーテンで閉め切った中だから、この姿を誰にも見られることはない。
今の私は、姉を思う気持ちしかなかった。恥ずかしいという気持ちを捨て、必死に姉を止めようとした。
「そうは言っても……。」
姉は何か言いかけたけど、言おうとしていた言葉は出さなかった。きっとそれは、私の思いに気付いているからであろう。
私の姉を思う気持ちに気づく一方、家族をお金のことで苦労させたくないという気持ちが根強く残っているからであろう。その気持ちは、一度失敗をおかしてしまった姉だからこそ強く残っているのだろう。
私達のために姉が頑張る姿は、私はとても嬉しかった。でも、これ以上姉にまでも、倒れてほしくなかった。今の姉の姿が3年前の母親の姿と重なったから。今度こそは倒れる前に助けたい、そう願う気持ちが強かった。
「お姉ちゃん……。どうして、わかってくれないの?……これ以上私達のために自分を犠牲にしないで!」
「ごめん、琴音……。」
とうとう、姉は何も言い返さなくなった。姉は、自分の気持ちを抑えて私の気持ちの方を優先してくれた。
やっと分かってもらえたんだ。と、ホッとする一方、本当にコレでいののかという疑問が私の中にうっすら残った。
② 妹同士
大会まであと10日となった。今日から、本番直前の日まで、部活の時間も延長して練習も追い込みの段階に入っていた。だが、私は全く練習に集中できずにいた
あの日から私は姉のことばかり考えていた。授業中も、食事の時も、入浴の時も、部活の時も。
考えないようにすればするほど、どうしても姉のことを考えてしまう。
「おい!琴音っ!」
「はっ、はい!すみません!」
ダンスの練習の休憩中に、姉のことを考えながら床に座って窓の外を眺めているとしていると、いきなり菜月先輩に怒鳴られた。その声でレッスン室の中の空気が凍りつく。
私が練習に集中できてないことは自覚できていたので、すぐに菜月先輩に謝る。
「いや、別にいいけどさ。お前さ、何か悩み事でもあるだろ?心ここにあらず、みたいな感じしてるからさ。」
菜月先輩がキレ出したわけではないので、他の3人は集まって楽しそうに話し始めた。
私に謝られたことで、逆に気まづそうな態度を取った菜月先輩。彼女は不器用なことが多いので、このように優しくしようとしてくれても、声をかける段階の時点で恐い。
しかし、私は普段から菜月先輩の優しさを知っているので、姉のことを菜月先輩に打ち明けることにした。
話を全て聞き終えた菜月先輩は、「はあ、そんなことがあったのか。それは辛いな。」と気にする様子もなく答えた。この態度から相手にされないことは、ある程度分かっていたが、それでもさらに続けた。
「姉には悪いと思っているんです。私、どうすればいいのでしょうか……?」
レッスン室の床をただひたすらに見つめることしかできない私に、菜月先輩は徐ろに語り始めた。
「私には兄貴がいる。あまり歳は近くないが。」
強気な性格の菜月先輩なら何となく居そうだなとは思っていたが、まさか本当にいるとは思っていなかった。
「やっぱお兄さんいたんですね。なんとなくですが、分かります。菜月先輩、強気な性格ですもんね。」
私の言葉が気に食わなかったのか、「何だよそれ。私、そんなふうに見えるのか?」と顔を赤くした。
それから菜月先輩は、日が傾き始めた外の景色を眺めながら、先輩とお兄さんとの過去のことについて打ち明け始めた。
菜月先輩のお兄さんは、通う学校でシスコンというあだ名が付くほど、菜月先輩のことが好きらしい。お兄さんは菜月先輩を幸せにしてあげたいと願い、アルバイトを掛け持ちしていたのだという。
「……それでアルバイトを多く入れていた兄貴は、今の香織先輩みたいに疲労で倒れた。その時、私、お前みたいに懇願したんだ。無理しないで、って。この時の兄貴の反応なんだったと思うか?」
菜月先輩は優しく微笑んで私に質問をする。突然、そんなことを言われてもという気になるが、この前の保健室でのことを思い出しながら、菜月先輩のお兄さんの答えそうなことを推測した。
「うーん……。大丈夫だ、とか?」
私の答えがあっていたのか、菜月先輩は笑顔になって「その通りだ。」と答えた。菜月先輩は普段は笑顔になんてならないため、今の菜月先輩に違和感しかない。
「私が、『兄貴のことが、大好きなのに!』って言うと、兄貴は、『ごめん。』とだけ呟いてさ。その後からは不思議と、兄貴が疲れた様子すら見せ無くなった。気がつけば、バイトも1つに減っていて。その時、気づかされた。兄貴は、私の思いを受け止めてくれたんだって。歳上だから必ず思いには気付いている。」
菜月先輩は私の頭にポンと手を乗せて、「だから大丈夫だ。心配すんな。」と声をかけてくれる。
菜月先輩からこんなに優しくされたのが初めてで、コレが現実なのかどうか怪しくなる。だが、頭の上に乗せてある手から伝わってくる温もりが、コレが現実だと教えてくれる。
菜月先輩から元気づけてもらい、心がスーッと軽くなった。私の姉なら、きっと上手くしてくれるはず、そう自分に言い聞かせて私は立ち上がった。
久しぶりの投稿になりました。夏休みなので投稿頻度多くしたいです。しかし、ここ最近文章力の欠如が進んでいるので読みづらいのすみません
次回よろしくお願いします