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ギャルズメロディー3期  作者: キスよりルミナス
2章   アイドル部創設
11/30

11話 姉妹の違い (琴音)

香織と琴音の詳しい姉妹関係について知りたい方は、ギャルズメロディー1期、2期をお読みになると良いかもしれません。

11話  姉妹の違い (琴音)


 

 ① トップアイドルの姉を持つこと



 純白な生地に眩しいイエローゴールドの装飾のなされたトップに、太ももの半分までの丈のスカート、膝丈より少し長いシューズ。後ろには天使の羽のように、美しく白いマントを羽織る。頭には、ユニットの名前に従い、王冠をつけている。

 白と金を基調にすることで清楚感のあるコーデに統一されている。


 アイドルユニットのCosmicrownは、そのコーデでステージに立ち、絶対的なパフォーマンスでアイドル界のトップに立ち続けている。その姿から、人々からは『天界の皇帝』と呼ばれている。厨二病っぽい名前が好みではないので、私は変わらずCosmicrownと呼んでいる。

 


 私には、上林香織という高校1年生の姉がいる。


 ソロアイドルとしては、日本のトップアイドル。また、日本一のアイドルユニット、Cosmicrown のセンター兼リーダー。


 アイドル活動は、ほんの2、3年前までは、大きな人気を博していなかった。しかし、姉の率いるCosmicrownにより、その人気はうなぎ上り。現在では、アイドル活動を主としたエンターテイメント『Venus LIVE』が出来て、その人気は爆発している。

 

 私の姉を「今のブームを作り上げた立役者」と言っても、過言では無いだろう。



 そんな姉を持っているが故に、妹である私は、色々と面倒なことに遭う。クラスメイトから姉のサインを要求されたり、会わせて欲しいと願われたり。初めのうちは、自分の姉が人気者であることを実感して嬉しかったけれど、徐々に面倒なことになっていった。

 そして、1番嫌なことは「姉妹で全く違うよねー。」と、姉と対比されることである。

 人気アイドルの姉と、普通の中学生の私。周りから見たら、「これがトップアイドルの妹か……。」と、なるのだろう。その気持ちは分からなくも無いが、あまり触れられたく無いことである。


 

 「琴音はいいよねー。香織さんの妹で。いつでも会えるし。」


 クラスメイトの誰かは、1日に1回必ずと言っていいほど、姉の話題を出す。羨ましそうに私のことを見るクラスメイトに苛立ちながらも、笑顔を作っていつも通りの対応をする。


 「で、でもね。お姉ちゃん、忙しいの。だから妹の私ですら、なかなか会えないの。」


 「だよねぇ……。香織さん大変だよね。トップアイドルだし。」


 クラスメイトは、私に気遣うかのように、無理に笑顔を作って返事する。だが、「トップアイドルだし。」の一言だけで、その気遣いも台無しである。私に対して言ってはいけない言葉ナンバーワンなのだから。

 

 「琴音!ちょっといい?田崎先生が呼んでる、職員室に来てくれる?」


 心の中でハァっとため息をついていたところ、華奈が早歩きで私の元へと来た。ドンヨリとした私の前に天使が現れた。


 生意気な感じの顔立ちのわりに、中身は可愛い女の子。長い髪をツインテールにしてまとめ、大きな水色のリボン2つで結んでいる。


 可愛い以外何物でもない華奈を目の前にして一気に心が和む。今すぐにギューっと抱きしめたい気分に駆られるけれど、みんなの前でそんなことはできない。

 

 「わかったわ、職員室に行こっか。」


 席を立ち上がり、さっきまで話していたクラスメイトに「行ってくるね」と告げて、華奈と教室を出る。

 教室を出てから暫くして、華奈にギュッと抱きつく。そして華奈のほっぺを、むにゅーっとつねってみる。本当によく伸びるほっぺである。

 

 「ち、ちょっほー。はなほはわいいはおひはひひへんふかー!(ち、ちょっとー。カナの可愛い顔になにしてんスかー!)」


 冗談混じりなのか、本気なのか。どちらとも取れないようなトーンで、自分のことを可愛いと言っている。華奈は、自分に自信があるのか、よく鏡を見て嬉しそうにしている。 

 そんな華奈の一面も、私にとっては尊いものである。


 「ふふっ、じゃ、離してあげるわ。可愛い華奈ちゃん。」


 手をパッと離すと、華奈は「可愛いカナを弄らないでよ。マネージャーしないよ……?」と、ぷくっと頬を膨らました。


 「ふふっ、ごめん。ついつい……。」

 

 その華奈の様子が面白くて、笑いながら華奈に返事をする。華奈は、「もうっ。」と、さらに頬を膨らましてフグみたいな顔をする。だが、何かを思い出したかのようにハッとして、いつも通りの顔に戻る。


 「琴音、田崎先生から呼ばれたのは、アイドル部の件なんだけどー……。」


 華奈は私の様子を伺っている。モジモジとしながら、言いづらそうに上目遣いで私のことを見つめている。

 こんなに愛おしくてかわいらしい女の子が、まさかバスケで日本一だなんて考えられない。まるで、私がトップアイドルの妹であるのと同じように。


 「うん。何かあったのかしら……。」


 「琴音だけ呼んで来て欲しい、って言われたんだ。何故か琴音だけ。」


 田崎先生は、前まであったアイドル部の顧問だったらしい。姉、菜月先輩、胡桃先輩からもその事は伝えられていた。

 元トップアイドルの田崎先生のことだ。きっと、「香織ちゃんに負けないように、琴音ちゃんは、もっと練習しなさいよ?」とか説教なんだろうな。

 



 どういう風に言い訳をしようかと、あれこれ考えているうちに職員室の前に着いた。


 6月だというのに、外気温で30℃以上を観測する日があったりする。それの影響で職員室全体にクーラーが効いている。入るとすぐにヒンヤリとして、外との寒暖差の影響で、むしろ寒く感じてしまいそうなくらいだ。


 テストを2週間後に控えて、分からない問題の質問に来る生徒や、ノート提出をする生徒達が少なくはない。他の人に当たらないように、華奈と田崎先生の元へと向かう。


 「田崎先生。上林琴音です、今回の用件は何ですか?」


 どのように話題を切り込んで来ても良いようにと、覚悟を決めて先生に話しかける。私の様子を見て、不思議そうに首を傾げて「何故、表情が固いのかしら?」と独り言を呟く。そして、キレイに整頓された机の上にある1枚のプリントを、私にそっと手渡した。


 「今日、琴音ちゃんを呼び出したのはね、これなの。近くの『橋奈商店街』でのイベントに出てライブをして欲しいっていうお誘いなの。」


 説明をしてもらった後に、貰ったプリントにサーッと目を通してみる。

 『橋奈商店街』50周年を祝ってイベントをするらしい。そこで、桜咲学園のアイドル部にお誘いが来たとのこと。


 「菜月ちゃんや胡桃ちゃんは、その日に、『はしいかえん』のイベントにオファーが掛かっていて。神楽ちゃんは、ピアノの発表会がその日にある。ということで、琴音ちゃんしか居なかったの。都合とか大丈夫かしら?」


 私何余り物だったから、選ばれたように聞こえるけれど、それを引きずっていたって仕方がない。選ばれたからには、そのライブに全力で挑むのみである。

 そして、上林琴音が、姉には引けを取らない実力があることを、世間一般の人に見せつける絶好の機会。


 「わかりました。上林香織に引けを取らないようなライブをしてきます。」


 「え?……あ、うん。頑張ってね!」


 職員室の中であることを忘れて、つい、強めに言い放ってしまった私の言葉に、田崎先生は一瞬だけ反応した。予想外の答えが帰ってきたかのような反応だったけれど、すぐに笑顔を作って私に応援の言葉をかけてくれた。





 ②   それぞれの個性



 商店街のイベントの日、朝早くから商店街へと華奈と向かう。出番自体は昼過ぎなのだが、本番前のミーティングやら何やらで、集合は朝6時となっていた。

 昨日は雨が降っていたので、路面には水溜りがいくつもある。本番前であるのに、水が跳ねて汚れてしまってはいけないので、私は足元や周りには注意をしながら歩く。

 太陽が雲に隠れていて、なかなか路面を乾かしてくれそうにはない。

 

 ふと、隣にいる華奈に視線を向ける。華奈は眠たそうに目元をこすりながら、フラフラとおぼつかない足取りで歩いている。

 


 「カナもついて行くのは意味わかんない……。今日は日曜日で休みなのにぃ。」


 華奈はムニャムニャとした聞き取りづらい眠たそうな声で、不満気に私に訴えている。華奈はイベントに出るわけでは無いが、私がむりやり連れてきた。


 華奈についてくるように頼んだ時は、スッパリと断られたけれど、「これもマネージャーの仕事なのよ。」と言うと、華奈は渋々と納得した様子を見せた。


 「マネージャーの仕事でしょ?華奈はアイドル部のマネージャーなのよー。みーんなのお手伝い役しなきゃねー。」


 華奈の頭を撫でながら優しく話しかける。本当は、商店街のイベントみたいなものには、マネージャーなんて連れてこなくてもいい。だが、1人でイベントに行くとプレッシャーに押しつぶされそうなので、お守り的な意味を込めて華奈を連れてきた。。


 「琴音なら1人で大丈夫でしょ……?カナは眠いのぉ〜、ふわぁぁぁ……。」

 

 一般の通行人も行き交っている歩道の真ん中で、隠す素振りも見せず大きく口を開けて歩いている華奈の様子を見ると、少しだけ心が和む。

 琴音が私の能力を認めてくれるのは嬉しいが、その言葉に甘えてしまってはダメだ。私が上林香織の妹であるということで、寄せられる観客の期待は常人よりは大きいだろう。そのことを意識すると、すぐに気が引き締まる。


 「油断は禁物よ!上林香織の妹として、恥じぬことの無いように完璧でなければいけないのよ!」


 「そうなんだね……。ってか、琴音が、あの上林香織の妹ーーーー!?」


 通勤時間帯に周りを行き交う車などの音に負けないくらい大きな声だった。周りの何人かが、華奈の声に反応して一斉に私達の方を振り返る。


 「こ、こら!華奈、静かに。」


 華奈の口元を手で押さえても、華奈はまだ何か話そうとして口元をモゴモゴさせている。華奈がある程度落ち着くと、ゆっくりと華奈の口元から手を離してあげる。


 どこから漏れたのか知らないが、私がトップアイドルの妹であることは、学校中に知れ渡っていた。ほとんどの人が知っていて、アイドル部のメンバー以外からは「香織さんの妹なんでしょ!?」と、何回も言われたことがある。

 だが、この学校に来てから初めて、私がトップアイドルの妹である事実を知らない人と出会った。

 あんなに噂になっているのに、未だに知らない人が居るということに半分呆れて半分驚いた。


 「……華奈、知らなかったの?」


 「カナ、初耳だよ!だって、琴音はそんなこと全くカナに話してないじゃん!」


 久しぶりに会った幼馴染が超有名人でした、という程度に、華奈はアワワと慌てふためいている。私から華奈にその事は話していないし、私と姉は義理の姉妹の関係であるため見た目はそんなに似ていない。

 言われなければ分からないよね、と思いながら華奈に「そうだったわね、ゴメンゴメン」と返す。


 「にしても、トップアイドルの姉を持つんじゃ、比べられてばっかりなんじゃない?」


 落ち着きを取り戻した華奈は、私の様子を伺いながら訪ねてきた。他の人達からも同じような質問をされる時はあるけれど、華奈だけは他の人たちとは違った。

 華奈以外の人は、他人事であるからと遠慮する様子すら見せずに聞いてくる。しかし、華奈はまるで自分のことであるかのように聞いてくれた。

 半年ほど前、小6だった華奈は小学生の大会で元全国トップのバスケの実力者であった。そんな華奈は、私とは違うはずである。姉のように優れた者として、誰かと比べられる側であろう。それなのに、どうしてここまで私に寄り添うようにして話しかけてきてくれるのか分からなかった。

 それでも私は華奈に自分の心の内を打ち明けた。


 「そうなの、お姉ちゃんと比較されちゃうのよね。一応姉妹だし、同じ土俵の上で比べられてる感じ。だから、引けを取らないようにって思っちゃうの。そして、姉妹としてお姉ちゃんの恥じにならないようにって意気込んじゃう。……今もそうなっちゃってる。」


 初めて優しく親身になって話しかけられたことで、私も安心して話しすぎてしまった。

 中に隠していたことを少し打ち明けて、華奈に心配して欲しかった。私の気持ちを察して欲しくて視線をチラチラと華奈に向けるが、華奈は悩んでいる様子を見せるだけで私の合図に気付いてくれない。

 

 「んー。カナは、琴音の考えてること、何か違うと思うんだよねー。」


 重そうな雲に覆われた空を見上げたまま立ち止まり、華奈は誰かに向けることもなく呟いた。横を歩く歩行者たちは、不思議そうに華奈を見ながら通り過ぎていく。


 華奈に心配されるどころか、考えていたことをストレートに否定された。私の聞き間違いでも無い。

 華奈は自分の意見をハッキリ言う人では無いタイプであるため、こんなに意見をハッキリと言うということは、どうしても私の意見を受け入れきれなかったのだろう。


 「えっ?違うってどういう……」


 「琴音と香織さんは、同一人物なんスか?」


 「ち、違うけど?」


 「じゃあ、2人は同じもので比べられないじゃん?」


 華奈の言わんとすることは、何となくだがわかる。だけど、私も華奈の意見を受け入れることはできない。

 華奈に言い返そうと言葉を探していても、周りの騒音のせいで、頭の中で全く意見が纏まらない。

 そんな私華奈は静かに微笑んで見つめている。そして、私に一歩近づいてから口を開いた。


 「琴音の気持ちが何となくわかるんだ。同じ家族に出来過ぎたお父さんをもったから。」


 そう告げた華奈はどこか寂しげな表情をしていた。それは、姉が中学生の時の甘酸っぱい恋愛の時のことを話す時と同じ表情だった。どこを見つめることもなく懐かしそうに振り返る姿が、大人っぽく見えて惹かれてしまう。


 「カナのお父さん、海外のチームに所属するプロバスケ選手なんだ。だから、バスケしていた時は、お父さんと比べられることもあった。だから、比べられてプレッシャーがかかることがあった。」


 華奈の話していることは、私の経験をアイドルからバスケに変えただけであった。それくらい今の私と同じ状況であった。

 華奈のことを姉と同じようなタイプと見ていたけれど、実際は私と同じだったということに親近感が持てた。

 

 「華奈にもそんなことがあったのね……。」

 

 風に吹かれて顔にかかる髪を丁寧に払いながら、私のことを優しく見つめている華奈の姿は美しかった。

 普段は歳下のようで目が離せない華奈に、初めて自然と目を奪われた。

 周りには沢山のものがあるのに、まるで2人だけの世界に引きずり込まれたかのように、華奈のことしか情報が入ってこない。


 「そうなんだ。でね、その時に、お父さんがカナに言ってくれたんだ……。『人にはそれぞれの個性がある。周りからなんと言われようと、お前は自分のありのままで突き進めばいい。』ってね。」


 華奈がゆっくりと丁寧に紡ぎ出された言葉が私の胸を打った。華奈のお父さんの言葉を心の内で繰り返せば繰り返すほど、考え込んでいたことがバカらしく思えてくる。

 悩んでいたことが吹っ切れたと同時に、重たそうな雲から太陽が顔を出して世界が明るくなる。


 「……私、やっと気づけたよ。お姉ちゃんはお姉ちゃん。私は私。それぞれが自分らしく居れば良いのね!」


 「そうだよ、琴音。琴音は琴音、だよ。」

 

 さっきまではどこか悩んでいるような、しみじみと感しているようなで普段の明るい華奈では無かった。だが、私の言葉を聞いた華奈は、空から出てきた太陽に負けないくらい眩しい笑顔になった。

 その華奈の笑顔が、あの言葉が本当であると私に確信させた。

 

 「私は私らしくいればいいのね。」


 だんだんと近づいてくる商店街を見ながら、私は自身に問いかけるようにそっと呟いた。


次回もよろしくお願いします。

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