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ギャルズメロディー3期  作者: キスよりルミナス
2章   アイドル部創設
10/30

10話 アイドル部創設《後半》 (華奈)

ある日の昼休みに、華奈が音楽室前を通った時の場面から始まります。

10話  アイドル部創設《後半》 (華奈)



 ①  アイドル部の5人目



 髪を1つに束ねた女生徒が、誰に見せることもなくグランドピアノを弾いていた。背筋が綺麗に伸びているその人は、楽譜を置かずに外の景色を眺めながら演奏していた。

 誰もいない音楽室に響き渡る音色は、音楽室のドア越しに聴こえた。

 目の前で、プロのピアノのコンクールが開かれているかのように感じる。

 一つ一つの音が丁寧に紡ぎ出されて、曲を作り出している。上品に奏でられるその曲を前にして、カナはそれに聴き入ることしかできなかった。


 「素敵な音色……。弾いているの、誰なんだろ?」


 その場を包みむような音色が、カナを虜にした。音楽に興味の無いカナでさえ、もう少し聴いていたい、他の曲も聴いてみたい、そんな気を起こさせるほど、奏者の演奏は美しい。

 曲がクライマックスになって、カナは周りの状況が入ってこないほど聴き入っていた。そして、曲はゆっくりと終わりを迎えた。

 不思議な引力が働いているかの如く、曲の間は離れなかった。曲が終わった今でも、演奏の素晴らしさに、緊張で身体が強張っている。


 その場から動かずに女生徒の様子を見ていた。

 ピアノを弾いていた女生徒は、ガタリと音を立てることもなく、静かに椅子をずらして立ち上がる。

 そして、こちらの視線に気づいたのか、女生徒がこちらを振り向いた。勝手に覗き見をしていたのがバレたらまずいと、身を隠そうとするが、反応が遅れて女生徒と目が合ってしまう。

 

 「ご、ごめんなさい……!って、神楽さん……?」


 カナと目が合うなり、慌てふためいた様子を見せた神楽さんが、音楽室にドタドタと足音を響かせてカナの元へと来る。上品なお嬢様でも、焦ると上品な様子では無くなるんだな。


 「こ、この事は、誰にも内緒で。……というより、何故、私の名をご存知で?」


 本人的には感情の起伏をつけているらしいが、カナには全てが同じトーンに聞こえる。慌てた顔でも、不思議そうにこちらを見る顔も同じだった。

 きっと、神楽さんは、あまり感情表現が上手くないのだろう。声のトーンだけでなく、表情にもあまり差は無い。


 「神楽さんと同じクラスの 夢咲華奈 っス。よろしくお願いしゃっス。」


 同じクラスであると聞いた神楽さんは、ホッと溜息をついて安堵した様子だった。


 「そうでしたか。私のことを覚えてくださって光栄です。よろしくお願いします、華奈さん。あと、私のことは気軽に 神楽 と呼んでもらっても構いません。」


 神楽さんの話し方は、機械の話し方のように丁寧である。同じ学年だと聞いても尚、敬語で話しているところ、抑揚をつけることなく単調に話していくスタイルが、機械のようである。

 カナは優しいから「そういう人も居るよね。」となるけれど、人によっては、「事務的に話してきて嫌だ。」と思う人もいるかもしれない。それが、彼女の話し方に対する感想である。

 嫌であるかどうかはさておき、神楽さんの圧倒的な完璧オーラが、カナをピリピリとした空気に包んで緊張させてしまう。

 神楽さんの周りから溢れ出るオーラは、目には見えないものの、まるでそれが見えているかのように強い。


 「そ、それなら……。よろしく、神楽!てか、カナだけってのもあれだし、華奈って呼んでもいいよ。堅苦しいの嫌だしっ!」


 神楽と呼ぶと、さん付けをしていた時よりも嬉しそうである。珍しく感情が表に出たのがわかった。

 神楽とカナとでは、人間性とかは格の差が大きいけれど、同等の立場でいたかった。同じクラスメイトならば、同じ目線の高さで話すのがベストだろう。

 それに、カナが個人的に神楽と仲良くしたかったからのも理由としてはある。 


 「それではよろしくお願いします、華奈。」


 あまり他人とのキョリが近くなかったのか、カナがいつもクラスメイトと話す時のように接しただけでも、神楽は顔を薄い桃色に染めてはにかんでいた。

 敬語は消えることは無いけれど、少しだけ神楽とのキョリを縮めることができた気がする。神楽も初めて会った時よりは、断然、表情が良くなっている。こういう表情もできるんだ、くらいに感じれる程には表情が分かりやすい。


 「あ、あの。華奈に伺いたいのですが、上林琴音さんを知っていますか?」


 神楽は遠慮がちに尋ねてきた。神楽が、まだ学校に来てから間もないのに、なぜ琴音のことを知っているのか分からない。

 琴音は別に有名人でも何でも無いはずなのに、どうして名が知られているのだろう。

 日本のトップアイドルである上林香織と、名字が同じだけ。上林香織とは、姉妹でも何でも無さそうだし、名が知れ渡る理由は無い。

 ハッキリとした理由は分からないけれど、「きっと、特別な理由でもあるんだろう」程度に考えて、琴音について簡単に答える。


 「あー、同じ部活に入ってるよ!アイドル部って部活なんだ。まだ、部活自体は作られていないけどね。予定の話ってこと、予定。」


 神楽は音楽できるし、都合よくアイドル部にならないかな……?と、チラチラと視線を合わせてアピールしながら説明する。

 こちらのアピールに一向に気づいてくれて無さそうな神楽は、何かを考える様子で「なるほど……。」と小さく呟く。


 「つまり、華奈もアイドル部なんですか?」

 

 「ま、まあ。そうだけど。」


 話には特別な興味を示していないが、決して全くの興味無しではなさそうな様子。珍しくアイドル部の話に食い付いてくれた人に会えた。

 もしかしたら、神楽なら釣れるのでは?と考えつく。


 だが、神楽みたいな静かな人がアイドルになれるのだろうか?と考えてしまう。アイドル部に勧誘する時、毎度の如くこのようにストップが掛かってしまって誘えない。


 『アイドルなんて誰でもなれるわ、なりたいと願う気持ちがあれば。』


 琴音の言葉がカナの脳裏をよぎった。アイドルになるには、能力よりも意志の方が大事だと教えられたばかりだった。

 

 仮に、神楽になりたい気持ちがあるなら、アイドル部のあと1人の枠を埋めれる。

 本当に居るのか分からないアイドルの神様に頼みながら、一か八かの覚悟で神楽に聞いてみる。


 「神楽、アイドルになりたい気持ちはある……?そのぉー、ちょっと参考程度にというか……なんというか……」


 「そうなんですよ、華奈!私は、アイドルになってみたかったんです!だから、私、アイドル部の琴音さんを探していて!」


 カナが言い訳をゴニョゴニョと言っていると、ボリューム調節の壊れたスピーカーくらいの声の大きさで、神楽はワーっとカナに向かって言った。

 

 今、アイドルになりたいって……?

 

 あまりに騒がしくて、カナが聞き間違えてしまったのかと、自分の耳を疑った。けれど、その言葉に間違いはなかったようだ。


 神楽は大きな決意した顔立ちでいる。神楽が、本気でアイドルになりたい意志が伝わってくる。

 

 「りょーかい!部活作るのに、あと1人が必要だったんだ!一緒に琴音んとこ、行こっ!」


 カナもあまりの嬉しさに興奮して、勝手に声のトーンが上がってしまう。

 嬉しそうな表情で、カナと目を合わせる神楽からは、近寄り難い雰囲気を感じることは無く、みんなと同じような空気を纏っていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※



 「ってーことで、カナのクラスの西園寺神楽を連れてきたよ!」


 音楽室で神楽と出会ってからの事情を琴音に告げて、アイドル部志望の神楽を紹介する。


 「あっ!神楽さん、退院できたのね。おめでとう。」


 あたかも、以前から神楽のことを知っていたかのように、琴音は気軽に話しかける。いきなりの演出に、神楽は困ってしまっているのでは?と思い、チラッと神楽を視界の端に入れる。

 しかし、彼女は困った様子を見せることもなく微笑んでいる。


 「あの時は、ありがとうございました。あのライブを観てから琴音さんに憧れて、私はアイドル部になりたいと願いまして、今回入部を希望させていただきました。」


 淡々と話していく様子を見ていると、神楽も琴音とは知り合っていたようだった。カナの知らない所で、2人が出会っていると分かると、カナに押し寄せてくる疎外感を否めない。


 「私に憧れて……?も、もちろんいいわよ?ち、ちょうど部員が5人揃ったし。」


 琴音は頬をピンクに染めて照れた様子で答えている。琴音は褒めに弱いのだろう。

 琴音の話し方が、アニメや小説に出てくるようなツンデレな妹キャラのような話し方になっている。その話し方が面白くて笑いを堪えられず、つい、ぷっと吹き出してしまう。


 「ち、ちょっと!笑わないでよ?」


 「ごめんごめん。ついつい。」


 その反応も可愛らしくて、笑いを堪えるのが余計に困難になる。腹筋が痛くなってきたけれど、笑いが止められない。

 そんなカナの様子を見て、琴音は「もう……」と、不貞腐れたけれど、「あっ。」と何かを思い出したように、カナに話しかけてくる。


 「そういえば、華奈ってバスケしていたんだよね?バスケ部とか入らなくてよかったの?私、無理にアイドル部に誘ってしまったし、華奈はそれでいいのかなって……。」


 急に真面目な話になってカナの笑いも自然に収まる。2つ隣のクラスの琴音にも知られるほどに、カナのバスケの話が広まっているのか。

 こればかりは、こちらも真剣に答えなければならないので、笑いで乱れた呼吸をゆっくりと整えながら答える。


 「カナは問題ないよ。カナ、怪我してしまってるし……。それに、バスケはもういいかなって……。」


 自分の胸に手を当てて、自分の本心を確認しながら答える。この解答に満足した時、カナは自分の心情のある異変に気づいた。


 バスケへのやる気が無くなりかけていた。


 カナは何よりもバスケを愛していたのに、その熱が急に冷めたことに自分でも驚く。

 

 「え、でも、ケガならアイドルも無理なんじゃ……」


 琴音と神楽が、不安そうにカナを見つめている。2人が心配してくれていることが嬉しくて、もっと気にかけて欲しく、カナは敢えて辛そうな表情をする。


 「それはそうだけど……、アイドル部なら何となくいけるかなって。」


 何の根拠もないけれど、カナは本当にそう思った。それに、カナはあの後ろ姿を見て決心したんだ。

 

 同じ部活で、アイドル活動をする琴音のことを支えてあげたいって。


 どうすれば怪我のことを考えずに、琴音のことを支えてあげれるんだろう……?悩み込んでいたその時、カナの頭の中に1つの名案が思い浮かんだ。


 「カナ、マネージャーになるよ。」


 「それだわ!それなら怪我をしてしまっている華奈にも出来そうね!」


 カナの名案に、嬉しそうに喜ぶ琴音を横に置いて、神楽は考え込んでいる様子を見せている。

 どうしたのだろうかと思い、聞くべきか迷っていると、神楽の方からカナに話しかけてきた。


 「お話に水を差すようで悪いのですが、マネージャーならば、バスケ部でも出来そうなのでは……?」


 申し訳なさそうに神楽は呟いた。神楽のその発言でその場の良い雰囲気は完全に固まってしまう。


 「それもそうね……。なぜ、カナがバスケ部のマネージャーを選ばなかったのかは、私も気になるわ。」

 

 琴音も心配する様子で私のことを見つめている。2人の心配そうに見つめる視線が集まっているのがわかる。


 マネージャーの仕事はバスケをしていた時に、ある程度は把握したいから分かる。

 部員のユニフォームの選択、練習メニューの発表、手伝い、ボール拾い、他校との練習試合の交渉……。と、怪我のことなんて全く気にせずにできる仕事である。


 つまり、カナはマネージャーであれば、バスケ部にも行くことは出来るのだ。

 それでも、カナはバスケを選ばずに琴音を選んだ。


 「た、たしかに……。で、でも。バスケ部のマネージャーは……。バスケ、嫌いじゃないけど……。」


 バスケへの微妙な気持ちが、カナを琴音の方に傾かせたのだ。

 なぜ、このような気持ちになっていたのかを、過去のことを振り返りながら言葉に出してみることにした。

 

 「バスケをやっていた頃は、カナは県代表とかにも選ばれて、チームではキャプテンに選ばれて……。それに加えて、父親がプロバスケ選手。立場上、カナは常に結果を求められていたんだ。それで、無理をしていたら怪我をしてしまってバスケが出来なくなった……。結果ばかり求められて、気がつけばバスケのことを徐々に避けるようになっていたんだ。」

 

 ポツリポツリと言葉を吐き出す度に、殻を被っていた自分の本心が姿を現してくる。その本心は、今までのカナの表面上の気持ちを全て否定するような気持ちだった。

 自分の本心にも気づけないような自分が居たことが情けなくて、続ける言葉すらも思い浮かばない。


 「そうだったんだね。私や菜月先輩、胡桃先輩に相談してくれればよかったのに。」


 琴音が俯くカナの肩に、温かい手を優しくのせてくれる。それだけで、気持ちが軽くなる気がした。これが本当のアイドルの力だったりするのかな……?


 「だけど、こんな気持ちには今まで気づけていなかったんだ……。今、初めて言葉に出して気づいたよ、こんな気持ち。」


 もっと早くに気づけていれば、琴音や先輩達にも相談できたのにと悔しい気持ちに覆われる。

 それに、バスケを懸命に頑張る千紗やバスケ部の先輩達に、バスケ部に入らない理由としてカナの本心を告げることなんて出来ない。


 「カナ、バスケ部に友達がいるんだ。その子には、カナがアイドル部に入ることを伝えてなくて。それに、私をバスケ部に勧誘してくれるバスケ部の先輩達にも伝えてない。どうしても伝える勇気が出てこなくて。カナ、どうすればいいか分かんないよ。」


 バスケ部の先輩にも千紗にも、本当のことを伝えられない。バスケ部の先輩達はカナのことを待ってくれている。千紗はバスケの仲間として、カナだけ裏切るわけにはいかない。


 すぐ弱気になってしまうクセを直したいのにと、何度も思った。そして今も思っている。もっと強気にならなくちゃ、いつまでも現実から目を逸らし、一生閉じ籠ったままになってしまう。


 「自分の気持ちは相手に伝えるべきですよ。」


 スッと神楽の言葉がカナの耳に入ってくる。神楽の方を見ると、少しだけ辛そうな顔をした神楽がそこには居た。


 「華奈以外から事実を知った時、事実を隠されていたままの友達は怒るでしょう。大切なことをどうして伝えてくれなかったのか、と。ですから、その友達には必ず己の言葉で報告するべきですよ。そして先輩達には、可能であれば伝えるべきですね。」


 まるで経験したかのような語り口だった。そのセリフ一つ一つに、「私とは同じような経験をしないで欲しい。」という願いが込められているように感じた。

 本心を包み隠そうとせずに、相手にぶつける神楽の姿に胸を打たれた。


 神楽の言葉に託した本心を決して無駄にはしない。


 「分かったよ。カナ、勇気を振り絞って頑張ってくるね!」


 千紗やバスケ部の先輩達のために、そして自分がもっと精神的に強くなるために、カナは自分の本心を、千紗達にぶつけることにした。




 ②  カナの決意

 


 千紗を通して、バスケ部の部長とお話をする貴重な時間をいただいた。女子バスケ部は3年生最後の大会が近づいているから、今は忙しい時期であろう。

 それなのに、部長はカナのために時間を割いてくれた。


 「ごめんなさい、カナ、実はケガをしていてバスケが出来ないんっス。誘ってもらっていて申し訳ないんっスけど、断らせてもらってもよろしいっスか?」


 ここに来る前に何度も練習したセリフだが、本人を目の前にしてどうしても固くなってしまう。

 申し訳ない気持ちで押し潰されそうになりながらも、カナの気持ちをバスケ部の部長に告げた。

 部長はカナの話を前から知っていたかのように、「本当にそうなのね……。」と残念そうに呟いた。

 それから、カナに一歩だけ近づいて、優しい笑みを浮かべて、カナの頭を撫でてくれる。


 「そんな、かしこまらなくても……。残念だけど、ケガなら仕方ないわ。華奈ちゃん自身が一番大事だから。あと、華奈ちゃんの怪我の話は、千紗から聞いてるから問題ないわ。」


 「……千紗、から?」


 千紗には、「カナ自身で部長に怪我のことを言いに行く。」と言っていたはずだ。なのに、どうして千紗が先に伝えに行ったのだろう。

 千紗ほどの人物が理由もなく行動をするはずが無いから、余計に分からなくなる。


 「そうそう。千紗、華奈ちゃんのことが心配だったらしくて、私の元に事情を伝えに来たんだ。『華奈だと、バスケ部に言いに来るのが辛いだろうから、代わりに言いに来ました。』ってさ。……いい友達、持ったわね。」


 千紗の顔が頭の中に思い浮かぶ。カナのことを真剣に考えてくれている時の千紗の顔だ。

 千紗はカナの怪我のことを最初から気にしてくれていた。「カナとバスケをしたかったなぁ……。」と、遠くを見て呟いていた千紗の様子も思い出す。

 千紗は、カナとバスケをしたいと願ってくれていた。それなのにカナが怪我でバスケを出来なさそうな時は、カナの身体のことを優先してくれた。


 先輩の言う通り、本当にいい友達なんだな。


 「あの時、私達もケガのこと知らずに、華奈ちゃんを無理に誘ってごめんね。」


 部長は、申し訳なさそうにカナに謝る。千紗以外のバスケ部には、怪我のことを一切伝えていなかったから、それは仕方のないことだと思う。


 「そんな、謝らないでください。カナはいいっスよ。誘ってもらって嬉しかったっス!」


 カナのことを必要としてくれる場所があった。その事実だけでも、カナは嬉しかった。

 今までは、チームのキャプテンだったから、必要とされたのは当然だった。しかし、何の役職にも就いていない帰宅部のカナのことを求めてくれて、バスケ部で待っていてくれたことが嬉しかった。


 「それなら良かったわ。ところで、華奈ちゃんはどこかの部活に入る気はない?」


 「え?ど、どうしてっスか?」


 「もし入らないなら、マネージャーをしてもらいたいなって。別に無理しなくてもいいわ。ただ、もし良ければって感じで。」


 唐突に、部長の方から本題を聞かれて焦る。カナの押しの弱さだと、部長のペースに乗せられてしまうと、バスケ部に入ってしまいそうだ。

 

 でも、カナは決めたんだ。


 自分に正直になって、自分の本心を相手に伝えると決めた。押されそうになりながらも、グッと気合を込めてカナは口を開く。


 「ごめんなさい、カナ、アイドル部のマネージャーをすることに決めたんっスよ。その……アイドル部に応援したい人ができて……」


 やっと本心を相手に伝えることができた。自分の胸の内がスーッと軽くなった気がした。

 溜まっていたモヤモヤが吐き出されたかのように、身体が軽くなった気がした。

 

 けど、気持ちが軽くなる代わりに、部長への罪悪感も芽生えてしまう。


 今まで、カナのことを必要としてくれていたバスケ部の断りを、最後まで断ってしまった。

 それだけが、カナの心の内に残ってしまった。


 「そう……。本当は残念だけど、華奈ちゃんが選んだ道なら、私はそれを勧めるわ。」


 残念そうな表情を一瞬だけ見せたけれど、すぐにそれを消した。部長は、一目見てわかるほどの、偽りのない無垢な笑顔になった。

 それで気づいた、部長は本当に良い人なんだなって。

 

 「あ、ありがとうございます!」


 最後まで丁寧に、かつ、優しく対応してくれた部長に心の底から感謝をする。


 「でも、私達バスケ部は、いつでも大歓迎だよ?入りたくなったら、是非いらっしゃい!」


 本当の気持ちを伝えられても、最後までカナのことをフォローしようとしてくれる部長に、「わかりました。その時は、よろしくお願いします。」と、精一杯の感謝を込めて伝えた。




  ※ ※ ※ ※ ※ ※


 その日の夜、カナは寮の部屋で千紗にも、本心を伝えることを決意した。


 「千紗、ちょっといいかな?」


 「いいよ、どうしたの?」


 まるで、カナのその言葉を待っていたかのように、すぐに反応が返ってくる。部活で疲れているのか、普段よりもやんわりとした口調だった。


 「あ、あの……。伝えたいことが一つあって……。カナ、実はアイドル部に入る予定なんだ。マネージャーとしてなんだけどね。」


 カナの言葉の全てを聞き終わった千紗は、暫くの間、ポケーっとカナのことを見つめていた。狐につままれたような様子でいた千紗は、ようやくカナの話が理解できたのか、「そうなのね……。」と、ため息をするように言った。


 「新しい部活、見つけれて良かったじゃない?」


 千紗は、静かに微笑んでカナのことを認めてくれる。本当は多くの気持ちが入り混じっているのかもしれないが、それでもカナを責めるでもなく認めてくれた。

 

 「そ、その。本当にカナは行ってよかったの?……マネージャーならバスケ部でも出来るんだけど、アイドル部に行ってしまって。」


 千紗は本当はどう思っているのかを知りたくて、もう少しだけ揺さぶってみる。

 どう言われても良かった。だけど、千紗の気持ちを抑えられたまま、話が終わってしまうのが、カナには耐え難かった。

 本当の気持ちをカナにも晒して欲しい。


 千紗にはこれからも、本当にいい友達でいて欲しいから。


 「本当は一緒にバスケ部に居たかったけど、カナの気持ちを優先させて欲しい。……その代わり、私と誓って欲しいことがある。」


 「誓ってほしいこと……?」


 妙に改まった雰囲気を醸し出して、そんなことを言われるとこちらまで緊張してしまう。

 誓ってほしいこと……、と言われて思いつくのが何もない。どんなことを千紗がカナに望んでいるのか分からない。


 「私はバスケ部でエースになる。だから、カナはマネージャーとしてアイドル部に全力でいて欲しい!」


 千紗はサラリと言った割に、頬を少しだけ染めて照れている。カナであっても、こんなこと言うのは恥ずかしい。

 プライドの高い千紗なら尚更であろう。

 それでも、千紗はカナに本心を表してくれた。カナは、千紗がカナのことを本当の友達として認めてくれていたことに安堵する。


 「もちろんだよ!一緒に頑張ろ!」


 カナの返答を聞いて安心したのか、千紗は普段見せないようなホッとした笑顔をカナに見せた。

 


これからもギャルズメロディー3期をよろしくお願いします。


次の投稿は来週の水曜か、再来週の日曜になりそうです、すみません。

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