1話 閉ざされた夢 (華奈)
ギャルズメロディー3期は、1・2期とキャラを変えて、新シリーズとなりました。
夢咲 華奈のアイドル部での日々を書いていこうと思います。
投稿頻度は遅めですが、1年間ギャルズメロディーをよろしくお願いします。
1話 閉ざされた夢 (華奈)
夢咲 華奈 の夢は、お父さんのように世界で活躍できるプロバスケ選手だった。
スポーツをする小学校低学年の多く、あるいは高学年の夢を諦めない人は、「将来の夢は何ですか?」と聞かれたら、定型分のように返す。
「プロの選手になって世界を目指したいです!」
実際のところ、日本の中だけでも数え切れないくらい多くの人が、激しく競い合い世界を目指している。
そのような現実を知ると、「本当にその夢は叶うのか?」など言われてしまったら強くは言い返せない。
こんなに偉そうに語っているカナも、ついこの前までは、前に述べた人達と同じく大きな夢を持っていた。
夢が近づけば近づくほど、当たり前な事を忘れてしまっていた。普通に過ごす日常に慣れて、日常が無くなるなんて考えていなかった。
※ ※ ※ ※ ※
放課後にすることが無くて、校舎裏の整備されている中庭で訳もなくボーッと過ごす。校舎を挟んで反対側の、運動場や体育館からの部活をしている声を聞きながら、「バスケットボールしたいなぁ……」とぼやく毎日。
「早く前みたいにバスケがやりたいのに……、なんでカナだけ……」
少し前の自分を恨みながら、無駄の肉が無い自分の左足に視線を落とす。下を俯くと、私のツインテールの黒い影がハッキリと地面に写っている。
バスケで悔しい思いをして、俯いた時には毎度の如くこの影を見ていたな、と過去のことを懐かしく思う。
「あ、居たっ!1年の夢咲さんだ!」
「今日こそ、入部してもらおう!」
しみじみと過去のことを思い出していたところに、体育館側からバスケ部の先輩達の声が、校舎に反射して聞こえてくる。
スキャンダルを追われている芸能人や、ハーレムのアニメに出てくるモテモテで女子に追いかけ回される男子って、きっとこんな感じなんだろうな。
「やばい、見つかっちゃった」
逃げようとベンチから勢いよく立ち上がる。そして、反対側へと元の運動能力を生かして勢いよく踏み出す。
下が硬い地面のおかげで、こけることなく簡単に走り出すことができた。
「もう、カナは行かないって断わりたいのに……!早く逃げなっ……!」
後ろを振り向いて先輩達との距離を確認した時、カナの左足全体に激痛が走った。足全体に響くビリビリとした痛みに思わず座り込んでしまう。
「夢咲さん……?どうしたの座り込んで?」
後ろから追いついてきた先輩達が不思議そうにカナのことを見る。先輩達にはまだ事情を伝えていないし、感づいていなくても仕方のないことである。
だからと言って、ここで暴露して仕舞えば、先輩達に申し訳ない気になってしまうので、隠す一択以外ない。
「な、なんでも無いっすよ……。今日もバスケ部の勧誘すか?」
「……ダメ……?お願いっ!」
先輩達はカナに対して、必死に祈るように手を合わせる。カナが先輩達を見上げる形になっている分、余計にその勧誘を断りづらい。
それに自分の押しに対する弱さも合わせてしまえば、断る道は無くなってしまう。
「りょ、っす!カナ、今日も先輩達に負けぬよう、頑張るっす!」
無理に笑顔を作って先輩達に答えることしかできない。そんな自分を情けないなと思いながら、スカートについた砂や土を払い、ゆっくりと立ち上がる。
「ほんと、華奈ちゃんは頼りになるー!」
「今度の試合、間違いなくスタメンでしょ!楽しみー!」
カナがバスケ部に行くことを喜んでくれる先輩達を見ていると、バスケ部に行かない選択肢って無いのかな、と感じてしまう。
「日本一の女子バスケプレイヤーを確保できたし、これで桜咲バスケ部の全国大会連覇は貰ったわね!」
ある1人の先輩がそう言うと、他の先輩達はカナの方を期待の眼差しで見てくれる。
小学生の女子バスケチームの日本一のキャプテンとは、ここまで素晴らしい待遇を受けるものなのか?
そう思うくらいの素晴らしい待遇を受けて、正直言って照れくさいまである。
こんなカナのことを期待した目で見てくれるなんて、バスケ部の先輩達は優しい人達ばかりだ。
だけど、今はその優しさが辛かった。
「全国大会の決勝って、どんな感じなの?私、2回戦までならあるけどさ、決勝いけなくて」
「決勝のところは体格だけでなく、技術面もハンパじゃなくて、苦しい戦いを強いられたっす。でも、カナ達のチームは、どんな技術よりもチームの連携を意識していたので、なんとか優勝できたんすよ。」
「カナちゃんがキャプテンだったんでしょ?カナちゃん、マジで期待しかない!」
「あ、あざます……!」
期待をされて、このようにフレンドリーに接して貰ってるからこそ、無理に断ることが出来なくて今日のように至ってしまったのだ。
そもそもの話、カナだってバスケをしたかったし、今でもバスケをしたい気でいっぱいである。
しかし、それでも今のカナには……いや、これからもカナにはバスケができないんだ。これ以上に無理をしてしまうと、本当にカナ自身が壊れてしまうことは分かっている。
けれど、これからの桜咲バスケ部強化に期待を寄せている先輩達が、楽しそうに話している後ろ姿を見ると、言いたくても本当のことが言えない。
カナ、どうすればいいのかな……?
体育館に行くまでの道のりは、何も方法が思いつかずに頭が疲れていく一方だった。
頭をスッキリさせようと、日が傾き始め青色の薄くなった空を見上げても、良い考えが思いつくことは無かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
体験入部を終えた頃には、いつも通り両足が激痛に襲われて歩けない程になっている。バスケ部のみんなが部室でワイワイしている中、カナだけは一人床に座り込む。
バスケ部に誘われて、無理をしてでも部活をしに行くような今の生活を続けていたら、いつかは車椅子を使う日が来てもおかしくはない。
「華奈、私の背中に乗って」
「……いつもありがと」
ヒンヤリとした体育館の床に座り込んでいるカナの元に、寮の部屋が同室の 一ノ瀬 千紗 が来てくれた。
千紗はスラリと縦に長く、身長が160センチは余裕であった気がする。中1の女子の割には高い方だと思うし、その身長を同じバスケプレイヤーとしてカナにも分けて欲しいくらい。
髪型はショートではあるが、スポーツ女子の中では目立つほど短いわけではない。むしろ、ショートの割に肩まであるから長いのか?
全国大会に行けば、「男子なのかな?」と見間違えてしまうほど髪の短い女子は少なくない。(因みにカナはツインテールだから、バスケ女子の中では結構な稀種になるのかな)
性格面は負けず嫌いで努力家である、他人のことを思いやれる、ということを入学式から今日までの間に感じた。
そんな千紗はカナの事情について、唯一知っている人物なのだ。初めは隠そうとしたけれど、千紗にはバレバレだったようで諦めて本当のことを話した。
当時は、自分の弱みをにぎらさてしまったと後悔していたけれど、千紗の人物像がハッキリとしてくると気持ちは変わった。
むしろ、暴露していた方が良かったな、と思うまでに変わった。
『困ったら私に言って、華奈は自身のことしっかりと管理してよ』
暴露した時はその一言だけ言われたけれど、実はその頃からその言葉に救われていたのかもしれない。そっけないが、思いやりのある温かい言葉には、今でもしんみりとしてしまう。
「ったく、華奈……。明日からは本当にバスケ禁止!ドクターストップもかかってるんでしょ?」
千紗が背中におぶったカナに大きな溜息をつきながら、呆れた時の口調で言い放つ。怒っているような気がするけれど、それはカナのことを気にしていると捉えれば、感謝をしなければならない。
「……そうだね、やめておくよ」
「それにしても、中学生の醍醐味である部活を出来ないとは……。何か1つのスポーツもできないの?」
千紗はカナに同情してくれているのか、いつもよりも優しい話し方であった。
直接は顔を見れないけれど、今の千紗の顔は残念そうな顔をしているんだろうなと察しがつく。
廊下の窓に映る千紗の顔を見ようとするが、まだ日が暮れてしまっていないので窓は上手く反射してくれず、千紗の表情を伺えない。
「……できないよ、全てドクターストップにかけられてる……」
自分の惨めさが悔しくて、千紗に返す声が少し震えてしまう。昔の自分がまともな人だったら惨めな思いをしなくていいのに、と唇を噛み締めてしまう。
今のカナは、ドクターストップのせいで、バスケ以外にも走ることも含めて激しい運動は全て禁止になってしまった。それにより自然と運動部に入る道は閉ざされてしまったというわけ。
カナが言ったのを聞いて、千紗はまた大きく溜息をハーッとついてゆっくりと話し始めた。
「……部活をしない中学生活は考えられないとお姉ちゃんが言っていた。しなければ後悔するよーって言ってた。だから、文化部でもいいから部活には入るべきよ?」
千紗に背負われて体育館から寮に向かう道から、グラウンドやテニスコートなどで部活をする部活生が多くみられた。日が沈んでもなお、どの部活生も楽しそうに活動をしている。
自分で言うのはアレだが、少なくともカナはバスケ部からは必要とされている。だけど、カナが部活に入るとしたら、バスケ部のような運動部では無く文化部一択である。
自分の意志にはそぐわないけれど、千紗のお姉さんの言う「中学生活を後悔しない」ためには、そうする以外にない。
文化部に入るなら入るでもう諦めはついたけれど、文化部に入るに当たって要望があった。
カナのことを本当に必要としてくれる部活のところに入りたい。これは、頼られることに慣れてしまった、カナなりの文化部に対する1番の要望である。
「誰かがカナのこと、見つけてくれないかな……?」
文化部に対して既に受け身になってしまったカナに、どうだこうだ文句を言わずに静かに聞いてくれている千紗の優しさだけが、今のカナにとって唯一の安心できるものであった。
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