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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

迷えるすずめがミツバチに出会うお話。

掲載日:2020/05/10


_____目が覚めるとそこは異世界だった。






そんなバカなことを考えながら私は窓の外を眺める。

目に映るのは中世ヨーロッパのような街並み。眼下の通りは、ぼろ布を屋根にした露店が並び、行き交う人でにぎわっていた。



まだ夢の中なのだろうか?



表には、猫だか犬だかの耳を頭にのせたやたら体毛ふさふさなひとや、皮膚が鱗でおおわれハ虫類のような顔を持っているひとなど、人型ではあるが人間とは思えない風貌の生き物が当たり前のように歩いている。


わぁ、ファンタジーな夢だなあ。などと暢気にぼやきながら何気なく部屋を見渡し、目に留まる小さな鏡台。黒髪に黄色の肌にやや茶色がかった瞳にほどほどにつぶれた鼻、そこそこ堀の深い顔立ち。こちらをのぞき込むのは、ファンタジーとはかけ離れた、まごうことなき日本人の少女である。



私の名前は下梨すずめ。頭も運動神経も容姿も悪くはないが特別よくもない。ごく普通の一般家庭に生まれ、当たり障りのない人生を歩んできた、平々凡々な大学生である。



おっかなびっくり部屋の外に出てぎしぎしときしむ階段を下りると、


「おはよう、スズメちゃん。」

「おはよー。朝ごはんなあに?」


朝ごはんの支度をしている()()()()に声をかけられる。



ごく自然なやりとり。その不自然なまでの自然さにどうしようもない不安と違和感を覚える。


どう見てもすずめの知る母ではない。だが同時にこの人は間違いなく自分の母親だという、()()()()()()()絶対の確信があった。



「朝ごはんはいいけどあんた、もう時間ないわよ。ギルド行くんだって昨日言ってたじゃない。」

「もうそんな時間?支度しないと。」


パンをひとかけ咥え、みずがめをのぞき込み寝癖を整える。


「今夜あんたたちの成人祝いと旅の激励を兼ねてパーティーやるからね。ギルドでアニーちゃんたちに会ったら声かけといてちょうだい。」

「はいはい。わかったよー」



ただの夢にしては意識がはっきりしすぎて気持ち悪い。早くあちらに戻らないと。そんなすずめの意識とは裏腹に、夢は進行する。



家を出て、ギルドに向かうため()()()()()()石畳の通りに出る。


通り沿いにずらりと並ぶ露店は果物や野菜、魚介類、肉類、包丁やハサミなどの日用品やアクセサリー、はては剣やら盾など物騒なものまで売っており、日がまだ昇ったばかりにもかかわらず客を呼ぶ活きのいい声が飛び交っている。


日差しは強く、からっと晴れた青空にはかもめが仲良く漂っていた。




~~~




私は、明日から”冒険”に出るらしい。



この世界には”ステータス”というものが存在する。個人の持つ能力がステータスという形で見ることができるのだ。


ステータスは、ランク、レベル、種族、職業、能力値(HP、MP、攻撃力、防御力等々)、スキル、称号の7項目からなる。このうち”職業”は初めから持っているものでも、自分で決められるものでもなく、世界中にわずか6か所しかない『いにしえの神殿』で授かるものであった。


個人の能力が目に見えるからこそ、就職や身分などにはこのステータス、特に職業や称号が重視される。逆に言うと職業やまともな称号がないと就職できないのだ。


また、与えられる職業や称号がどうやって決まるかなのだが、非日常的で危険、あるいは稀有な経験だったり、その人の人生を変えるような体験だったりがそれに影響するといわれている。そのためこの世界の人々は、様々な経験することで自分を見つけ、理想の仕事を得られるように20歳になった子供を『いにしえの神殿』への旅、”冒険”という名の就職活動に送り出すのである。



~~~


そういう設定なのだそうだ。よくできた、というか微妙に夢がない夢だなぁなどと感心しているうちに『冒険者ギルド』と書かれた建物に到着した。


「やっときた!!待ちくたびれたぜ!!!」

「ギルが早すぎるんだよぉ。約束の二時間前から待ってるんだもんねぇ」

「あはは、、ごめんね!さっき起きたから」

「ばかのいうことは、きかなくていい...じかん、通りだから......ギル、いったん、死んできて...」

「いや!!イヤだし!!!まだ冒険にも出てないのに!!」


最初に声をかけてきたちょっと暑苦しい赤髪ツンツン青年はギルことギルバート。つづいておっとりした口調で黄緑さらさらのショタっ子(19)がフィン。最後の、小柄で人見知りしそうな見た目を裏切る辛らつな言葉を浴びせている水色ショートの娘がアニーことアン。みんな私の幼馴染だ。


「混んできちゃうので、とりあえず登録してしまいませんかぁ?」

「そうだな!!行くぞ、お前ら!!」

「ギルド、入るのはじ、めて......」

「そうだね。今までは特に用事もなかったし、ちょっとおっかないイメージあるもんね。」


相変わらずむさくるしいギルバートを無視しつつ、私たちはギルドに入る。


はじめて入るギルドは、二階まで吹き抜けで、ちょっとしたホールのようになっていた。壁一面には依頼書らしき紙がびっしりと貼ってあり、そのほかのスペースには簡易的な長机と長椅子が並べられていた。

上階からわずかな喧騒と食べもののいい匂いが漂ってきているところをみると、飲み食いできるスペースがあるのだろう。


受付は正面にあり、そのうちの一人が近づく私たちに微笑みかけ、


「冒険ギルドへようこそ!なにかご用でしょうか?」

「おう!!おれたちの冒険者登録とパーティー登録をよろしく頼む!!!」

「冒険者登録とパーティー登録ですね。かしこまりました。それではまずこちらの書類の記入をお願いします。パーティー申請は代表者の方のみで大丈夫です。」


簡易的な個人情報を、渡された用紙に記入しておねえさんに渡す。


「こちらの書類、受理されるまでもうしばらくかかります。ですので、その間に冒険者カードのステータス欄だけ作っちゃいましょう!」


こちらにどうぞ。と言うおねえさんに連れてこられたのは、ギルドに併設された聖堂だった。


中はすべて大理石のようなものでできており、壁には天使と人族など地上の人々が戯れているような様子が一面に彫られていた。天井はステンドグラスでできたドームのようだが、万華鏡のように模様が絶え間なく移り変わり室内には色鮮やかな光が降り注いでいた。


「こちらにどうぞ。」


痛いくらいの静寂を破るおねえさんの声が、美しさに見とれていた私たちを現実に引き戻す。おねえさんが向かったのは、部屋の最奥にある腰の高さほどの傷だらけの石でできた台座だった。


「なんかこれだけ浮いてますねぇ。安っぽいというかぁ...」

「始めてくる方は皆さんそうおっしゃいます。ですがこの聖堂は、この台座を守るために作られたと聞いています。ここに血をお願いします。」

「おう!!」


おねえさんの指さした台座の上には小さな窪みがあった。これに血を落とすということなのだろう。

ギルはためらいもせずに渡されたナイフで親指を撫でる。血が触れた瞬間、台座全体に赤くまばゆい魔法陣が現れる。傷だと思っていたものはとてつもなく緻密な魔法陣だったらしい。

そしてその魔法陣の光は台座のくぼみに集約し、赤く透き通った指輪となった。


「すげぇ!!!なんだいまの!!」

「す、ごい......あれ、宝石...?本物かな......?」

「本物でも売っちゃだめだと思うよ、、アニーちゃん。」

「そちらの指輪を身に着けて『ステータス、オープン』と唱えるとご自分のステータスが確認できます。」

「お、おう!どの指につければいいんだ?」

「最近では左の中指につけるのが流行っているそうですよ。なんでも、パーティーの深い絆を願う意味合いがあるんだとか。」

「どう、でもいい...から。ギル、はやくして......つ、ぎが、まってる......」


ギルは指輪をはめ、


「ステータス、オープン!!!」

「あ!まってくださ____」


おねえさんが制止するより先に、ギルがステータスを表示させてしまう。



ギルバート(人族) Lev.6

ランク:0

職業:未選択


体力(15/1)

攻撃(18/0)

防御(15/12)

俊敏(6/1)

器用(9/1)


スキル

□パッシブスキル

・煽り耐性Ⅴ

最上級の煽り耐性。

・バカの一つ覚え

交戦時、連続(10秒以内)で敵の同じ部位に攻撃し続けると、一撃につき0.1倍ずつ物理攻撃が上昇する。別の部位を攻撃したり、別の魔物を攻撃したりすると効果がリセットされる。

・バカも休み休み言え

人からバカだなぁこいつ、と思われやすくなる。

・バカもなるには十年

人から必ずバカだなぁこいつ、と思われる。


□アクティブスキル

・バカと鋏は使いよう 消費体力(物) 10

1分間自分の防御をどちらも3倍にして、パーティー全員のダメージを肩代わりする。

トリガーは「鋏よ、こい。」

・馬のように駆け、鹿のように、、?鹿のようになんだろう?? 消費体力(物) 3

30分間敏捷(物)が3倍になる。語尾が~シカ。になる

トリガーは「馬も鹿もバカのうち」


称号

〇おバカ

人生で(自分の年)×365 回 バカと言われる。返上可能のはずだが返上できるものは少ない。この称号を持っている間はスキル「バカとはさみは使いよう」、「バカの一つ覚え」、「バカも休み休み言え」、「馬のように駆け、鹿のように、、?鹿って思いつかないな」を使用可能。

〇愛すべきおバカ

5年以上連続で「おバカ」を保持するものにあたえられる。「おバカ」の取得条件が(自分の年)× 150 回 になる。

〇真正のおバカ

10年以上連続で「おバカ」を保持するものにあたえられる。「おバカ」の取得条件がなくなり、無条件で「おバカ」を得る。スキル「バカもなるには十年」を得る。




「「「「......」」」」

「おお!!すげえ!スキルいっぱいあんじゃん!!」

「......っ!!.....っ!!!」

「............だれにでも見えてしまうので、次からはステータスを開ける場所は考えてくださいね、、先に行っておくべきでしたね。申し訳ありませんでした。」

「そうなのか!!気を付ける!!!」


ステータスは究極の個人情報。人前でやすやすと見せてはいけないなんて常識である。


であるのだが。称号が哀れすぎて一同揃って言葉を失うのであった。......おなかを抱えて大笑いしているアニーを除いて。



◇◇◇



「みなさんステータスを確認したかと思いますが、職業が未選択になっているの気が付いたでしょうか?」



スズメ(人族) Lev.5

ランク:0

職業:未選択


体力(12/12)

攻撃(6/6)

防御(6/6)

俊敏(12/12)

器用(6/6)


スキル

□パッシブスキル

□アクティブスキル


称号

〇器用貧乏

自分探し真っただ中の君へ。レベルアップ時に獲得する総能力値を+1する。

〇螟「縺ョ譌・ココ

菴咲嶌驕輔>縺ョ菴丈ココ縲ゅ%縺ョ遘ー蜿キ縺ッ縺帙a縺ヲ繧ゅ・諠・¢縲ゅ☆縺ケ縺ヲ繧貞ソ倥l縺溘→縺阪√%縺ョ遘ー蜿キ縺ッ縲御ケセ縺・◆豸咏藍縲阪→縺ェ繧九



確かに職業は未選択だ。だが、そんなことより称号の二つ目が気になりすぎて話が入ってこなかった。

完全に文字化けしていて読むことができないにもかかわらず、この文字を見たことがある気がしてならない。それどころか、どこか懐かしい感じさえする。何か大事なことを忘れている気がしてもやもやする。思い出せそうで思い出せないもどかしさに、何とも言えない苛立ちと焦燥感を覚える。


(なんだろう...何かおかしい。この文字化けもおかしいけど、それより何かとっても大事なことを忘れているような......)


おねえさんはまだ職業の説明をしているらしい。ギルとフィルが目を輝かせて説明を聞いている。


「スズメちゃ...どう、か、したの......?」


スズメがぼうっと考え込んでいると、アニーが心配そうにのぞきこんできた。


「んーん、なんでもないよ。それにしてもなんでステータスには名前しか表示されないんだろ...みょう、じ、は............??______________!!!!」


(そうだ!!!これ夢なんだった!!!!なんでそんなこと忘れてたんだろう............!!)


ぞっとした。


ついさきほどまで夢の中だということを完全に忘れていた。


いや、これはほんとうに夢なんだろうか。むしろあっちが夢だったんじゃないか。


なんて。また一瞬にして引きずり込まれる。


すずめは無性に怖くなり、逃げるように走り出す。


「スズメちゃん...!!どこへ_____」


アニーのどこへいくのかという声を振り切るように聖堂を飛び出す。


知らない道をひたすらに駆ける。道順が頭に()()()()()()、泣きそうになる。なにが起こっているのか。このまま帰れないのではないか。いや帰るってなんだ、こっちが現実じゃないか。いや違う、あっちが現実でこっちが_____


ぐちゃぐちゃになった思考は目の前に迫った壁でいったん途切れる。


無意識に裏路地に入り込んでいたようだ。



気づけばすずめは泣いていた。涙を流せば流すほど、なぜ泣いているのかがわからなくなるきがした。


「なんで!どういうことなの!!?そうか!!わかった!!そういう夢ってことだ!夢なのか現実なのかわかんない夢なんだよ!!!夢ならさめるはず!!!さめろ!さめてよおぉぉぉぉ!!!!!」


ほっぺたをつねっても壁を殴っても頭をたたきつけても、目が覚める気配はない。


(死んだら戻れるのかも...!死んだら、、、)


目をつむり、歯で舌を挟む。


(夢とはいえ死ぬのは怖いなぁ......もし、をのままほんとに死んじゃったらどうしよう、、......まあいっか。これがだめならどうせ向こうには戻れないし......)


あごに力を入れる。


死んだら元に__________


唇に、柔らかいものが触れた。そう思う間もなく生暖かいなにかが舌先をかすり前歯をこじあける。侵入してきた異物は、歯茎をなぞり、舌と絡みあい、優しく、情熱的に口内を愛撫する。


おもわず応えてしまうすずめ。そのまま二人はとけあい、幸福に包まれる。


名残惜しさが二人を繋ぐ糸となる。スズメは、腰が抜け動けなかった。


「はぁ......めっちゃきもちよかったぁ。ごちそうさま♡」


艶やかな笑みを浮かべ、こちらを見下ろす1対のアーモンド。輝くブロンドにぽてっとした唇、口元と目元のえっちなほくろ。


なんで泣いていたか、死のうとしていたか、完全に忘れてしまっていることに気づく。しかし、すずめの心は落ち着いていた。



私、すずめは確かに存在する。目の前の美痴女は、スズメの魂の奥深くにその存在を刻みこんだ。






これがすずめとメリアとの出会いであり別れ、そして二人の物語のはじまりであった。














私の名前は下梨すずめ。頭も運動神経も容姿も悪くはないが特別よくもない。ごく普通の一般家庭に生まれ、当たり障りのない人生を歩んできた、これといって語ることのない大学生だった。


昨日までは。


これは、そんな私の運命の出会いとささやかな冒険の物語_____



〇夢の旅人

位相違いの住人に与えられる古郷からの餞別。すべてを忘れたとき、この称号は「乾いた涙痕」となる。

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