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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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98  黎明のカヴァティーナ - 4



将来の夢はなんですか?




誰しも聞かれたことのある、薄っぺらい言葉。


ケーキ屋さん、とか。

消防士、とか。

お花屋さん、とか。

サッカー選手、とか?


ありきたりで、ありふれていて。

けれど、無条件にキラキラ輝いた、めくるめく希望の未来。誰もが当たり前にあると信じて疑わない、輝かしい、未来。


未来。

未来。

未来。


ああ、嗚呼、キモチガワルイ。


だって、だって。

誰も聞いていないでしょう?


聞いているのは、夢。


誰も言って、いないでしょう?


将来の職業を述べろ、なんて。




将来の夢はなんですか?




──私?わたしは──




将来の夢はなんですか?




──わ、たし、に、未来、なんて──




将来の、夢は、なんですか?




──……普通、の、人生が。人を殺めることも、名前も知らない誰かのために血を流すこともない、普通の人生が。普通に仕事をして、普通に食事をして、普通に眠る。そんな普通の、人生が、欲しい。




将来の夢はなんですか?




────知っている。あの家に与する私には、未来永劫、普通が与えられることはない。




将来の夢は、なんですか?




願うなら、“私の手折った”道の先、人々が歩み綴る物語が、明るい夢に彩られたものであるように。




ねぇ、これから“私に手折られる”そこの貴方。


数秒先に潰える貴方の、将来の夢はなんですか?




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「セレア!」




そう呼ばれた少女は、花開くような笑顔でこう言った。




「お兄ちゃん!」




レイエンフィリアの腕から器用に抜け出した少女は、少年に抱きついた。


5歳くらいの少女と、8歳かそのくらいの少年。大人びた風貌の少年は、レイエンフィリアとキリルを探るような目で見る。




「お兄ちゃんと会えたのなら、もう大丈夫ね」


「うん、ありがとう!」


「セレア、この人たちは?」


「お人形、拾ってくれたの!」


「……!そう、だったんですか。すみません、睨んだりして」




少年はレイエンフィリアに頭を下げる。

気にしないで、と言いながら、レイエンフィリアは微笑んだ。


アディバイル・ローゼン。

セレティネア・ローゼン。


そう名乗った2人は、手を繋ぎながら雑踏に消えていった。




「レイエンフィリア」


「ええ、そうね」




────【悪魔】の、気配がする。




「あの2人、マークして」


「ああ。要請しとく。でも今は祭りだ」




キリルはレイエンフィリアの手を引く。




「これから花火を上げるそうですよ」


「え、そうなの?」




────というか、この世界に花火があるの?




細かいことは考えないことにした。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




────君の願いは?




【悪魔】が言う。




────家族が欲しいの。




私は答えた。

【悪魔】は嗤う。




────なら与えてやろうか?




けれど、与えられた家族は、私の理想の家族ではなくて。




────こんな家族、いらないわ。




私たちは家族を捨てて旅に出た。


仲の良い家族に出会う。

家族になる。

けれど、いつも家族にはなれないの。




「はじめまして、お母様、お父様。私たち、今日から貴方たちの子供になることにいたしました」




街で見かけた家族の家に伺って、笑顔でそう言うの。




「今日からは私たちのことも、実の子供のように扱ってね」


「僕はアディバイル、この子はセレティネア。どうぞよろしく、お父様、お母様、そして──息子の貴方」




お兄ちゃんがそう言うと、新しい家族は動きを止める。




「よろしくお願いします!」




私が言うと、彼らの表情は微笑みに変わる。


そして。




『おかえり、2人とも』


『おかえりなさい。遅かったわね』


『2人とも早く座って!俺お腹空いたよ』




先ほどまでと打って変わって、その表情は私たちを受け入れたものに変わる。


そう、そう、これが欲しかったの。

今度こそ、壊れないで。




『おかしいわ、料理が3人分しかない』


『何?俺たちは5人家族だぞ?お母さん、間違えちゃったのかい?』


『そうみたい、おかしいわ。すぐに作るから、みんなは食べていて』


『父さんはいいから、みんなお食べ』




壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで。


なぁんにも、気にしないで。


壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで。


私たちは、貴方たちの家族なのよ、最初から。




『おかしいわ、ベッドが3つしかない』


『おかしいわ、2人の服がない』


『おかしいわ、』


『おかしいわ、』


『おかしいわ、』


『おかしいわ、』




壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで壊れないで。




『あら、リネームの奥さん。お子さん、3人もいたかしら?』




嗚呼、壊れてしまう。


やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて。


壊さないで。


私たち家族を壊すのなら──


壊れて、しまえ。

次回更新は2週間後、7月31日の12時です。

お楽しみに。

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