97 黎明のカヴァティーナ - 3
おまつり。
女がみさまが、女がみになった日。
そんな日に、わたし、おひめさまにであったの。
キラキラ、キラキラ、かがやいて。
わたしのお友だちを、ひろってくれたの。
まい子になってないているわたしをだきしめて、「だいじょうぶ」って、いってくれたの。
うしろにいたのは、王じさま?しつじさん?わかんないけど。わたしとおひめさまをやさしい目でみていたの。
けど、けどね。
だきしめてくれたしゅんかん、わかったの。
────嗚呼、この人。“私達”とおんなじだ。
って。
はじめまして、“私達”とおんなじ人。
私?私はねぇ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。
ねぇねぇ、そこの貴女。そう、貴女よ。
ねぇ。
────この世界を疑った事って、ある?
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この世界にも出店という概念はあるようで。
皇女であるはずのレイエンフィリアは、皇女であるはずなのに、出店で買った串焼きを食べ歩きしていた。
肉や魚の串焼きか果物を売る出店くらいしか食べ物の屋台はなく、あとはほとんどが装飾品か花の店だった。
串焼きを買い、歩きながら食べ、食べ終わった頃に見つけた串焼きの店でまた買う。この繰り返し。
串焼きも別にバーベキューのように大きいものではなく、焼き鳥屋の串くらいの小さなものだ。数本では腹の足しにもならない。男の胃袋なら特に。
「キリル、足りてる?」
「正直言って足りませんが、貴女を差し置いてバカスカ食べるような真似はしません」
「もっと食べる?って言おうとしたのに……」
「そう言うんだろうなと思って、釘を刺しました」
そういうやり取りも、愛おしいものだけれど。こびりついた想いは、離れてくれはしなくて。
「レイ──「キリル」」
見て。
そう言われて数メートル先を見れば、そこには。
「人形?」
黒いドレスを着た、金色の髪を二つに結った女の子の人形。
「落とし物かしら」
少し土で汚れていたけれど、軽く払い落とすとそこまで目立たなかった。
それよりも。
「人形の割に、随分と豪奢なものをつけていますね」
「イヤリングは、普通に人間がつけるものと同じだわ。どうして人形に?」
さぁ?そう口に出そうとした瞬間、レイエンフィリアの耳がある音を拾う。
女の子の声だった。子供特有の高い、けれど周囲の心配を誘うような泣き方ではなく、無理やり押さえ込むような泣き方で。
「レイエンフィリア?」
「女の子の鳴き声だわ。割と近い」
「探してみましょうか。貴女の耳が拾うのなら、そう遠くはないのでしょう」
キリルはそっと、レイエンフィリアの人形を持っていない方の手を掬い上げた。行き交う人の波の中を進み、屋台数個分離れた道で。
「嗚呼、聞こえた。こっちですね」
キリルが十字路で足を止めた。
視線の先は屋台の並んでいない脇道。目を向ければ、子供はすぐに見つかった。
「あらあらあら。ねぇ、レディ?」
気品あふれる姫は、膝を折ることも躊躇わず、子供に視線を合わせて跪く。
「レディが人前で涙を見せるなんていけないわ。涙は、“家族の死と愛しい人にしか見せてはいけない”のよ」
少女に向けた、柔らかに嗜めるような言葉。
けれど暁人は、その言葉で現実に引き戻される。
────嗚呼、貴女は──
未だに、九龍院に囚われているんですか。
──人前で泣いてはならない。
──仲間を失っても泣いてはならない。
──泣くなんて無様な姿を、見せてはならない。
生まれた時から刷り込まれた教育は、ふとした瞬間に顔を覗かせる。
弱さを見せるな。
漬け込ませるな。
そう育った者に、周囲からの言葉は届かない。
当たり前は十人十色。
常識は多種多様。
それをわかっていながら、人に押し付け続ける社会が、嫌いで。
殺しが当たり前になった家が、疎ましくて。
だから玲華は、逃げたのに。
────ふとした瞬間の言葉の端々に、九龍院が影を落とす。
そんなキリルを。
「──らもらったお人形、落としちゃって」
お人形、というフレーズに、キリルの思考が現実へ戻る。
あら、と。レイエンフィリアは、ポシェットから先ほど拾った人形を取り出す。
「お探しの品はこれかしら?」
「……セレス!」
少女はレイエンフィリアが持つ人形に飛びついた。大事そうに抱き締め、頬擦りする。
「ありがとう!拾ってくれたんだ!」
「偶然よ、気にしないで」
「ねぇ、お兄ちゃん見なかった?」
「お兄ちゃん?」
「お兄さんと一緒に来てたのか?」
「うん。お人形落としたのに気づいて、お兄ちゃんにそう言ったらね、探してくるからここで待ってろって」
人形を抱き締めたまま、少女はまた泣き出しそうに顔を歪める。
そんな少女を、レイエンフィリアはそっと抱き締めた。
「大丈夫よ、大丈夫。お兄さんはきっと見つけてあげるわ」
「…………っ」
「だから、お兄さんがどんな人か教えてくれないかしら?」
少女からいくつか兄の特徴を聞き出し、脳内で反芻する。そう歳も離れていない少年が、地面を見ながら彷徨っていればすぐにわかるだろう。
そう、思った時。
「セレア!」
次回更新は2週間後、7月17日の12時となります。
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