表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
96/160

96  黎明のカヴァティーナ - 2

人の心が、壊れた瞬間を見たことがあるか?




私はきっと、“(イエス)”と答える。




──何故?

どうして?

いつ?

どこで?




私はきっと言うのだろう。


“貴方がその言葉を言うの?”


いつだって、そう。

飼い殺しの犬みたいに、忠犬ばかりを侍らせて。

猫の私を、みんなみんな、嗤ってる。




確立された未来があって、いいね。




殺そうかと、思った。


みんなが私にそう言った。

誰もが私にそう言った。

私というレンズ越しに、父と母を見ていた。


──いっそ、殺してしまおうかと。


幸いにも、私はソレを許されている。

幸いにも、私はソレをすることができる。

幸いにも、私はソレをする技術がある。


──イッソ、ミンナ殺シテシマオウカ。


誰の、せいで。


誰のせいで。

誰のせいで。

誰のせいで。

誰のせいで。

誰のせいで。


私が、こうなったとお思いで?




心が弱いから。

子供だから。

軟弱だから。

社会を知らないから。

昔を知らないから。

当たり前を知らないから。




ねぇ、その昔って。その社会って。その常識って。

“今”も通用するの?


最近の若者は、とか。一昔前は、とか。

お歴々のみなさんはそう言うけれど。


ねぇ、ねぇ。

貴方と私って、同一人物だったの?




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




玲華。

玲華。


なんとなく。なんとなくなのだけれど。ここにいると、わかるの。

貴女も、そしてきっと、暁人くんも。2人とも。


とっくの昔に、心が壊れてしまっていたのね。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「レイエンフィリア」


「キリル」




甘い声が、レイエンフィリアを呼ぶ。

差し出された手に、レイエンフィリアは自分の手を重ねた。


木で出来た隠し扉を抜ければ、そこは城下町から少し離れた森の中。


恋人みたいに手を繋いで、寄り添って歩く姿はきっと皇女には見えまい。


けれど。




「あら、皇女様」


「ホントだ!レイエンフィリア様ぁ!」


「お久しぶりです、皇女様」




溢れ出る気品は隠せなくて。




「…………」




驚いて目を見開くキリルに、レイエンフィリアはそっと微笑んだ。




「ふふ、結局こうなってしまうのよね」


「いつものことなんですか?」


「城下町にはいつも来ていたから」




レイエンフィリアの仕事は少ない。時間を持て余すことの方が圧倒的に多い。

貴族の娘や商人の娘などとお茶会をする以外、大きな予定は入らない。


ならば、と。

レイエンフィリアはマリンに他の仕事を与えて下がらせ、城下町を歩き回っていた。




「自分の目で見たいの、世界を。私たち皇族はいつも皇城に篭って仕事をするけれど、それでは何もわからないわ。知りたいなら自分の目で確かめないとね。民の言葉を、意思を、願いを。自分の耳で聞かないと」




最近はどう?

そう声をかけて民の言葉に耳を傾ける姿は、皇女そのもので。


国を統べる者として、相応しくは無いかも知れないけれど。それでも、在るべき姿ではある、と。


そう思わずには、いられなかった。




「いい果物が入ってるよ、何か買っていかないかい?」


「食べ歩けるものがいいわ」


「じゃあ……ブドウはどうだい?皮まで食べられるし、甘くて美味いよ!」


「それはいいわね、おひとついただくわ」


「レイエンフィリアちゃん、うちでも何か買っておくれよ」


「ウチでもだ!」


「まぁ。ふふっ、人気者になってしまったわ」




軽く結った髪がふわりと揺れる。


嗚呼、と。キリルはその光景を無表情に見つめていた。




────例え中身が暁人と玲華でも、こんなにも──




生きる世界が、違う。


知らなかった。

考えたこともなかった。


だって自分は──自惚ではなく──本当の意味で、比較された時に優位に立つ側だったから。


だって自分は【暁】で。

次期当主候補も第6位で。

神の劣化品たる彼らに、最も近い人間で。

実力を出してしまえば、凡人なんて片手で殺せる力があって。

暴力といえる行為が、許された存在で。

刀を振るうことが、許された存在で。

人を殺すことが、許された存在で。

万能を望む学生が欲しがりそうなことは、大抵出来てしまう存在で。

力があって立場があって、治安維持のための組織に所属していて。

言ってしまえば、先の人生を遊んで暮らせるくらいの金も持っていて。


常に、羨ましがられる“人間”だったから。




────知らな、かった。




俗に言う、身分違いの⬛︎(こい)

そんな想い、抱いて良い相手ではなかった。


中身がどうとか関係なく。

想いがどうとか関係なく。


今の自分は、“キリル”と“レイエンフィリア”で。


⬛︎(こい)、なんて。

そんな想い、抱く事すら烏滸がましい。




────殺さないと。




相応しくない想いなんて。




「ねぇ、キリル」




軽やかな声が、キリルを呼ぶ。

柔らかな白い手が伸ばされて、キリルの右手を掴んだ。




「あちらに装飾品のお店があるわ。見てみたいの。行っても良い?」




この眼を、この視線が孕む意味を、知っている。


それはまるで、⬛︎(いと)しい人に向けるような、甘い視線。絶対的な信頼と想いが複雑に絡み合った、特定の人物にしか向けられることのない視線。


⬛︎(こい)する乙女の、眼。

⬛︎(いと)しい人を前にした時の、眼。


今までは、嫌悪感しか抱いてこなかった視線なのに。


若いのに権力も実力もある“人間”だった暁人を、自分を飾る道具にしか考えていなかった──或いは親から近づくように指示された──“暁人自身”を見ていない視線。


今までは、嫌悪感しか抱いてこなかった視線なのに。




────な、のに。




今の自分はなんだ?

レイエンフィリアからそんな視線を向けられて。


どうして──




────満足感に、浸っている?




「キリル?」




身を寄せるレイエンフィリアの襟元からは、独占欲の華が見え隠れする。




「いいですね、見てみましょうか」




恋人みたいに手を繋いで、寄り添って歩く姿はきっと。


き、っと──










──ただの主従には、見えまい。

次回更新は2週間後、7月3日の12時となります。

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ