表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
90/160

90  慟哭のカンタータ - 26

用意された部屋。

人のいない空間。


レイエンフィリアのために整えた舞台は、その実、エイルワードの決意の表れ。


ここで起こったこと、交わした言葉。

その全ては、エイルワードの心の内にのみ記録される。


それがわかっていながら、レイエンフィリアは口を開けずにいた。




────言っていいの?明かして、いいの?




キリルの時とは全く違う。

レイエンフィリアにとって、エイルワードが明かしていい相手という確証は一切ない。


『腹を割って話す』という言葉が、“これ”についてではなかったら。




「レイエンフィリア」


「……お兄様」


「僕から、名乗ろうか?」


「「……え」」


「だって、言いづらそうだから」


「いや、しかし。兄殿下」


「いい、いい。なんとなくわかる。俺より君の方が序列が上だと思うから」


「や、その……」


「レイエンフィリアも、いいね」


「あ、あの……」




序列が上?

それはやはり、九龍院の話?


キリルの方が──暁人の方が序列が上だということは、【暁】の人間ではない。しかし、玲華に先に言い出すように言ったということは。そして暁人も、それを止めなかったということは。




「先の言葉通りだ。口調も立場も全て捨てて話そう。俺の名前は、『秀夜』。九龍院 秀夜。次期当主候補第8位。第1部隊『白羊』情報収集部隊の所属だ」




────私より、序列が上ってことじゃない!!




だから私に先に言わせようとしてたのか、とようやく気付いたレイエンフィリアは、改めて目の前のエイルワード──秀夜を見つめた。




「……秀夜様、だったんですね」


「ああ、君は?」


「玲華、です。九龍院 玲華。次期当主候補第18位・次期当主婚約者候補第6位。第10部隊『磨羯』防衛・執行部隊所属です」


「…………嗚呼、玲華ちゃん、なんだ」


「……はい。申し訳ありません」


「いや、いいよ。……で」




視線はレイエンフィリアからキリルへ。

キリルがゆっくりと口を開く。




「お久しぶりです、秀夜。九龍院 暁人です」




ガチャン!


秀夜の手が掴み損ねたティーカップが、ソーサーに触れて激しい音を立てた。


彼の顔は硬直している。




「あきひと……って、あの暁人、様?」




────わかります。そうなりますよね。私もそうでした。




「様なんてつけないでください、秀夜。ほら、玲華だって俺にはタメ口ですよ」


「それを諦めって言うんですよ、暁人」


「玲華ちゃん、諦めたんだ……」


「様ってつけようとすると、返事をしてくれなくなるんです、この人。返事をしてくれないと執務もできないし、諦めました」


「うわ、ひっどいことするなぁ」


「立場は玲華の方が上ですから」


「序列は貴方の方が上です!」


「そーだそーだ!玲華ちゃんの言う通りだ!」




ふむ、と言う顔を暁人はしたけれど、すぐに怪しげに微笑んで、口を開く。




「どうしてもって言っても、ダメなのか?」


「私は気まずいです」


「そうか?うーん……」




玲華の耳元に口を寄せる。




「俺の名前を呼んでくれるの、かなり好きだって言っても?」


「えっ、あっ……えと……」




一気に玲華の顔が赤くなる。

見つめた暁人の瞳は甘く蕩けていて、それが本当のことだと言っているようで。


そこにもう1人いることなんて、頭から抜け落ちるほど、記憶が鮮明に蘇る。熱を孕んだ瞳も、紡がれる甘い声も吐息も。




「っ……」


「ふっははっ。真っ赤」


「〜〜〜〜っ!」


「…………」




────あの暁人様が、こんな顔をするのか。




玲華はきっと気付いていないんだろう。

赤い顔を隠すように、暁人から顔を背けているから。


楽しそうに、愛おしそうに。

可愛くて、愛おしくてたまらない、と。彼の表情が物語る。


常に【暁】として自分を律していた暁人の姿を見てきた自分の目を、思わず疑ってしまうほど。


そして。




────嗚呼、やっぱり、守ってあげたい。




玲華を、レイエンフィリアを。

暁人を、キリルザードを。


この、仮初の幸せしか手にできない脆い恋心を、誰かが守らないと。




「玲華ちゃん」


「は、はい?」


「城中の人間が、君を疑っているんだ。『まるで人が変わったようだ』ってね」


「…………はい」


「でも、人が変わったように性格が変わった人間を、僕は複数人知っている。彼らも、僕は転生者なんじゃないかと疑っているんだ」


「「誰ですか!」」




暁人と玲華の声が重なる。

味方が多いに越したことはない。


何より、孤独だったのだ。

知り合いもいない、味方もいない、過去を話せる友人もいない。上辺で語り合う人はいても、心の内を話せる人物がいない。


それはとても、孤独で、苦しいものだから。




「僕が思うに、最低でも5人。まずは僕、エイルワード。玲華ちゃんのレイエンフィリア、暁人様の……」


「………………………………」


「……暁人の、キリルザード。そしてキリルくんの養父、キースフェリド」


「知っていたんですね、ラ・ステッラが転生者だと」


「この国のことが知りたくて、報告書を漁っていた時に偶然に、ね。“人”を殺せるのが僕たち転生者だけだなんて、気が付かなかったけれど」




秀夜は紅茶を口に含む。

わずかに渋い顔をしていたけれど、その理由も、紅茶が減っていなかった理由にも、今思い至った。




「そういえば、秀夜様は紅茶がお嫌いでしたね」


「……!嗚呼、覚えていたんだ」


「紅茶を飲むより緑茶がいいと、おっしゃっていたのを覚えています。だからなんですね」


「ん?」


「来客があったはずなのに、お兄様の紅茶の減りが少ないと思ったんです。お兄様は紅茶好きですから、応対の際には必ず一杯は飲むのに、私が来るまでに飲み干していなかったのが気になって。紅茶が好きではないから、あまり手が伸びなかったんですね」


「………同じことを言うんだね」


「…………?どなたと?」


「父上と」


「!」




ティーカップの中を見つめながら、思い出すように秀夜は語った。




「今と同じようなことを、先ほど父上にも言われたんだ。『紅茶好きのお前があまり飲まないのは珍しい。まるで人が変わったようだな』って。肝が冷えたよ」


「…………その後は、なんと?」


「静かに、一言。『お前も俺と同じ、転生者なのか?』と」

次回更新は明日、5月6日の12時です。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ