87 傍観者のインターリュード - 2
マズい。
これは、マズい。
「ちょっと、オルディネ」
「なんだい、レイエンフィリア」
「なんだい、じゃないわ。これ、良くないでしょう?このままじゃ……」
「そうだね。良くない。非常に良くない。“彼女は何をやっているんだ”」
「玲華は悪くないでしょう?」
「彼女という言葉は玲華を指していないよ、レイエンフィリア。違うんだ。玲華のことじゃなく……」
オルディネは左に顔を向けた。
仮面の奥に秘められた目は、どこか遠くを見ているようで、レイエンフィリアはその視線を追う。
当然、青い花畑が続くだけで、その先には何もない。何も、目視できない。
「オルディネ?」
「うん?嗚呼、わかっているよ。何か手段を講じないとね」
「……」
「そうだ、姫君。ずっと聞きたいことがあったんだ。教えてもらえないかい?」
「?……何かしら?」
「【悪魔】ってなんだい?」
オルディネの言葉に、レイエンフィリアは目を丸くした。
「知らないの?」
当然だろう、という顔でオルディネが言う。
「僕たちの思考のベースは、玲華たちに似通っていてね。君達の常識は通用しないんだ。だからほら、玲華たちは死の概念が通用しないこと驚き、君達は死がなんなのかについて驚いた。常識の違いとはそう言うことさ」
「……【悪魔】は、ヴァーニア神が神になった際従えた、彼女の従者よ」
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あるところにごく普通の少女ヴァーニアがいました。彼女はとても心優しく、困っている人には手を差し伸べるとても優しい少女でした。
ある日、泣いている娼婦に出会いました。愛する夫がいないのだと泣く娼婦に、ヴァーニアは町中を探して駆け回り、なんとか夫を見つけ出して再会させてあげました。
ヴァーニアは彼女から指輪をもらいました。
ある時、ヴァーニアは見知らぬ老婆に出会いました。お腹が空いたと言う彼女に、ヴァーニアは買ったばかりのパンをあげました。
ヴァーニアは彼女から指輪をもらいました。
またある時、ヴァーニアはこの地域を収める領主様に会いました。この町1番のワインが飲みたいと言う彼に、美味しいワインを持っていることで有名な貴族からワインを分けてもらい、彼に差し出しました。
ヴァーニアはそのお礼にイヤリングをもらいました。
ある時、近所奥さんが、お前の家の水車が羨ましい、と言っているのを聞いたヴァーニアは自分の家の水車をそのまま奥さんに渡しました。
ヴァーニアは彼女からネックレスをもらいました。
ある時、近所のおじいさんが腰が痛くて働きに出られないと言っていました。ヴァーニアはおじいさんの代わりに一日中畑仕事を行いました。そのお礼に、ヴァーニアはおじいさんからブレスレットをもらいました。
またある時、裸足で歩く老人に出会いました。靴が無くて足が痛いと言う彼に、ヴァーニアは持っていたお金の全額を差し出して新しい靴を買うように言いました。
ヴァーニアは老人から指輪をもらいました。
ある日、怒り狂う近所のお兄さんと出会いました。足の怪我を侮辱されたと怒るお兄さんに、ヴァーニアは足の怪我が隠れてしまうほど大きなズボンを作ってあげました。
ヴァーニアはお兄さんから指輪をもらいました。
そのご、持ち物が全部なくなってしまったヴァーニアは途方に暮れていました。
すると夜空の満月が輝き、ヴァーニアは天に登って行きました。
今までのヴァーニアの善行と優しさを見ていた神様は、彼女を新しい神様とし、この地を収めるようにおっしゃったのです。
こうしてヴァーニアは、善行と博愛の女神として人々に信じられるようになりました。
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「……以上が、ヴァーニア教に伝わる伝説ね。“一応”」
【【悪魔】が出てこないのは何故かな?】
「【悪魔】は、ヴァーニアが神様になった後に与えられるの。神の使いとして、ね」
────へぇ、それは。
「“妙だな”」
「…………?俺たちはそんな神話、知らないんだ」
「単に知らなかっただけ、ではなくて?」
「いいや、それはおかしい。なぜなら、あの理想郷を創ったのは僕たちだからだ。【裁定者】が創り上げた世界に、【裁定者】が知らないものがあるのはおかしい」
「創造主すら知らない、ということ?【悪魔】の存在を」
「ああ。知らないものは創れない。創らない。当たり前だろう?存在を知らないんだからね」
じゃあ、どうして?
「レイエンフィリア。僕に何か隠していないかい?」
「…………」
「君はさっき“一応”と言った。単純にただの神話の話をするだけならば、そんな言葉はつけないはずだ。何か裏があるから、“一応”なんていったんだろう?」
「…………」
「レイエンフィリア」
「…………それは──」
次回更新は明日、5月3日、12:00です。
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