表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
81/160

81  慟哭のカンタータ - 18

コンコン。


静かにノックの音が響く。




────嗚呼、来たか。




ついに、来た。

この時が。




「入れ」


「失礼致します」




静かに入ってきたのは、予想通り、義息キリルだった。




「よく来たな、どうした」


養父(とう)さん」


「……」




プライベートな時間以外で、こう呼ばれるのはいつぶりだろうか。いつも役職名で呼ばれてしまうから。




「どうした、改まって」


「聞きたいことがあります」


「ああ」




負傷した身体を労わる暇もなく、真面目な、むしろ疑うような視線とかち合う。




「何故、ですか」


「……何がかな」


「ウェリンターレの、王太子の寵妃を殺したのは、何故ですか」




嗚呼、やはり語らなければならないのか。

きっと、お前は絶望するのに。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「キース、頼みがあるんだ」




全ての始まりは、我が友人クルースが登城し、俺の元を訪れた時だった。


地方で貿易を管理する若きファウルス家当主が、友人として謁見しに来たと聞いた時、俺は何も考えずに部屋に招き入れた。




「なんだ、どうした改まって」


「少し、妙な噂を聞いたんだ」


「妙な噂?」




話を聞くに、隣国ウェリンターレに、人に害を及ぼす【悪魔】が取り憑いた宝石が、持ち込まれたという噂があると言う。


宝石関係の貿易にまつわる仕事をしている分、クルースの言うことは確かなのだろう。もしその害がレイヴヴィヴェーニアに及んでしまうことがあれば、と。




「そういう内容なら、確かに俺たちの管轄だな」




皇城管理部隊と名乗ってはいるものの、皇城に害があるのなら何処へだって足を伸ばして対処するのが仕事だ。隣国へだって行くこともあろう。




「商人に聞いた限りだと、既に【悪魔】は王族の人間に取り憑いて害を及ぼしているらしい。どうにか食い止められないか?」


「陛下に意見を乞うてからになる。が……具体的に、その害っていうのはどんなものなんだ?」


「……王太子を始め、大臣や使用人も含めた王城全体が腐敗している」


「腐敗っていうと?」


「……濁して言えば、“色に溺れて”誰も彼もが仕事に手をつけていないらしい。おかげで売れるはずの宝石も売れないし、輸入されるはずの商品も入ってこない」


「色に……嗚呼、なるほどな」




誰も彼もが役割を果たしもせずに色事に溺れているのなら、公務が滞り、いずれはレイヴヴィヴェーニアにも害が及ぶだろう。否、既にクルースの家業には害が出ている。




「悪魔に取り憑かれた人間の情報は?」


「商人曰く、王太子の寵妃の様子がおかしい、と」




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「その時気付けばよかったんだ」


「……何を」


「聞いていて思わなかったか?又聞きしたっていう商人が“あまりにも知りすぎている”と」




嗚呼。




「全く疑いもせず、俺は悪魔を殺したんだ」




なんて。




「クルースが思い描いた通りに、【色欲の悪魔】を殺したんだ」




それは。




「あの国に行った時、国全体がモヤに包まれたように霞んでいた。幻覚作用をもたらす悪魔の術が、国境付近に迫っていたんだ。俺は迷わなかった、迷う理由を失った。『【悪魔】を殺さなければ』たったそれだけの正義感で王城に乗り込み、裸の人間たちがひしめく、気色の悪い、煙った後宮に乗り込んで、彼女を殺した」




それは、なんて。




「後宮のはずなのに多くの男を侍らせ、女王のように指先一つで男を使う。それが【悪魔】の力だった。煙によって人を狂わせ、狂った人間を自在に操る。脅威だと思った。矛先が隣国に向いてしまう前に、殺さなければと」




なんて、愚かな。




「だから、殺した?」



そう思っていた、のに。




「そうだ。“殺した”んだ。クルースの目的にも気付かずに」


「目的?」


「クルースがメイリア妃に惚れていたのは知っているだろう?」


「それは、まぁ」


「自分が悪魔と化しても、同じ悪魔になったメイリアをクルースは愛してた。だから求めた、強欲に。悪魔になったメイリアを。メイリアが宿った指輪を」


「そして?」


「俺は彼の求め通り、悪魔になったメイリアを殺した。悪魔に取り憑かれた人間は、死ねば正式に悪魔になる。メイリアが吸収された指輪を回収し、帰城した。その道中で偶然助けたのがお前だ」




国境付近のあの村の火事を、正義感の強いこの男が見過ごすはずがない。


それはキリルとして生きてきたこの数年間で痛いほど理解している。




「おかしいと思ってたんです。どうして貴方がウェリンターレに居たのか。そういう理由だったんですね」


「ああ。そしてクルースの思惑通り、指輪はあいつの元で保管されることになり、クルースの思い描いた通りの結末になった」


「しかし何故、メイリア妃は悪魔になったんです?」


「元々悪魔の指輪を手にしたのは、現在の王太子妃、レチータだったんだ。幼い頃からの婚約者だったにも関わらず、王太子はメイリアに夢中だったのが気に食わず、【悪魔】が宿るという謳い文句を信じて指輪を手に入れたんだろう。まさか本当に【悪魔】が宿っているなんて思いもせず、少し痛い目にあって欲しい、という考えだけで」


「それでメイリア妃は悪魔に取り憑かれてしまい国中が狂った。貴方が悪魔を殺してそれが治れば今度は、そこにメイリアの死体が残っていた、と」


「指輪に魂が吸い込まれても、肉体は残っていた。メイリアの死後すぐに正気に戻った男どもが口々にこう言った『ウェルナヴェイルが寵妃を殺した』とね。俺は逃げるように城を後にした」


「追手は」


「彼らが居たのは後宮だ。自分が後宮にいるというだけで処罰の対象になる。既に大臣の子を孕んだ後宮の妃は数多く、その後処理のせいで俺は追手に追われなかった。追って、俺を処罰することもできなかった。なんせ自分たちが後宮の妃に手を出したことがバレるからな」


「国の汚点を晒してまで、貴方を追えなかったんですね」


「ああ。王城内で揉み消したんだろうな。だが、寵妃の殺害だけは消されなかった。誰が殺したのか、も」



故に、キリルはあの会場の全員から非難された。ウェルナヴェイルだったから。




「それが、全てですか」


「いいや」




キリルは見逃さなかった。

彼の目つきが変わったのを。

次回更新は4/3、12:00です。

ししし、新年度……!

改めてよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ