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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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80  慟哭のカンタータ - 17

事件が起きた9月下旬から、10月に上旬まで。

キリルの傷はすぐに治ったのに(魔術による治癒)、療養という名の“審議による隔離”を行われ、しばらく身動きが取れなかった。




──レイエンフィリアの負傷が、本当にフェルガ・イーネルによるものなのか。


──キリルも共謀していて、レイエンフィリアの前であるが故に、イーネルを裏切って殺害したのではないか。


──ドラゴン殺しの一家に、キリルも関わっているのではないか。


──キリルが関わっているのなら、ラ・ステッラも関わっているのでは?




疑えば疑うほどタラレバは幾らでも挙げられて、キリルは半月近く拘束されていた。


結局、レイエンフィリアの「身をもって私を守った男を疑うとは何事か」という一言で全員が口を噤み、キリルは解放された。


レイエンフィリアとしてももっと早く解放したいとは考えていたものの、銀糸を失った姿では説得力がなく、議会に出席すらさせてもらえずにいた。


仕方なく、日夜舞い込む──と言っても非常に少ないが──公務をわざと滞らせ、『キリルがいないと公務が滞る』と言い張って議会に首を突っ込んだ。


そうやってどうにか言い放ったのである。


それまで中立の立場を保ってきたエイルワードも、レイエンフィリアの登場でキリルの無罪を訴えてくれたおかげで、大臣たちは『皇族2人の擁護を受けているキリルザードを、有罪であると言ったらどうなるか』と身を竦める羽目になった。


結局レイエンフィリアの登場で場はひっくり返ったのである。




「しっかし」




エイルワードはひとり、使用人も側近も護衛も全員を下がらせた静かな部屋で、小さく呟いた。




「キリルが大切なのはわかったけれど、少し迂闊だったんじゃないかな?レイエンフィリア」




お陰で議会に参加していた者は頭に疑問符を浮かべる羽目になった。




────レイエンフィリア皇女は、あのような方だったか?




と。


元々レイエンフィリアは、積極的に公務をこなすタイプではなかった。


自分の立場を弁え、表立って行動することはなく、兄弟たちの公務に首を突っ込むようなことは一切しなかった。


それが、今のレイエンフィリアはどうだ。


公務をこなして時間を作り、部下のためとはいえど姉の公務に首を突っ込んで一悶着を起こした。


ウェリンターレとの国交に問題は一切ないし、キリルの存在をチラつかせなければ王族との面会などにも問題は無い。


しかし晩餐会の参加者たちは、レイエンフィリアの側近であるキリルの存在を意識せずにはいられないだろう。




「……どうしたものかな」




ウェルナヴェイルが何をしたかは知っている。

そしてキリルもレイエンフィリアも、それを知るべきだろう。




「僕が口を挟むことでは無いからね。でも……」




あまりにも、あからさま過ぎたように思う。




「自ら、『私は転生しました』と、宣言したようなものじゃないか」




一体誰が、レイエンフィリアになったのだろう。

九龍院の人間か、ただの一般人か。


九龍院の人間なら、自分の名前を知らないわけがないから、手を取り合ってどうにかやっていけるだろう。





「どうすれば帰れるのか、知らないけどさ」




バサバサと、窓の外に1羽のミミズクがやってくる。




「嗚呼、来たのかい」




背中に面していた窓を開けて、真っ白なミミズクを迎え入れる。




「どうしたんだい?僕に何か用かな?」


『質問がある気配を感じて』


「ふふっ、聡いね。さっすが君だ」




嘴から紡がれる女性の声に、エイルワードは小さく笑った。


滅多に来ないのに、少し疑問を口にするとすぐに飛んでくる。




「飼い主は探していないかい?」


『長らく部屋を開けていたから、問題ない。別の人間が私を預かっていた。抜け出すくらい余裕だ』


「へぇ、ま、バレないようにね。一度抜け出したのがバレると、鍵をしっかり閉められてしまうからね」


『頭に入れておいてやる。それで?私に質問があるのでは?』


「まったく、どこで見ているの?」


『見ているのはこの子の目だ。この子が見ているものしかわからない。でも耳は私のものだ。この子に聞こえなくても、私には聞こえている。お前以外の転生者の声も』


「教えてはくれないの?僕以外の誰が転生者なのか」


『見抜く目を持て。人智を超えた能力は与えてやっただろう』


「わかりやすい子はわかるさ。でもわからない人はわからないから」


『……見抜きなさい』




窓から出て行こうとするミミズクの背中に、慌てて声をかける。




「待った。帰り方が知りたい。僕たち転生者は、どうすればあの世界に帰れる?」


『……帰りたいのか』


「帰りたいさ、もちろん。僕の居場所はあの場所だけなんだから。頼むよ、帰り方を教えてくれないかい?」


『……さて、“私は知らないな”』


「……っ」




帰る手段は無いと、そういうことだ。


彼女は九龍院の人間の命令で動いている。そりゃあそうだろう。創造したのは九龍院家の科学部門の連中なんだから。


連中が、帰る手段を見出さない限り、設定しない限り、帰れない。




『落ち込んだか』


「……僕たちは、帰りたいんだよ。それはきっと、転生してきた人間の総意だ。それだけは保証できる」


『一応、覚えておこう』


「ああ頼むよ、是非。どうにかして僕たちを帰してくれ。帰る手段を、君たちが見つけてくれ。この国から帰る手段を、ここで生きる人間は見つけられない」


『そうか』


「ああ」




今度こそ、ミミズクは体勢を低くして飛び立つ体勢をとった。


その背中に声をかける。




「来てくれてありがとう。君が僕の味方だと、そう信じているよ。フィリーネ」

少しずつ、少しずつ。

けれど確かに、歩む道筋はそこにある。


1人の道筋は確かに並び連なって、一つの物語を形造る。


それぞれにそれぞれの思惑があり、立場があり、記憶があります。


はてさて、物語はどこに決着するのでしょうか?


次回更新は2週間後、3/20の12:00となります。

よろしくお願いいたします。

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