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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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77  慟哭のカンタータ - 15

父さん、母さん、兄さん。

俺は、俺たちは。


どこで道を誤ったんでしょうか。




【聞こえているか、(わっぱ)


「……?……誰だ」


【私だ、屋根裏の水瓶を覗き込め】




声に従い、逃げ込んだ家屋の屋根裏へ向かう。

そこに放置されていた水の張られた水瓶の、底に。




「指輪……?」




明るい青色の石がついた、指輪。

それはピッタリと、フェルガの右手の小指に収まった。




【身を焦がすほどの怒りを内包していないか?】


「えっ」


【当て所ない怒りを、どこにもぶつけられずにいるんじゃないか?】


「……そ、んな」


【力を、貸してやろうか】


「……」


【お前を追い続けている男たちはなんだ?それを命じたのは誰だ?】


【なぜお前の兄は殺された?誰の命令だ?】


【逃げている最中、なぜ両親は殺されなければならなかった?誰の命令だ?】




────嗚呼、それはきっと。




【お前が怒りをぶつけるべきなのは、誰だ?】




嗚呼、嗚呼。

こんなことってあるんだろうか。

こんな、甘い誘い。


殺したいほど憎んでいる。

あの女を。


兄さんも、父さんも母さんも。

一気に俺から奪ったあの女。


ただ俺は、騎士になりたくて登城していただけなのに。


訓練ではいじめ倒され、皇女を守れなかった一家として日夜追われ。


俺たち一家が、何をしたっていうんだ。


甘い誘いに手を伸ばす。

願うなら、この腕を折ったあの男と、家族を殺したあの女に報復を。




【ここから逃げるための力を貸してやる。顔も名前も、新しいお前をくれてやる。だから──】




──私を、楽しませてくれ。


それは、禁断の果実を目の前にしたような、柔く甘美な【()()()()()】。

罪に溺れた人間には、どんなに屈強な心を持とうともその誘いを断る術などありはしない。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




腰に届く長い髪は、無残にも肩を少し越える程度の長さになっていた。小さな小さな仕込みナイフで、大急ぎで適当に切られた髪の長さはバラバラで、キリルは自責の念に駆られていた。




「すみません、殿下。もっと俺が早く貴女の元に辿り着いていれば」




レイエンフィリアよりボロボロの体で、お互いに毛布を身に纏いながらキリルは申し訳なさそうに俯いている。




「髪くらい、いくらでも伸びるわ。気にしないで。“助けてくれてありがとう”」




その言葉を、周りにも聞こえるようにはっきりと告げる。


キリルザードはレイエンフィリア第3皇女を助けたのだ、と、しっかりと周囲にわからせるために。


旅団の騎士や兵士も、ここや別の宿屋に泊まっていた客たちも、消火隊の村人たちも、通りすがりの野次馬でさえ、レイエンフィリアたちが整えた舞台だなどと、気付かれないように。




────1枚上を行かれはしたものの、結果は上々。得るべきものは得られたし、成功と考えていいでしょう。




失った髪なんて、気にしていないし、数日もすれば慣れるだろう。焦げた先端は切り揃えて、マリンに頼んで手入れをして貰えばいい。


レイエンフィリアは手の中の指輪を見つめた。

銀の台座に座す、青い石。


石の中で暴れ回る【憤怒の悪魔】は見えないことにして、もう一度しっかりと握りしめた。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔



憎い憎い憎い憎い。


いとも容易く宿主を殺したあの女。

彼女を唆した愚かな同胞。

宿主(あるじ)の邪魔をした恨めしい同胞も。


すべてすべて全て総て!


嗚呼嗚呼、憎い。


靡いてなるものか。

従ってなるものか。

騙されてなるものか。


甘言に惑わされるほど愚かではない。

頭を垂れるほど従属ではない。

事実を見抜けぬほど盲目ではない。


嗚呼、憎い。


私の宿主(あるじ)を殺しておいて、貴様は笑うのか?


嗚呼、憎い。


人を導き、堕としていく。

それが我らの在り方だ。

誰か1人の手に集うのが在り方ではない。


憎い憎い。

憎い憎い。

憎くて憎くて、仕方がない。


宿主(あるじ)を殺したお前を。

【我が主】を殺したお前たちを──


──私は絶対に許さない。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




【随分と荒れているな、ガイネルン。無様なものだ】


【小娘の側についておいて、よくもまあそんな口をきく。あの小娘に騙されているだけだ】


【我らを殺すと、宣言してくれた娘だ。助力するのも悪くないだろう。我らを殺したのち、彼女がどうなるのかはわからん。ただ殺しただけになるかもしれんし、教会に処刑されるかもしれん。【原罪者】になるかもしれんし、エクソシストたちに狩られるかもしれん。それはあの娘もわかっているだろう】


【殺す?我ら7柱を、人間の身で?馬鹿を言うな。できるはずがあるまい。たかが転生者。それ以上の力があるとでも?】


【さてな。具体的にどうやって殺すかはあの娘も考えていないだろう】


【そら、みたこと──【だが】】


【彼女は俺たちを殺すだろう。俺はそう思う】


【……何故】


【似ていると、思わなかったか?】


【似ていないだろう】


【そうか。それでもまあ、いい】


【アルグレム。お前がなんと言おうと、俺はあの小娘を認めない、絶対に。あれは久方ぶりに見つけた宿主だったんだ。それを殺したんだ、あの小娘は。許してはやらん】


【まぁ、それならそれでいいさ。でもな、“あまりやりすぎないでくれ”】

更新日の朝にやっと出来たお話です。

よかった、間に合いました!


体調不良等々が重なって少し大変でしたが、しっかり更新は続けますのでよろしくお願いします。


次回更新は2週間後、2/20の12:00です。

お楽しみに。

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