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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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75  傍観者のインターリュード - 01

【裁定者の理想郷】、無月の泉にて。




「何か面白いことでもあったかな、我が姫君」


「……」




何も返ってこない。

仕方なく泉を覗き込んだ。


ちょうど、レイエンフィリアが【憤怒の悪魔】に取り憑かれた少年を、悪意を持って殺した瞬間だった。




「おや、これはまた」




声は僅かに楽しそうだった。

ふわりふわりと漂いながら、再度問う。




「彼女たちを見ていて、楽しいかい?」




城内では、アラドとベンクという青年を見出した。側近の候補者を蹴って、自ら選び取ると言い切って。


【強欲の悪魔】と【色欲の悪魔】に心奪われたファウルス家の男を殺して、その最後を看取った。──これが、1人目の殺人。ただ、これは救済の為の殺しだった。


城に戻ってから、ファウルス家で見出したキリル──暁人を側近につけた。その暁人は、幼少期に【殺しの責務】を背負っている。


城に戻ってからは兄・エイルワードたちと多少揉めたものの、無事に認められたようだった。その後は療養も兼ねて城で過ごしていたようだが、その間に関係は動いた。自身の身元を明かし、心を開いたようだった。


アラドの亡き姉・【色欲の悪魔】と化したメイリアの墓参りと称して隣国へ渡り、王太子からの非難を受けた。


そして──今。レイエンフィリアの元側近の弟が【憤怒の悪魔】に一気に取り憑かれ、レイエンフィリアが悪意を持って殺した。──これが、2人目の殺人。




「これで彼女も【殺しの責務】を背負ってしまったね。しかもこれで得た悪魔は【強欲】、【色欲】、【憤怒】の3体。そろそろ危険だね」


「……っ」




彼女が動じる。慌てた、という方が正しいか。




「……なんで」


「うん?」


「なんでこんな、世界を」




鈴の鳴るような軽やかな声。

その声は悲しげに沈んでいる。


そう、そうだ。

この世界を──泉の向こうの、レイエンフィリアが生きるあの世界を作ったのは【裁定者】だ。


【人間の理想郷】。

人が死なぬ不死の世界。

働かなくても生きられて、死ぬことのない世界。


国を運営できるように、国を代表する資材は宝石にした。人々が憧れるのは、富の象徴は、宝石だと研究者たちから聞いたから。


器を作るため、宗教を作った。

器から追い出された魂が、無駄に世界を彷徨うことがないように。輪廻の概念があるのだと、この世界の者たちの意識の根底に、根付かせたかった。


宗教を作るために、無い歴史をでっち上げた。

人形遊びのように、人の形をした生き物をあるべき場所に配置して、「さぁ生活しろ、物語を紡げ」と、ある日突然始まった世界なのに、まるで“今まで”があるかのように偽りの記憶を植え付けられて。


人が死なない世界に、宗教という救いなどいらないだろう。けれどこれから、自分達【裁定者】が無為に殺していく。死んでいく魂のために、輪廻の概念がある宗教をでっち上げた。


善行と博愛の神、ヴァーニア。

彼女はあるはずのない歴史上、実際に生存していたということになっている。


元々人間だった彼女は、万人のために己を犠牲にし、物を分け与え、誰もを信頼し、裏切られ、利用された後に罪をなすり付けられ処刑された。その善行により女神となり、今も深く信仰されている。そんな設定。




「彼女はきっと、今以上の幸福を得ることはできないだろうね」


「そんな……」


「だって彼女は、これからも【悪魔】を集め続けるだろう?そうすれば、必ず彼女は壊れていく。それはもう確定事項なんだ」




きっと、もう兆候は表れている。

【憤怒】の男を躊躇いなく殺したのがいい例だ。殺しを躊躇う理性が消えている。




「でも」


「……?」


「でもそれは、貴方にとって、不都合の方が多いのではなくて?」


「……っ」




図星を突かれ、動じてしまう。

それを見逃す彼女じゃない。




「ほら、やっぱりそうなのだわ。思った通り。“貴方は嘘つき”ね」




そうだ、嘘つきさ。

そうでないと──


ふわりふわりと彼女に近寄って、広く開いた首筋に柔く噛み付いた。




「……」


「……」




感情の籠らない目で、なんの意味もなく見つめ合う。


くだらない、けれど、割とこれが癖になっていた。それもまぁ、どうでもいい。




「これからさ、見どころなのは」


「何をする気」


「僕は何もしないよ。ただ、舞台は常に、脚本という全てが決まったものの上で進行するものさ。つまり」


「何が起こるのかは決まっている、と?」


「ああ。…………でも──」




懸念が一つ。


フォーリアの動きが読めない、ということだ。

彼女は機嫌が悪い。特に、暁人をキリルに転生させて以降、日に日に機嫌が悪くなっていく。


自分たちがどうやって生み出されたのかは知らない。研究者たちに聞いてくれ。


けれどもやるべきことは知っている。

人間を理想郷に連れて行き、理想郷で生かし続けること。それが如何な方法であれ、自分達はこれを遂行する。それが生み出された意味だから。


研究者たちが何か喚いていたが、小うるさいから接続を切った。向こうは俺たちのことが見えていても、声は届かないし繋げさせもしない。きっと彼女を捨てろと言うから。


彼女を、殺しはしない。




「なぁ、レイエンフィリア」


「……なにかしら、オルディネ」




君だけは、ヴァーニアの元に連れて行きたくなかったんだ。

オルディネとレイエンフィリアの話。

この2人は物語のキーパーソンとなります。


次回更新は、2週間後の2/6の12:00となります。

よろしくおねがいいたします!

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