72 慟哭のカンタータ - 11
あつい。
くるしい。
あつい、あつい。
燃えてるみたいにあつい。
暗い。
くるしい。
おもい。
瞼が開かない。
くるしい。
あつい。
嗚呼、嗚呼。
私──
【目を覚ませ、小娘。死ぬぞ】
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「……っ⁉︎」
ハッと目を覚ます。
汗をかき、息を切らして、レイエンフィリアは目を覚ました。
そして──
「んなっ!!……っぅ!!」
レイエンフィリアに馬乗りになっている男が振り翳すナイフを目が捉え、身を捩りながら避けた。枕の裂ける音がする。
「くそっ!」
「……こんのっ!!!」
腕を捕らえ、脇腹に蹴りを入れてベッドの下へ男を振り落とす。ドゴッ!と言う派手な音がして、男が後頭部を押さえた。
その隙にレイエンフィリアは起き上がり、ベッドの対面の壁に背をつけて少しでも男から距離を取る。
────アラド、ベンク!……キリル!!
今のレイエンフィリアはネグリジェに耳の下あたりで括ったツインテール。正直邪魔で仕方がない。
レイエンフィリアは立ち上がった男の名を、恨みを込めて叫んだ。
「フェルガ……イーネル!」
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「クッソ!殿下はどこだ!!」
キリルの姿がない。そのせいで、レイエンフィリアが最上階のどの部屋にいるのかがわからない。1号館から3号館まであるこの宿の、最上階すべてを回っている暇はない。火がもう3階まできている。
「なぁ!イーネルはもう辿り着いていると思うか⁉︎」
「わからない!!けど……」
悪魔持ちは仲間の気配がわかると言う。もしそうならば……
「俺たちはどうやって探せばいいんだよ……!」
部屋に入った瞬間、殿下が術をかけたらしい。
最上階のドア、その先の部屋を入れ替える空間転移魔術。殿下の居場所がわかるのは、レイエンフィリアが持つ宝石の、対となる宝石を持つキリルのみ。
悪魔持ちか、キリルじゃなければ殿下を見つけられない。
だからアラドとベンクは、片っ端から部屋のドアを開け放つしか探す手段がなかった。
術の条件は、“ドアから先の空間”だ。ドアを開け放ち、廊下と一繋ぎにしてしまえば条件から外れ、分母は少なくなる。
「どこだ、殿下!!」
1号館は全て見た。2号館に行くか?3号館に行くか?
「ああクソ!!犯人はわかってるのに!!!」
正直、はじめっから怪しかったんだ。
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ビクリと、その場にいた3人が扉に視線を向けた。機敏な動きで扉の向こうに鋭い視線を注ぐ。
それは、レイエンフィリア、ラ・ステッラ、そしてイーネルの3人だった。
「……リンペラトリーチェ、今のは……」
「アラド殿ではないかと、自分は考えます」
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ラ・ステッラの部屋の前で、アラドがベンクに向けて殺気を放った時。
イーネルはレイエンフィリアに向けて言ったのだ。『アラドの殺気だ』と。
正直、相当の訓練を積み実践を重ねるか、騎士団長クラスの本気の殺気でも浴びない限り、殺気を感じ取ることも、ましてや、そのさっきが誰のものなのかを識別することなどできるはずがない。
アラドとベンクでさえ、殺気を感じ取れはすれど、個人の識別まではできない。
騎士見習いで、殺気を識別できるイーネルが常人であるはずがない。
「イーネルの気配はどこだ!!!」
レイエンフィリア曰く、殺気がアラドのものだと識別したのち、イーネルはこう言ったらしい。
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「剣は抜いていないようですし、威嚇だけではないかと、自分は思うのですが……」
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アラドの行動まで、見抜いた。
レイエンフィリアは思ったと言う。
『アラドの殺気だけでなく、扉越しの行動すら感知するこの男は異常だ』
その異常さから、レイエンフィリアはすぐに話を元に戻し、退室後にすぐイーネルを帰した。
────気味悪がって、当然だ。
話を聞いた瞬間、そんな猛者が見習いの地位で燻っているわけがない。理由があるに決まっている。聞いた誰もがそう思った。
「あああああ!もう!!キリがねぇ!!」
「落ち着けベンク!」
2号館に辿り着き、解錠の術をかけながら一つ一つ部屋を開けて行く。
────もっとだ。
炎はすぐそこだ。
────もっとなんだ!
階段はもう使えない。3号館に行く道は途絶えてしまった。
────ぶっ壊れたっていい!!
持ち分の宝石、全部に対し闇雲に力を注ぐ。
────人の命がかかってんだよ!!!
解錠しろ、そして開け!
────いいさくれてやる。だから力を寄越せ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!
ガチャン、ガチャンと、音が立て続けに鳴り。
【──────────】
バタン、バタンと、勝手に扉が開いて行く。
────ああ、いいよ。ふさわしくはなかろうさ、けれどくれてやる。だから今!
「俺は死んだっていい!だから、全部全部、開いちまえ──!!」
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ものすごい音を立てて、部屋のドアが開いた。誰が来るわけでもないのに、突然に。
「なっ、嘘だろ。探知の術は無効化したはず!」
ドアに一瞬気を取られたイーネルに、レイエンフィリアは──玲華は、散々叩き込まされた体術でイーネルを蹴り、殴り、隙を作って、脳震盪ギリギリのラインで壁に叩き付けた。
鈍い音と共に、呻き声を上げてイーネルが倒れる。
ぜぇはぁと肩で息をしながら、レイエンフィリアは部屋のドアへ走る。
────逃げなきゃ!廊下に出れば助かる!
──廊下に出た、瞬間。
「きゃぁぁぁあぁあああ!!」
炎、が──レイエンフィリアに襲い掛かった。
玲華ちゃん、暴力はいけません。
正当防衛?ならオッケー!なんですかね?
じゃなくて。
回想シーンについては、
『10 邂逅のプレルーディオ - 08』
を参照してください。
次回更新は明日、1/8の12:00です!
よろしくお願いいたします!




