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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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71  慟哭のカンタータ - 10

夜が、近づく。




「致し方ない、各宿に泊まれるだけの兵を泊めるよう手続きをしろ。10人以上で泊まるのが望ましいが、贅沢は言わん。周囲の宿を巡って聞いてこい!」




今回の遠征で陣頭指揮を執っていた騎士長が指示を飛ばす。その声が馬車の中のレイエンフィリアにまで聞こえていた。


長壁を越えてすぐにある国境近くの街、クラウスラー領のエルド村。宿場町として有名で、商人たちも国越えの際によく利用しているため、いつでも賑わいを見せる宿場町だ。


一本の川が複数に分岐し、それぞれの陸地は橋で繋がり、すべての陸地に宿や商店が所狭しと並んでいる。すべての宿からは川が見え、その景観の良さも賑わいを後押ししていた。




「殿下」




キリルの声に、馬車の窓から顔を覗かせる。




「どうかしたの?」


「我々の宿は先に決まったそうです」




行きましょう、と言う一言と共に、馬車の扉が開かれる。ゆっくりと降りれば、目の前には荘厳な宿屋が佇んでいた。




「ここ?」


「はい、ここの最上階の部屋を」


「別に、そこにそんなにお金をかけなくてもいいと思うのに」


「王族は見栄を張らないと、金銭的な面でも」




はぁ、とため息をついて、キリルの手を取り宿屋へ入っていく。周辺には食事処や酒屋、土産物屋などがあったが、綺麗な街灯や舗装されたタイル張りの街道は見応えがあり、夜の景色を見るのが楽しみだった。




「来るかな」


「来るでしょう」


「だといいけど」


「アルグレムも、気配が強いって言っていたんでしょう?ならきっと、来ますよ」


「そう、ね」


「ですから、ちゃんと備えてくださいね」




宿内の階段を登りながら、部屋を目指していく。鍵の金具が擦れる音を聞きながら、浮かない顔で階段を登るレイエンフィリアはアルグレムの言葉を頭の中で反芻していた。




【ガイネルンの気配がここ最近急に濃くなってきた。何某かの行動に移すかもしれない。ヤツは憤怒だ。お前を殺しに来るかもしれないぞ】




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




夜が来る。

晴れた星空、頬を撫でる風。穏やかな夜の闇が街を包んでいるが、ぼんやりと灯る街灯が幻想的だ。




「キリル、もう下がっていいわよ」


「……はい」




渋々といった風を隠しもせず、あからさまにため息をついてキリルが踵を返した。ドアの前まで進んで、首だけでこちらを向く。




「本当に、大丈夫なんですか」


「大丈夫よ」


「……信じますよ」


「うん、頑張る」




そう言ってキリルは部屋を出て行く。


怖くないかと言えば嘘になる。

どうなるのかわからない。けれど、舞台は整えた。




「なるように、なる」




レイエンフィリアは水差しからコップに水を注ぎ、ゆっくりと飲み干した。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




宿場町の酒場にて。

兵士たちはいっときの癒しとして酒を愉しんでいた。レイエンフィリアから直々に許可が降り、せっかくなら楽しめと言われたのだ。




「久しぶりの酒だ!あー、美味い!!」


「遠征中に酒なんて、普通は許されないからな、ありがたい!」


「飲みすぎないでくださいよ、皆さん。ほら、先輩も。……先輩?せんぱーい」


「あー、うぃっく」


「先輩、先輩。起きてください、先輩!明日も仕事じゃないですか!先輩!」


「んー」


「だめだ、完全に潰れてる」


「大丈夫だ。そいつ、酔いが回るのはびっくりするほど早いけど、翌日に残るほど飲む前に潰れるらしいから」


「大丈夫じゃないですよね、それ」


「とにかく、マジで起きるとケロッとしてるからさ。ほっとけほっとけ」


「お前も少しは飲め、ほら。潰れる前にちゃんと言えよ」


「はい、いただきます」


「つまみ追加するか?何食う?」


「あ、俺は──」




バタバタバタバタ、と。

けたたましい足音が聞こえてくる。それと同時に、ガシャガシャと擦れる金属の音。




「なんだ?この音」




音は一つではなく、いろいろな方向に向かって複数の二重奏が鳴っている。


一つ、二つ……数えにくい。


一体何事だ?揉め事か?


レイヴヴィヴェーニアの兵士として、酒が入っているとは言えど正義感は消えない。全員が顔を引き締め音の出所に向けて睨みを効かせた。


何がくる?

揉め事か、緊急の連絡か。殿下や大臣らに何かあったか?


その瞬間、酒場の扉が荒々しく開け放たれた。




「レイヴヴィヴェーニアの兵士はいるか!!!」




飛び込んできたのは顔見知りの兵士だった。

息を切らし、苦しそうに肩を上下させ、ダラダラと汗を垂らしながら店内を見回し──視線が合う。


ハッとした顔になって、兵士はフラフラになりながらテーブルに走り寄ってきた。




「た、大変だ!!!」


「どうした、何があった⁉︎」


「い、いま……巡回、してた、全員で、酒場とか、まわってて」


「ああ、それで?」


「大変なんだ!」




縋り付くように両腕を掴まれて、強引に視線があった。一体何が?




「か、火事だ」


「「「えぇっ!」」」


「レイエンフィリア殿下が止まってる宿屋が、火事になってるんだ!!!」


「殿下は!客は⁉︎」


「3階以下の宿泊客は、火に気付いて逃げ出してきた人がほとんどだ。でも全員じゃない!それに、殿下もまだ確認されてない……!」

お酒の描写をしましたが、作者はお酒が飲めません。アレルギー持ちです。ですのでお酒を飲むとどう言う喋り方になるのかよくわからず、なんとなくそれっぽく書きました。違和感があったら申し訳ないです。


次回更新は明日、1/7の12:00です。


ストックが……ストックがぁ!!

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