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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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70  慟哭のカンタータ - 09

キリルの元へ送ったベンクが戻ってきた時、彼の手には変わったものが握られていた。




「これ、キリルさんからです」




そう言って手渡されたのは、うっすらと水色に色づいたクリスタルの薔薇細工だった。手のひらに収まるほどの小ささで、けれど一目で薔薇だとわかるような細かな作品。




「これ、どうしたの?」


「暇だから作るって言って、目の前で作ってくれたんです。殿下にお守りだから持っていて欲しいって」


「お守り……」


「あの、俺……殿下が無理して笑ってるんだって言っちゃったんです。この会場で、何もしらないって顔で笑い続けてるんだって。そうしたら──」


「くれたのね、これを」




細い茎から一枚だけ葉が伸びて、大輪とまではいかないものの、薔薇の花が綺麗に咲いている。




「器用ね、キリルも。宝石細工」


「ベンクが宝石魔術使うようになってから、自分でも勉強始めてましたからね、キリルさん」


「そうなの?」


「ええ、口止めされてましたけど」




教えちゃってよかったのだろうか?

そんな疑問は浮かんだけれど、それは些細な問題だろう。


ポケットにそっとしまい込んで、顔を上げる。晩餐会の終了までまだ時間がかかる。




「さ、いきましょうか。晩餐会はまだまだ続くものね」




部屋に戻って2人を下げたら、彼の腕の中に飛び込んでもいいだろうか。キリルとレイエンフィリアとして口付けることを、彼は許してくれるだろうか。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




翌日、城門前。

レイヴヴィヴァーニアの兵たちは整列して横隊を作り、レイエンフィリアの登場を待っていた。


見上げる先の大きな扉が開かれ、キリルのエスコートを受けてレイエンフィリアが現れる。


その後方には大臣たちや護衛2人の姿と、見送りに来た王族の姿があった。




「では王太子殿下、これにて失礼致します。本当にありがとうございました。どうぞこれからもよろしくお願いしますね」


「えぇ、こちらこそ」


「ご子息がお生まれになった際には、また伺いますわ、王太子殿下」




その瞬間、王太子の顔が凍り付き、その後ひくついた。視線は後方のキリルに向いている。


しかしレイエンフィリアもキリルも、それには一切気がつかないとでも言うように微笑んでいる。




「そ、そう……ですね。その時は……ぜひ……」




引き攣った笑顔で、曖昧に返す。その後方の大臣たちも、また。


1人楽しげに微笑みながら、レイエンフィリアは綺麗に一礼して馬車へ向かう。乗り込む前にもう一度一礼して、レイエンフィリアは馬車へ乗り込んだ。


馬車を先導する兵士たち、馬車と護衛の兵士、後方に連なる兵の順で、レイエンフィリアたち一行が去っていく。


ウェリンターレの者たちの顔は苦いものを噛み潰した顔になり、空気は言い表せないものだった。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




帰国の道中も平和だった。何事もなくウェリンターレを後にしてからは、貿易街道を渡って宿場町で休む、の繰り返し。


ウェリンターレ王国の王都から国境までは5日。そこからレイヴヴィヴァーニアの王都までさらに2日かかるとされている。


ウェリンターレ王国の王都を発ってから4日。少しハイペースで進んだからか、遠目に国境の長壁が見えてきた。人間たちはその事実に少し頬を緩めたが、レイエンフィリアは別のことが気がかりだった。


ベンクやアラドの報告曰く、体調を崩す馬が増えてきているのだそうだ。

世話係に話を聞いてもらったところ、ウェリンターレに向かう1週間の移動と、慣れない国での約1週間の滞在、そしてこのハイペースの移動により、疲弊が溜まっている馬が多いのだと言っていたらしい。


報告を聞いて納得もした。

どちらかと言うとキリルの味方をしたい御者が、気を急いて足を早めるようにしてしまったのだろうかとも考えていた。


一刻も早くこの国から離してあげたい、と。


無意識かでそういう考えが動いてもおかしくはない。もう兵士のほぼ全員に話が回ってしまったことは知っている。この遠征に同行した兵士全員に緘口令は敷いた。これ以上広まることはないと信じたい。


幸い長壁はもう間も無くだ。

国境を超えてしまえばある程度の自由が利く。


レイエンフィリアはベンクを呼び、国境を超え次第休むように指示を飛ばした。予定より早い移動ならば、休みをここで入れても問題はないだろう。


まだ昼日中。半日も休めば、馬たちもある程度は回復してくれるだろう。


しかし問題は宿だ。

予定にない宿泊のせいで、兵士全員が休める部屋数を用意できるかわからない。当然、周囲の警戒をする兵士は交代で常にいるため、全員と言っても全ての兵とは言い切れないのだが。


おそらく、兵士がさまざまな宿に散在することになるだろう。レイエンフィリアと大臣数名は固まるか、それぞれ離れるかを決めなければならないが、それも話し合えばじきに決まる。


それよりも。




「できれば、兵士には散在していてもらいたいのよね」




できるなら3、4カ所に分かれていて欲しい。なんならもっと細かくてもいい。1カ所にいる兵士の数が少なくなるようにしてほしい。




「でもまぁ、なんとかなるでしょう」




これは賭けだ。

行動を起こすか、否か。


行動を起こすには万全の体制でいなければならない。そのための用意もきちんとしておかないと。




「勝負は夜、ね」




それまでは、みんなに休んでいてもらいましょうか。

ここからまた一波乱です。

レイエンフィリアの周りは絶えず何某かの物事が起きますね。


次回更新は明日、1/6の12:00です。

よろしくお願いします!

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