63 慟哭のカンタータ - 02
「白状しろ、玲華」
「ナンノコトデゴザイマショウカ」
「れーいーかー」
「聞こえなーい!なーんにもきこえなーい!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………玲華」
「……何も聞いてないもん」
「誰から?何を言われた?」
「…………」
【俺から言ってやろうか?】
「……⁉︎」
聞き覚えのある男の声がする。
この声は、確か──
「アルグレム……」
嗚呼、そうだ。【強欲の悪魔】だ。
クルース・フォン・ファウルスに取り憑いていた悪魔。その名をアルグレム。
「どういうことだ」
彼が、暁人が立つレイエンフィリアのベッドの向かい側から語りかけてくる。正確に言えば、ベッドの隣にあるドレッサーの上のジュエリーボックスに収められた状態で、箱越しに。
【警戒を強くしたほうがいいぞ、男。姫の周囲で、ガイネルンの気配が強くなってきている。まだ覚醒していない今のうちに、手を打っておいたほうがいい】
「ガイネルン?」
「アルグレム曰く、【憤怒の悪魔】だそうよ」
ベッドに腰掛け、柔らかなクッションを抱きしめた玲華が言う。
7体の悪魔のうち、玲華の手中に集まるのは【強欲】と【色欲】の2体のみ。そして【憤怒】を手に入れるため、玲華は自ら行動を起こそうとした。
はぁ、と、暁人は諦めのため息をついた。
「玲華、お前は今、レイエンフィリア第3皇女なんだぞ」
「わかってます」
「なら、なんで俺に相談もせず決めたんだ」
「……だって」
「だって、なんだ?」
「…………」
「自分が集めるって言い始めたから、ちゃんと責任取って、自分でやろうと思ったのか?」
「…………っ!」
図星ですと言わんばかりに、玲華はビクリと肩を揺らす。
「図星か」
「……ごめんなさい」
「あのなぁ」
玲華に歩み寄り、俯いた彼女の耳にほつれた髪を掛け直す。ばっと顔を上げた玲華に口付けて、暁人は囁いた。
「俺はそんなに頼りにならないか?同じ転生者で、同じ柵に囚われながら生きてきた過去を持っていて、今この瞬間も一緒にいるのに。信用できないか?」
「ち、ちがう!そうじゃないの」
「…………」
「そうじゃ、ないの……」
ケモノ耳が付いていたら、へにゃりと耳を倒していそうなくらいに落ち込んだ様子の玲華を見て、仕方ない、と言わんばかりに暁人はため息をついた。
「行くのは、変わらないんだな?」
クッションに顔を埋めて、玲華がコクリと頷く。
「悪魔に取り憑かれかけている人を助けたいとか、そんな殊勝な気持ちじゃないの」
「……ああ」
「ただ、【悪魔】たちを殺してあげたいだけ。人じゃなく、【悪魔】に肩入れしているの」
「…………ああ」
────わかってる。わかってるさ。
「人のくせに。今こうして、この世界で生きているのに、考えているのは民のことじゃない。私個人の我儘で、ヒトより【悪魔】を選んでる」
「ああ」
「自分で自分が、気持ち悪い……だから」
「ああ」
「同じ思いを、して欲しくなくて。貴方には、私のそばから離れて欲しくなくて。幻滅されたく、なくて。私だけの、そばに、いて……欲しくって」
ぎゅうっと、玲華はクッションをさらに強く抱き締めて、それの形が大きく変わる。髪から覗く耳が驚くほど赤い。
「……玲華」
「……っ」
「顔を上げてみろ、玲華」
「っ……、や、だ……!」
「玲華」
ベッドに乗り上げ、クッションを抱き締める彼女の腕を掴んで、クッションから玲華を引き剥がす。
「……っ」
見たことがないくらい、玲華は顔を赤くしていて、見たくないとばかりにキツく目を閉じている。
「玲華」
「…………っ」
「目を開けろ、玲華。俺が怒っているように見えるか?」
「…………」
恐る恐る、玲華が目を開ける。
お互いの視線が絡み合って、一気に空気が甘さを孕む。
「あ、き、ひと……」
「ん?」
「幻滅、してないの……?」
「するわけないだろう、俺も九龍院の人間だったんだし。薄情さに関しては、お前よりずっと上だ」
「……っ!」
掴んだ腕を引き寄せて、抱き締める。
胸に泣きつく玲華の髪を撫でて、耳元に囁く。
「【悪魔】たちから何か言われたら、俺にも聞かせてくれ。お前だけが悩む必要はないだろう?俺にだって共有させてくれ」
暁人の腕の中で、玲華は小さく頷いた。
また甘くなりました、理由はわかりません。
助けてください、2人が暴走するんです。
次回更新は明日、12/30、12:00となります。
よろしくお願いします!




