表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
61/160

61  共鳴のレチタティーヴォ - 22

「その、わ、たし……動揺してしまって……」


「あー、なるほど」




ふむ、と少し考える素振りを見せたアラドは。




「えっ、あっ、ひゃっ」




左耳の、裏。

ちょうど髪の毛や耳の影になるそこに、キツく吸い付いた。


ちゅ、と、決して小さくはないリップ音が耳元で鳴って、マリンは思わずアラドに縋り付く。




「あ、アラドさん⁉︎いったい、な、何を⁉︎」


「…………独占欲、ですかね。これも、俺の」




────意味がわからない、どういうこと?




頭の中でぐるぐる回るその言葉の整理がつく前に、アラドが離れてしまう。




「お茶、俺が淹れますね。貴女ほど美味しくはできないと思いますけど」




照れる姿すら、愛おしむように。

アラドはそっと声をかける。


普段場内を歩く時、先頭を進むレイエンフィリアのすぐ後ろには、キリルが控えている。キリルの数歩後ろにはマリンが控え、さらにその後ろにアラドとベンクが隣り合って並ぶ。


キリルはいつもレイエンフィリアの右斜め後方に。マリンはレイエンフィリアの左斜め後方に、キリルより下がって。そして、ベンクはいつも右側に、アラドは左側についている。


左耳の裏に濃く残した痕は、よほど観察でもしない限り、アラド以外が見る事はない。




────言っただろ、独占欲だって。その姿だって、痕だって、誰にも見せてやるものか。




いつからなんて知らない。ただずっと目で追っていた。


理由なんて、それだけでいい。




「…………アラド、さん」


「はい?」




茶器を用意していた手を止めて、アラドはマリンを見下ろした。その瞳は、何かを決意したように、アラドを上目遣いに睨んでいる。




「マリンさん?」


「…………」


「……えっ、マリンさん、何して……!」




使用人控室だからと、アラドは制服の襟を緩めていた。詰められた襟元は正直息苦しくて、控室でのみ外す者がほとんどだ。

だから今、アラドの首元からは第一ボタンの外れたワイシャツが覗いていた。


マリンはその第二第三ボタンを外し、自分の方へグイッと引き寄せて──




「……っ⁉︎」




微かに、リップ音が響く。

触れた唇の感触が消えると、そこにはうっすらと痕が残る。


けれどマリンは不満そうで。




「……?上手く、付かないものですね」


「……マリン、さん」


「仕返し、です。やられてばかりでなんて、いられません」




拗ねたようにフイとそっぽを向く姿が、あまりにも愛おしくて。




「……もっと、キツく吸うんですよ。軽く痛みを感じるくらいの強さで」




襟を引っ張って、首元を露出させる。

アラドに身を寄せたマリンは、先ほどよりも強く、肌に吸い付いて痕を残そうと必死になる。




────何を張り合ってるんだか。




吸血鬼に血を与えるように身を寄せ、キスの合間の喘ぎ声のような、甘い声を上げるマリンの腰を抱き締める。花のような香りが鼻腔をくすぐって、彼女の首元に視線が集まった。




「マリンさん」


「……?」




キスをやめ、純粋そうな澄んだ瞳がアラドを見つめ返す。メイド服の首元のボタンを一つ、外して、アラドは問うた。わざとらしく、声に熱を孕ませて。




「どこまで、します?」


「…………っ!!!」




顔を真っ赤にして、マリンはアラドの胸に顔を埋めた。どうやら我に帰ったらしい。悪戯への仕返しに燃えていたせいで、自分が何をしたのか、今更ながら遅れて気付いたようだった。




────嗚呼、なんか、可愛い。




恥ずかしそうに身を小さくするマリンの耳元にキスをして、彼女の目を覗き込む。




「首筋、俺も残しましょうか?いやでも目立つくらい濃く」


「……け、けけ、結構、です!!」


「残念」




くつくつと笑えば、まだ赤い顔を隠そうと頬に触れるマリンが数歩離れた。名残惜しいけれど、甘い時間はそろそろ終わるだろう。消灯時間が近い。




「マリンさん」


「……はい」


「……マリン」


「……っ、……はい」




消え入りそうなか細い声に、真面目な声色でアラドは言い募る。




「今みたいな事、他の男相手にやらないでくださいね。あと、控室に入ってきた時みたいな顔も」


「…………どんな顔、してました……?」


「貴女に声をかけずにはいられないような、甘い顔をしてましたよ。無自覚でしょうけど、煽られているのかと思った」


「あ、おっ……!」




また赤くなる。

本当に可愛いな、と思いつつ、時間も時間なので結局使わなかった茶器を片付けた。


乱れた服を直し、最後にマリンに近づいて。




「俺を煽るのはいいですけど、他の男相手にはやめてくださいね」




そう言い置いて、その額に口付けを一つ。




「は、い……」




甘い声色を聞き届けて、アラドは私室への道を辿った。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




間もなく日付も変わる、静けさが耳に痛い夜の庭園。そこを眺めながら、1人の男が低く呟いた。




「絶対に……ぜったいに、殺してやる。兄さんよりももっと、辛く、苦しく、目も当てられないほどに惨たらしく、殺してやる……!」




男の声を拾うものはおらず、ただ、庭園の白薔薇たちだけが、その様を見つめていた。

以上で、共鳴のレチタティーヴォは終了となります。こちらも長かった……ですが、次章も長くなる予感です。なんと言いますか、やっと起承転結の『承』に入っていく、という感じです。


そうです、ここまでが『起』なんです……多分。


次回は明日、12/28、12:00から、新章『慟哭のカンタータ』開始となります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ