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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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59  共鳴のレチタティーヴォ - 20

一人暮らしの頃から考えれば驚くほど広い浴室で、レイエンフィリアはひとり、湯船で揺らめく水面をじっと見つめていた。


呼吸とともに上下する体と、それにより生まれる微かな揺れ。それをじっと見つめながら、暁人と共有した記憶を思い出していた。


髪も身体も洗って、ゆっくりと湯船に浸かって、数分。


巡るのはそればかり。




「うんめい。うん、めい……」




実際に言われるのは、物語の中でだけだと思っていた。『君が僕の運命の人』とか、『運命に逆らって……』とか、そんなありきたりな言葉、自分には縁がないと思っていたから。




────嗚呼、でも。




あの2人は、運命だった。




「美風と……壮也様……お元気かなぁ。いつもみたいに怪我、してないといいけど」




ああ、でも。




「──そういえば」




────流れ込んだ記憶の中に、暁人が死んだ瞬間の記憶は、含まれていなかったな。




『嗚呼、自ら制限したのか』と思い至って、口に出すのはやめた。




「言う勇気が出たら、きっと言ってくれるよね……?」




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




暁人は物音を立てないようにしつつ、ゆっくりと部屋の扉を開けた。マリンに死ぬ思いで謝罪し、着替えを用意してもらわないといけない。


部屋に戻る道中、レイエンフィリアの寝室にいるであろうマリン宛に、伝言を頼んだ衛兵をやった。


だから多分、用意はしてくれているは──




「……キリル様」


「…………っ⁉」




薄く開いた扉の向こうから、予想外にマリンの声が聞こえて、暁人の背は跳ね上がった。


扉をゆっくりと開け放てば、そこには『ジトー』という効果音が聞こえそうなほど暗い目でマリンが暁人──キリルを見つめていた。右手には、レイエンフィリアの着替えと思しき服を持っている。




「あー、えっと、マリンさん?」


「別に、『手を出すな』とまでは申しませんが」


「いや出してない!出してないです!」


「聞く気はありません」


「いやマリンさん、ほんとに聞いてくださいって!」




マリンに詰め寄って、ふいとそっぽを向いてしまった彼女に弁解しようとキリルは必死になっていた。


今は夜半、大声を上げれば──




「キリルさん?どうしたんですか?」




廊下の向こうから、マリンをここに送ってきたアラドとベンクが顔を出すのも必然だった。




「2人とも……」


「「?」」


「はぁぁぁぁぁぁ」




面倒なことになった、と。

キリルは頭を抱えて大きなため息をついた。


もういい、玲華に服を渡して、この場を収めたい。




「マリンさん、殿下は浴室で“煤を落としています”ので、着替えを届けてください。入ってすぐの、左手の扉です」


「ええ、失礼します」




断りを入れて、マリンが部屋の中に入っていく。中から「姫様、失礼いたします」と言う声が聞こえて、キリルは取り敢えず扉を閉めた。


気まずい顔をして、アラドとベンクに向き直る。




「アラド、さっきのマリンさんと同じ顔してるぞ」


「誰のせいですか、誰の」


「いや、だからほんとに、別に手を出したわけじゃないって」


「まぁ、そこは信頼してますけど」




キョトンとした顔で話を聞いていたベンクが、なんでもないことのように問う。




「なんで殿下の寝室じゃなくて、キリルさんの部屋にいるんですかね?……殿下が望んだんでしょう?キリルさんが自ら、自分の部屋に来るよう提案するとは思えないですし」


「あー、まぁそうなんだけど」




望んだのは誰かと問われれば、キリルは迷いなく『殿下だ』と言えるだろう。しかし、提案したのは誰かと問われれば──




────俺、と言えなくもないんだよなぁ……




はてさて、この純粋に先輩のことを信用している彼らの瞳を、どうやってくぐり抜けようか?




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「姫様、本当に、何もなかったんですね?」


「マリンマリン、圧がすごいわ」




キスはしたけど、それ以上は何も。

……とはまぁ、言えず。




「……むしろ、私の方が“何か”をしてしまったわ」


「えぇ⁉︎な、何したんですか!!」


「その……彼に泣き付いたというか、号泣しちゃったというか……随分、迷惑をかけてしまったと思うの」




申し訳ないことをしたわ、と。

マリンに着替えを手伝ってもらいながら、申し訳なさそうな表情を鏡越しに見せる。


実際、わがままを無理に聞かせてしまった自覚はある。しかも、前まで自分より偉かった人に、だ。


罪悪感を感じないほど、玲華は非情じゃない。




「ちゃんと謝らなくちゃ」


「姫様……」




随分と、気を許しているんですね。とは、聞けなかった。


2人が出会ったのはファウルス邸での事件の最中だと、マリンは聞いていた。


帰城後、怪我だらけのキリルを紹介され、今後側近になると知らされて。療養に入り、復帰して仕事ぶりを見てはいたけれど、そこまで親密になるような何かがあったのだろうか。


或いは、事件の時には既に?


考えても仕方がないか、と思い至って、頭を振る。自分がするべきは、主のために尽くすことだ。


それがいかな選択、行動であれ、信用し、尊重し、皇女を守り抜く。




「姫様、部屋の外でキリル様たちが待っていらっしゃいます。ネグリジェ姿ではありますが、身支度を整えて向かいましょう」

ヴァイオレット・エヴァーガーデンが流行っていますね!嬉しい限りです。テレビアニメ放送当時から小説を全巻買い揃え、毎回毎回号泣してきましたので、地上波で放送してくれる、と言うのは本当に嬉しいです。


あの作品のように、美しい作品になるよう頑張ります。が、後半は割と血みどろな作品なので、誰もが感動する作品にはならないと思いますが……読者の皆様に刺さる作品になればと……!!


さて、次回更新ですが、1週間後の12/26、12:00となっています。年末年始の連続投稿開始です!1/8あたりまで(終了日は未定)連投しようと思っていますので、ぜひぜひお楽しみに!

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