表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
58/160

58  共鳴のレチタティーヴォ - 19

案内されたお屋敷は豪邸で、広い庭園とグラウンドのような鍛錬場が目につく、美しい場所だった。


使用人の数も、多いわけじゃない分アットホームで、血の繋がりがなくてもみんなが仲間、みんなが家族、といった家で。


拒まれた記憶もないし、蔑まれた記憶もない。当然、驚かれはしたけれど。


隣国への長旅を終えて家の主人が帰ってきたと思ったら、隣国から子供を拾ってきて、挙げ句養子にするなんて言い出すんだから。そりゃあ誰だって驚くだろう。


でも本当に、拒まれなかった。


今になればわかる。

あの屋敷は、“星”の部隊長のお屋敷だ。

ラ・ステッラの地位に就いた者が棲まう家。


養父が代替わりすれば主人は代わる。

でも使用人たちは変わらない。彼らはラ・ステッラという位付きの使用人で、養父に付いているわけではないから。


就任者が代わればルールも変わる。やり方も、生き方も、生活スタイルも全部変わる。


だから、あの人たちは俺を拒まなかった。彼らにとって、“変化すること”は当たり前だったから。


そのおかげで俺は拒まれなかった。忌避もされなかった。救われたけれど、この世界の歪みの縮小版を見ている気分だった。


ラ・ステッラの養子になったということは、いずれ皇城に上がることは確定していた。それに相応しい立ち居振る舞いも、身に付けておくべき知識も、全て1から叩き込んでもらった。


そうして、皇城に上がって仕事を続け、アラドとベンクに出会い、育て、送り出して数ヶ月。


俺は、運命に出会った。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「うん、めい」


「やっぱり、割と鈍感なんだな」


「や、そうじゃなくて。私たちが会ったことは、……出会えたことは、運命なの?」


「……少なくとも、俺には運命だった。十数年間、あちらでのことを語れる人はいなかったし、いてもきっと、九龍院の人間じゃない確率の方がずっと高かったし。だから、驚いたんだ」




なにが?と、玲華は視線で問いかける。彼の話に、文字通り口を挟むのは嫌だった。




「お前がファウルス邸で、『美風』の名前を出した時。心底驚いた」




『お願い、美風様を見ているだけだった私に、戻さないで』




思わず、玲華は顔を上げてじっと暁人を見つめた。口に出したつもりがなかったからだ。




「え、口に出てた?」


「気付いてなかったのか?」


「思っただけ、だと……」




けれど、と、玲華は言い募る。

貴方だってそうじゃないか、と。




「クルースと対面した時、『辻切菖蒲があれば』って呟いていたの、聞こえたんだから」


「バレたのは気づいてたけど……」




────本当に、たったあれだけで確信を抱かれ、キスをして記憶を共有することになるとは思わなかった。




左手で目元を覆い隠し、ため息を一つこぼした暁人の顔を、玲華はそっと覗き込んでみた。




「……どうした?」


「面影は全然ないのに──」




貴方の全てが、“貴方”に見える。


息が詰まる、というのはこういうことを言うのだろう。暁人は一瞬、呼吸を止めた。否、呼吸の仕方を忘れたような心地だった。


自分の顔を覆うように垂れ下がる玲華の髪を一房手に取り、柔らかく口付ける。


仕草に意識を向けて、誤魔化している自分自身に気づいてほしくなかった。そして、(さっきから気にはなっていた)最終手段の一言。




「そういえば」




ふと視線があいました、を装って、暁人が言う。




「風呂、入らないとだな」




一瞬何を言われたかわからなかった玲華だったが、改めて自分の姿を見て「そうね」と呟いた。


髪やネグリジェについた煤、おそらく足についているであろう土や草のカケラ。そう言ったものを全部、気にすることなくベッドに横になってしまった。




「ごめんなさい、暁人」


「気にしなくていい、が……煤まみれなのは気になるだろうから、風呂に入ってこい」




渋々頷くけれど、玲華の表情はどこか拗ねたような、いじけたような、年相応のものになっていた。




「どうした?」


「……ね、ムードって言葉知ってる?」


「……?知ってるが?」


「…………状況、見ましょうよ」


「……見てるんだが…………あー」




────さっきもやったな、このやりとり。立場が逆だったけど。




誤魔化したかったんだ、とは言えず、心の中で謝りながら玲華を浴室へ押し込んだ。


浴室へ押し込まれてしまえば流石に、玲華も観念したのだろう。少しの間ののち、シャワーから水の流れる音が聞こえてきた。


浴室に続く扉に背を預けて、暁人はずるずると床にへたり込む。どうにか隠し切った、真っ赤になった顔を手で覆いつつ、消え入りそうなほど小さな声でつぶやいた。




「言えるわけないだろう。ずっと前から知ってて、ずっと……好きだった、なんて」

だいぶコロナが落ち着いてきましたね。

『自粛生活中の時間潰しに〜』うんぬんといった文句が使えなくなってきました……ちぇ。


しかし感染者数が減るのは嬉しいですね。ちょっとした旅行とかにも行きたいです。家族と近場にしか行けなかったので。少しだけ遠出したいものです。


さて、次回更新は12/19の12:00です。


今年の年末年始も、連続投稿をしようと思います。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ