53 共鳴のレチタティーヴォ - 14
今回より先、自分で設定した字数制限(2000字前後)を多少無視してお届けします。
そこは、一面に青い花が咲き誇る、幻想的で魅惑的な夢のような場所。
「やっと起きたか、暁人」
目を覚ましてすぐに聞こえた女性の声に、暁人は勢いよく上体を起こした。
人間とは思えない何かが、暁人の目の前に浮いていた。
天使と呼ぶにはあまりにもイメージとかけ離れていて、悪魔と呼ぶには、あまりにも清廉とした雰囲気がある。
王者の前に立ったような、ひと睨みで人を殺せそうな荘厳たる威圧感。圧倒的な存在感。そんなものが、ある。
────なんだ、ここは。どこだ?コイツは誰だ?なぜ俺を知っている?
権能を使おうと力を使ってみたけれど、返ってくるはずの反応は一切ない。刀は具現化しないし、声も聞こえてこない。
「君、状況わかってる?」
そう問うてくるモノがなんなのか。
暁人には見当もつかず、立ち上がることも、構えることもできないまま、上体を右肘で支えているだけの、中途半端な姿勢で【その女】を見上げた。
面倒くさそうに暁人に語りかけてくるその容姿は、どちらかというと女性に見える。
紺に近い艶やかなインバネスコートを着て、ベネチアン・マスクをつけている。銀色のストレートのロングヘアで、長い前髪を耳にかけ、サイドの髪の一房を肩に垂らしていた。
口元は引き結ばれ、お世辞にもいい印象は抱かなかった。
長い裾は足元も体型も隠しているけれど、やはり、女性っぽく感じる。しかしその横柄な態度は男性的で、どこかチグハグだと思った。
────ああ、そうか。人間味が無いんだ。
女性的だとか男性的だとか、そういうベクトルではなく、人間らしさを感じない。
ロボットのように元々感情のないモノに、感情の仮面を被せているような、そんなイメージ。
「…………俺は、死んだん、だな」
「それがわかっているのなら、いい」
死んだ。九龍院 暁人は死んだ。
なんということはない。ただただ、死んだ。殺された。
誰に?
──わからない。見えたのはただ、翻った白衣の裾だけ。
いつ?
──仕事終わりの、お屋敷で。部屋に戻る途中の廊下だった。
どうやって?
──権能の具現じゃない、生身の刀で。後ろから躊躇いなく串刺しに。
じゃあ……なんで?
──それは、きっと──
「俺が……【暁】だからか」
「お前たちの事情は知らんがな。お前がそう思うのなら、それが真実だ」
【暁】。
九龍院 壮也を除いた次期当主候補上位5人の総称。総一郎、美風、航夜、集、そして暁人。【暁】の彼らは壮也の指示無しには動かないし、戦いに参戦することも少ない。
自由に現場に出られない壮也に代わり、現場へと赴き彼の目になるのが【暁】の役目だ。
戦況に手出しはしないが、見守りはする。参戦せよとの命令があれば戦うし、動くなと言われれば動かない。全ての基準は壮也で、彼ら【暁】を【暁】として動かせるのも壮也だけだ。
その5人の中で、ある意味、暁人は1番弱い。他のメンバーは、みんなあらゆる意味で人間じゃないのだから。
自分だって、正直人間辞めてると思う部分は多々あるけれど。それでも、彼らの比じゃない。
逆に言えば──
「殺しやすかった、のか。【暁】の中で、俺が1番普通で、人間だから」
「そう考えているところも、殺しやすい一因だろうな」
まさかそんなことを言われるとは思ってもみなくて、暁人は【その女】を見た。仮面に隠されて表情のわからないその人は、つまらなそうに顔を背けている。
「……なぁ、俺はなんて呼べばいい?お前のこと」
「…………私は神人だ。またの名を【裁定者】。或いは……フォーリア」
「フォーリア、が名前?」
「個体名ではある。が、名前という感覚はない」
心底嫌そうに、フォーリアは暁人と見下ろした。
「お前たち九龍院が、身の程も弁えずに私たちを作り出した。ヒトの進化の過程を一足飛びに通り越して、新たな人類を作ろうとした。その成れの果てが私たちだ」
「…………九龍院家なら、やりかねないな」
暁人は思わず苦虫を噛み潰したような表情になった。壮也と他の【暁】が人間ではなくなったのは、同じ九龍院の人間が原因だったからだ。
「私たちはお前たち人間を裁定する。行く末を決め、決断を下し、裁く。価値のない人間はいらない」
「だから人を殺すって?」
「お前が死んだのも同じだ。裁定故の結果。お前の行動も、周りの状況も、全てが読み通りで、想定のまま。彼らの望んだ通りになった」
彼ら?そう問いかけようにも、フォーリアの話は終わらない。
「暁人、お前には別の場所に行ってもらう。ここにいられると邪魔だから。本当に邪魔」
「は、それだけの理由でか?」
「いや、奴らの望みの本命はこちらだ。君は誰かの望みによって殺され、誰かの望みによって転生する。常に自分のためじゃなく誰かのために。お前たち九龍院家らしいだろ?」
「…………」
「今を生きる人のため、未来を生きる人のため。他人の未来のために命を捨て、誰かの祈りのために身を穢す。それがお前たち九龍院がやってきたことだ。そして今、お前はその九龍院によってここにいる。全くもってお前たちらしい。言葉通り、未来のために命を奪われたわけだ」
暁人は何も言えなくなり、悔しげに唇を噛んだ。
九龍院家の独りよがりが生み出した、偽物の神様。
九龍院家の身勝手が作り出した、壊れかけの新人類。
似ているようで、全く似ていない。
まるで。
「俺、みたいだな」
ひとり、小さくつぶやいた言葉はフォーリアすら拾えなかった。
【暁】と一纏めに呼ばれても、他4人と暁人には決定的な違いがあった。
【暁】の4人と壮也だけが、完成品で。
自分はその後にスカウトされて入っただけの、元一般人。
実験の完成品。
求められた実力を、期待値以上に出し続ける。研究者のまさに理想の実験結果。完成品。
かたや、彼らと肩を並べる一般人だ。
別に頭が良かったわけでも、秀でた実力があったわけでもない。
【暁】と模擬戦をすれば、秒で決着がつくし。
対人戦闘の相手になってもらおうにも、女性の美風にすら敵わなかった。少なくとも体格は、自分の方が優位だったはずなのに。
そんな暁人を見ても、壮也は見限ることもせず、『ここはこの方がいい』とか『こういう時はこうするんだ、そうするとこうなる』って、教えてくれて。
────なんで、俺なんか。
何度思ったことか。
実力も後ろ盾もない俺を、なぜ壮也はそばに置いてくれるのだろう、と。
壮也の側近なんて、恐れ多い。
「君を連れていかないと。彼らがうるさいんだ」
「先ほどから思っていたんだが、彼らって、誰のことだ?」
「……言っただろう。九龍院の奴らだよ。『さっさとしろ』って、うるさいんだ」
「声が聞こえるのか⁉︎」
暁人は思わず前のめりになった。
何かしらの回線がつながっているのなら、無理やり回路を開いて、壮也に助けを乞えるかもしれない。
「『聞こえて』はいない。無理やり『聴かされて』いるんだ」
それは要するに、一方通行、ということで。
双方の声が聞こえているのではなく、こちらを九龍院側が一方的に監視しているような、そんな状態だということだ。
「いいか、お前は今からあの国へ行く。魔法が蔓延るあの場所に行くお前には、力を与えてやる。忘れるな、お前の力は『正解を見抜く目』だ。正しく使え、正しく振え、人の身には過ぎた力だ」
言葉の直後、体が奈落へ落ちるような、ジェットコースターが直下するような、気持ちの悪い脱力感に襲われる。
「フォーリア⁉︎」
「……っ、うるさい黙れ!!!」
狭まっていく視界の中、頭を抱え、何かにそう叫ぶフォーリアの姿だけが見えた。
今回は3000字近くなりました。
ここまでは途中で切りたくないと思いつつ、でも伝えたいことは多いという、なんとも面倒で楽しい作業でした。
新しく出てきた専門用語、【暁】。
壮也さんを除いた上位5人のチーム名とでも捉えていただければと思います。
次回更新は10/10、12:00です!




