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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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48  共鳴のレチタティーヴォ - 09

キリル・アラド・ベンクの3人──ついでにアーネストも──が入浴を終え、アーネストの服を借りて身支度も整えた時には、まだ行動時間ではあるものの、外は暗くなり、騒ぐには相応しくない時間帯になっていた。


マリンに確認して、本当に部屋に戻っていいのか確認しようかとも思ったが、何か腹に入れたくなったのも事実で。


食堂に行き、少し遅い夕食を済ませ、キリルだけがレイエンフィリアの執務室へ向かう。


アラドとベンクは、もう一つの執務室、皇政執務室を確認しに行っている。


夜のため、衛兵は扉の前に立つのではなく城内を巡回している。衛兵のいない執務室の扉は内側から鍵がかけられ、ノックをして名前を名乗らないと室内には入れない。




「キリルザードです。マリンさん、いらっしゃいませんか?」




ノックと共に、迷惑にならない程度に声をかける。近くには使用人の控え室と書物庫があるだけなのだが、やはり大声を出すのは躊躇われた。


しかし、室内からは反応がない。




「マリンさん?」




ノックと共に再び声をかけるが、やはり反応はなかった。




「…………?」




こんな遅い時間に、レイエンフィリアは皇政執務室にいるのだろうか?時間は徐々に夜の9時に近づいている。


執務を行うには少し遅い。仕事が溜まっていて夜中まで、というのは皇族にもあることだが、そんな中でも、レイエンフィリアはあまり執務を割り振られていない。


理由は言うまでもなく、レイエンフィリアが『帝国の操り人形』だからだ。


いつでも指示すれば行動できるように、レイエンフィリアにはあまり執務を割り振られないようになっている。




────確かに、この国は狂っている。




執務があまり割り振られていない理由に、誰も疑問すら抱いていない。


『そういうものだから』と、疑うことすらせずに受け入れているのだ。


──無論、今までの自分も。


疑うことなく、「そういうものなのか」と思っていたのだ。理由まで考えることすらせずに。


はぁ、と。重苦しいため息が漏れた。


なるほどどうして、覚悟なしにあの話を聞くのはキツイだろう。覚悟していても、なかなかにキツイのだから。


今後、何かにつけて今日の話と結びつけてしまうのだろう。


例えば、社交界に出た時。

例えば、急遽勅命が下った時。

例えば、建国祭が催された時。

例えば──


挙げ始めればキリがない。

きっと、そんな日々が続くのだ。




────にしても。




反応がない。


レイエンフィリアの執務室の奥には、彼女の私室に繋がる扉がある。私室のさらに奥に二つの部屋とメイドのマリンの控え室あり、レイエンフィリアは二つの部屋のうちの一つ、寝室にいるのではないかと、キリルは考えていた。


皇政執務室の方か……?とキリルが踵を返そうとした時、室内から大きな物音がした。


続いて室内の扉が開く音と、こちらへ駆け寄る誰かの足音。そして、鍵が開けられる音。




「キリルザード様っ!」


「マリンさん?どうしたんですか、そんなに慌てて」


「キリルザード様のお声が聞こえたので、姫様の様子を見に行ったんですが、室内のどこにもいらっしゃらないんです!今日は疲れたから早く寝るとおっしゃって、すぐに私室にお戻りになってからは、どこにも行っていないはずなのに……!」


「っ⁉︎マリンさん、殿下の私室に入ってもいいですか⁉︎」


「え、えぇ!」




ストールを羽織ったマリンに先導され、キリルはレイエンフィリアの私室に飛び込む。


整理された本棚やテーブルなど、白を基調としたシンプルな家具が揃っている。が、そのどこにもレイエンフィリアはいない。




「姫様、一体どこへ……」


「マリンさん、衛兵に声を掛けて、皇政執務室に行ってください。アラドとベンクがいます。あの2人にも協力を仰ぎましょう」


「わかりました。すぐに」


「絶対に声を掛けてからにしてくださいね!城内とはいえ、夜に女性が1人で出歩くのは危険だ」


「わかっています、キリルザード様も、無茶はなさらないでくださいね!」




マリンはそう言って、パタパタと部屋の外へ走っていく。


改めて室内を見回したキリルは、月明かりに照らされた室内で、人が隠れられそうな物陰や影ができている暗がりを確認していく。


人が隠れられそうな場所はいくつかあるが、そのどこにもレイエンフィリアはいなかった。


周囲を見回しても見当たらないし、なにも視えない。




────どこにいる?




欲しくもないのに無理矢理押し付けられた能力は、いざその能力を発揮して欲しいタイミングで発揮してくれない。


使えないな、と思って視線を動かした時、違和感に気がついた。




「…………?」




時期的に使われていない暖炉。その中の炭の一部に、妙な跡がある。1箇所だけ、“壁に押されて移動した”ように、炭が一つも無い部分と積み重なった部分がある。


暖炉の左側の壁が扇状に動いたような、そんな跡。


音を立てないように暖炉に近づき、暖炉の左側を覗き込む。そこには、目を凝らさないと見落としそうなほど、小さな石の取っ手があった。


それを手に取り、ゆっくりと手前に引く。




「…………こんなものが」




隠し階段だった。

人1人が屈んでようやく通れるような細さの、暗く急な階段。


唐草模様を象った暖炉スクリーンをずらし、暖炉の中へ体を滑り込ませる。一応、暖炉スクリーンや隠し扉を元に戻して、照明がわりの魔法で手のひらに光を灯す。


煤けた壁を支えに、一段一段を踏みしめて降りていくと、ファウルス家での螺旋階段を思い出した。あの時ほどの長さではなく、少しすると1番下の扉にたどり着く。


躊躇いなく扉を押し開けば、目の前には薬草園があった。




────ここに出るのか。




城の裏手にある、薬室員が管理している薬草園の近く。


香りの強い植物はガラスハウスに入れずに栽培されるが、レイエンフィリアはその花畑のような場所にいた。


目の前にはラベンダーが植えられている。レイエンフィリアはその花を指先で弄りながら、煤で汚れたネグリジェも気にせず、地面に座り込んでいた。

次回更新は、8/15の12:00です。


次回以降、ちょっと、かなり?割と?

いちゃつきます。


いちゃつくシーン書くのって照れますね。

なんて描写していいのかわかんないけど、こういう風に動いているんだ、っていうのは伝えたい。でも恥ずかしい!


という感情がせめぎ合っています。困ったな。頭の中のアニメーションを文字化するプログラムとかないかな。

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