46 共鳴のレチタティーヴォ - 07
「顔立ちだけは陛下に似ているが、それ以外の一切は似ていないだろう?髪の色、眼の色、背の高さ。だからレイエンフィリアは、あまり表舞台に立たないんだ。周りに気づかれないようにするためにね。顔立ちの似ている僕や陛下と一緒か、彼女が1人で参加するか。後者は、君たちにも心当たりがあるだろう?」
「……はい」
ファウルス家での一件を思い出す。
彼女は皇族の名代として、1人で参加していた。
身長も、2人の姉と比較するとレイエンフィリアがやや低い。皇帝だけではなく、皇后もすらりとした長身で、姉2人も皇帝と皇后に似て背が高い。レイエンフィリアも低いわけでは無いが、姉2人と比べると頭半分ほど低かった。
皇家の者に遺伝する紫の瞳も、レイエンフィリアは受け継いでいない。皇后の瞳は控えめな赤色で、色が受け継がれていないことを強く感じてしまう。
極め付けが、髪の色。
皇帝の輝かしい金の髪は王太子と姉2人が受け継ぎ、皇后の柔らかな金髪はカイルワードが受け継いでいる。
顔立ちだけが、皇帝との繋がりを感じる。特に皇帝の面影をよく感じるのは王太子とレイエンフィリアで、あとの3人はどちらかというと皇后似だ。
レイエンフィリアの美しい銀髪は、絵の中の家族から彼女だけを浮かせるには十分すぎた。
「レイエンフィリアの母親は、後宮の妃の1人だったと聞いている。銀髪と青い瞳の美しい人で、歌や舞の得意な人だったそうだ。しかし、正式な妻ではないことと、『とある理由』から、写真は一切残っていない。すべて、燃やされてしまったよ」
「『とある理由』……?」
「ああ。彼女の母親は後宮の側室だった、と言ったね。問題は、父親の方なんだ。だから、燃やさざるを得なかった」
「その、殿下の父親というのは……?」
「現皇帝の、双子の弟君だ」
ああ、自分は今、いわゆる苦虫を噛み潰したような表情というものをしているのだろう、と。心の中の冷静な部分が入っているのを、キリルは気まずさを噛み殺しきれずにいた。
思わず、唇を噛む。
「知っての通り、後宮の女性に皇帝以外が手を出すことは重罪だ。謁見することすら誰1人許されない、とまでは言わないが、子を孕んだともなれば、それは許されるものじゃない。処刑されて、当然だ」
ふと、嫌な想像が頭をよぎる。
「え、いや、だって。そ、ういう、こと、ならば…………」
「さすが、聡いね。そうだよ。僕ら兄妹とはただの親戚同士というだけの関係で、彼女は罪人の娘で。血の繋がりとしては、従兄妹である、というだけなんだ」
ごくり、と、生唾を飲み込む。
なんて、暗く重い世界に足を踏み入れてしまったのだろう。
「彼女と僕、そして現皇帝の顔が似ているのは、現皇帝と弟君が顔のよく似た双子だったからだ。事情を知らない大臣や使用人が見たら、現皇帝の子と側室の子だと勘違いする程度には」
けれど、彼女は皇帝の子でなどなくて。
「罪人を処刑することなく場内を歩かせるわけにはいかない。だから、レイエンフィリアの両親は処刑され、所有物や絵画は全て捨てられ燃やされた。帝国の面汚しだからね。証拠隠滅は徹底的に行われた。墓は作られず、遺品は失われ、残されたのはレイエンフィリアだけだった」
「……………」
穏やかな表情で語るエイルワードに、キリルがゆっくりと尋ねる。
「……でも、その話とレイエンフィリア殿下があんな扱いを受ける理由に、どんな繋がりがあるとおっしゃるんですか」
「そうだよね、本題はそっちだよね。……そう、こんなのは言い訳だよ。ここまでは前置きなんだ」
前置き?と、皆が顔を顰める。
そうだよ?とでも言うように、エイルワードは背凭れに背を預け、目を閉じて思い出すように言う。
「いいかい、後宮制度は今に始まった話じゃない。遺伝を色濃く受け継いだ皇后の子と、そうではない側室の子が何人も入り混じっていた時代だって当然あった。まぁ、レイエンフィリアは少し例外だけれどね。……そんな時、彼ら側室の子は、今のレイエンフィリアと同じ役目を担っていたんだ」
「役目……?」
そうだ、と、エイルワードは扉の前の血の池に視線をやる。
レイエンフィリアが出て行ってすぐに人払いをしてしまったため、そこはまだ片付いていない。
「レイエンフィリアの異名を知らないかい?誰が言い始めたんだか知らないけれど。──『皇国の操り人形』って名前、聞いたことはないかい?」
「……耳にしたことは、あります」
皇国の操り人形。
レイエンフィリアを指す、影の呼び方。
キリルはそれが気に入らなかった。
皇帝の指示に従い、皇帝の意向を叶えるために動く。皇帝の意向とは皇国の意向だ。国の意思を叶えるために、操り人形の如く行動する。
それ故に、レイエンフィリアはリンペラトリーチェの地位を与えられている。
『勅命執行部隊』──皇帝の命令を執行する執行官。
そして。
「この国は平和だ。平和な国を治める皇族は、潔白でなければならない。けれど国を治める者である以上、人の上に立つ者である以上、その手を血で汚さずにはいられない。だからレイエンフィリアは『女帝』なんだ。」
皇族が人の上に立つために、切り捨てた人の血を本人の代わりに被る、皇国の汚れ役。
「さっきの行動はこれだよ」
まるで、他人の罪を擦りつけられるような、そんな扱い。
それこそ、エイルワードの指示で為された殺人を、自分がやったかのように言ったレイエンフィリア。
「これがこの国の歪みさ。狂っていると思わないかい?」
今回も一つ一つのセリフが長めです。長いと読む気が失せるから、あんまり好きではないんですが、キャラクターがどれだけ本気かを伝えるのに有効な手段だとも思います。
普段からどれだけ思っているか、が顕著に現れる部分だと思うので。
次回もこんな感じになるかと思いますが、よろしくお願いしますね。
次回投稿は7/18、12:00です。
是非お読みください!




