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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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45  共鳴のレチタティーヴォ - 06

「後はわかるね?レイエンフィリア」


「…………」


「彼はドラゴンを殺した。騎兵隊のドラゴンを、だ。殺し、肉を引き裂き、一つ一つを金に換えた。明らかな重罪さ」


「………………………はい」


「レイエンフィリア」


「はい」


「“わかって、おいでだね?”」




肯定以外を許さないと、そう言うように。

エイルワードは微笑んでレイエンフィリアに視線を移す。


キリルの胸元に手をついたまま、レイエンフィリアはエイルワードの目を見て──




「ええ、お兄様」




とても綺麗に、微笑んだ。




「キリル」




トントン、とキリルの胸を叩いて、レイエンフィリアはキリルから離れ、立ち上がる。




「殿下?」


「戻りましょう」


「よろしいので?」


「ええ。まずはお風呂に入って着替えて。話はそれから──「まぁお待ちよ、レイエンフィリア」……っ⁉︎」




キリルを見下ろしていたレイエンフィリアは、驚いてエイルワードを振り返る。


対する彼は、恐ろしく長い足を優雅に組み、腿に肘をついて微笑んでいた。




「キリルザード。それに、護衛の2人も。汚してしまってすまないね。隣に備え付けの浴室がある。風呂に入って、着替えてからお戻りよ。僕の命令で汚れてしまったようなものだからね。そしてレイエンフィリア、君は先に部屋に戻るんだ。“いいね?”」


「やっ、でも……「キリル」」




自分も一緒に戻る、と。そう言おうとしたキリルの言葉を、レイエンフィリアが遮って制する。


その顔は、感情に蓋をしたレイエンフィリアの顔だった。




「服に血がついたまま部屋に戻るのでは、貴方たちの印象が良くないわ。着替えて、みんなで戻ってきて。護衛ならお兄様のを借りるから」


「ですが……」




キリルの言葉を聞くことなく、レイエンフィリアは机の上の呼び鈴を鳴らす。


扉の外からノックが聞こえ、アーネストが返事をし、扉を開けて──




「失礼し……っ⁉︎」




扉の前の惨状に、入ってきた衛兵の顔が硬直し青褪める。


レイエンフィリアは平然と立ち上がり、汚れないようにドレスの裾を持ち上げて、ゆっくりと扉の外へ移動した。


器用に、血溜まりを踏まないように扉を潜る。




「部屋に戻ります。護衛を頼んでもよろしくて?」


「……え、…………あっ、はい……」




震えた声で返事をする衛兵に微笑みかけ、レイエンフィリアは室内に視線を戻す。




「“お部屋を汚してしまってごめんなさい”お兄様。貴方たちも、ごめんなさいね」


「気にしなくていいよ、レイエンフィリア」


「ふふっ。ありがとう、お兄様。アーネスト、片付けを押し付けてしまってごめんなさい。お願いね」




まるで、目の前の惨状は自分が指示したことだ、とでも言うように、何も知らない衛兵にこの様子を、やりとりを、見せつける。


そのまま綺麗に一礼をしたレイエンフィリアは、振り返ることなく歩いて行く。


バタン、と。扉の閉まる無慈悲な音が部屋に響く。


扉を見つめていた視線をエイルワードに向け、キリル、アラド、ベンクの3人は鋭く彼をを睨みつけた。




「この国の歪みがわかったかい?」




3人の視線を受けても、エイルワードは平然と、いつもと変わらない微笑みで口を開く。




「アーネスト、人払いを」


「はい」




アーネストが『人払いを済ませた』と報告してくるまでの間も、エイルワードは笑顔で続ける。




「一つだけ言っておこう。僕は妹を愛している。無論、家族愛という意味でね?そこは勘違いしないでおくれ」




茶化すような身振りで彼はそう言うけれど、3人ともそれだけで警戒を解くほど腐ってはいなかった。


言葉の続きを促すように、ただ黙って睨み続ける。




「レイエンフィリアは皇位継承権が無い。その理由を知っているかい?……嗚呼、これは質問じゃない。知らなくて当然、知っているほうが問題だ。箝口令を敷いているからね」


「殿下」


「うん。じゃあ、続きを話そう」




彼は優雅に組んでいた足をほどき、両腿に肘を乗せて顔を伏せる。


3人は無意識に固唾を飲んだ。




「事前に一つ。ここから先の話を聞いて、逃れられるとは思わないことだね」




無言で頷く。聞く覚悟はできている。

自分の主人があんな扱いを受ける、その理由を聞かずにはいられない。


他人の罪を(なす)りつけられるようなそんな扱いを、なぜ彼女が受けなければならないのか。


視線だけをキリルたちに向け、エイルワードは低い声で、たった一言、言い放った。




「…………レイエンフィリアは、僕の妹では無い」




…………一瞬、世界の音が消えた気がした。

本当に一瞬だ。でも思考が、エイルワードの言葉を理解したくないと、考えることを放棄しようとする。




「……………………えっ……」


「そうだよね。そうなるさ。けれどそれが事実だ。きっと知ったうえで僕ら兄妹を見れば気づくよ。“レイエンフィリアだけが違う”って」




あの肖像画出せるかい?と、後ろに控えるアーネストに声をかける。


アーネストはガラスの扉がついた書棚の中から、額縁に入れられた小さな絵を取り出し、エイルワードに渡す。

かれは受け取った額縁を、そのままキリルたちに見えるように机の上に置いた。


全員では無いが、皇帝一家の肖像画だった。


中央には座った皇帝と皇后。その2人の後ろに寄り添う兄妹たち。


2人の間に王太子エイルワード、向かって右隣に弟のカイルワード。さらにその右隣にレイエンフィリア。エイルワードの左隣に、双子のアイゼンフィリアとメイレンフィリアが並んでいる。他にも兄妹たちはいるが、代表して彼らが映っているのだろう。


この絵面だけをみていると、確かにおかしいことに、嫌でも気がついた。




「……髪……」




ベンクが思わず、と言った風に溢す。

口には出さずとも、キリルとアラドもそこだけを見つめている。


皇帝と皇后は、濃淡は違えど2人とも金髪だ。

エイルワードも、弟のカイルワールドも。アイゼンフィリアもメイレンフィリアも。




────嗚呼、俺は……




ぶわりと、全身が総毛立つ。背中を汗が流れて行く。


あの時──王太子の謁見の間で、彼の前に跪いた時、自分はなんて思った?


その時から、気づける要素はあったのだ。




『流れるような金の髪と、光を受けて益々輝く紫の瞳。パーツはレイエンフィリアと似ても似つかないが、顔の造形はよく似ている。特に目元が』




乾いた笑いが漏れる。


“パーツはレイエンフィリアと似ても似つかないが”?




────嗚呼、自分は、なんてことを思ってしまったのだろう。

大事な回なので、ちょっと長めになりました。

でも肝心な話はまだぼかされたままですね。


来週!見てくだされば!わかるかもしれません!(自分でも書けるかわかってない)

でもちゃんと書きますよ。来週に書けるかがわからないだけで、プロット上ここで書くことになっていますから!


正直、重い話なんかすっ飛ばしてくっつくべき人同士がくっついてくれないかな、とか思っています。


続きが読みたい!でも私が書かなきゃ、私自身が続きを読めない!という無限ループ……


次回更新は、7/4の12:00です。

是非ともお読みくださいませ♪

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