42 共鳴のレチタティーヴォ - 03
「……殿下?」
「ねぇ、キリル」
「……どうした?」
「今更だけど、お兄様になんて説明すればいいと思う?貴方を選んだ理由について」
困り顔で部屋に戻ってきたレイエンフィリアに、キリルも困り顔を向けるしかなかった。そんなことを言われても、選んだのは貴方じゃないか──と言いかけて、そもそも選択肢なんてなかったことに気付く。
初めて自らの足で地を踏み、誰が味方で誰が敵かもわからない状態で……そんな中見つけた、“同じ記憶を持つ”部下となりうる男。
────彼女が俺を選んだのは、きっと、他者には言えない部分を共有しているからだ。
周りには言えない記憶、行動、言葉。
向こうの当たり前がこちらでは通用しない虚しさ。
そういうのは、わかる人同士でしか共有できない。
「純粋に、自分の言葉で伝えればいいんじゃないの?」
「『なんとなく、“キリルがいい”って直感で思ったから』って?」
「え」
「え?」
「……え?」
「え?」
「えぇ……」
「えぇ?」
キリルは呆れ顔でレイエンフィリアを見た。
レイエンフィリアもキリルを見つめるが、その顔は『え、なんの話?』という風に、よくわかっていない。
────もしかして、この人……本当に……ただ純粋に、俺のことを気に入ったから……なのか?
驚きに目を瞬くキリルに、レイエンフィリアは小首を傾げる。
「それより、キリル」
「それよりって……」
「まぁまぁ。理由がなんであれ、私は貴方を気に入ってるし、誰が何と言おうと貴方を手放す気なんてこれっぽっちも無いし……気負わず、思った通りを言えばいいわ」
「それでどうにかなるかねぇ……」
「いざという時は、まぁ、どうにかするわ」
「…………」
────信用できない……
訝しげなキリルの視線には気付かないふりをして、レイエンフィリアは扉に向かう──が。
「あ、そうだ」
「?」
「ね、キリル」
何かを思い出したように振り返り、パタパタとキリルの元へ戻ってくる。
「ん?どうした?」
「屈んで」
「…………?」
レイエンフィリアが何をしたいのか、キリルは検討がつかなかったが、取り敢えず、言われたとおりに身を屈め、レイエンフィリアと視線を合わせる。
「……!」
する、と。レイエンフィリアの細い腕がキリルの首に伸ばされ、少しだけ引き寄せられる。背伸びした彼女は、キリルの額に小さく口付けた。ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて口付け、すぐにレイエンフィリアが離れる。
「おまじない」
「……なんの?」
「んー、怖くなくなるおまじない」
「子供じみてるね」
「効くわよ、意外と」
そうなんだ、と信じていない言葉を呟きながら、キリルはレイエンフィリアと共に部屋を出る。
扉を出れば、少し離れた場所に護衛2人が窓の外を見て待っていた。
────ああ、会話を聞かれないようにか。
皇女と側近がタメ口で話しているのを聞かれないように、距離を置かせたんだろう。
機嫌が良さそうなレイエンフィリアを視界の端に捉えつつ、アラドとベンクがかけてきた言葉に返答した。
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第一皇子の──それも王太子の謁見の間ともなれば、豪華絢爛な上に広い。
左手の窓の向こうにはバルコニーがあり、王都を見渡せる。入り口からまっすぐに赤い絨毯が敷かれ、王太子が座する椅子はキリルが跪いている床より数段高い。
右手の壁には扉が2つ。
キリルから見て手前が応接間、奥が王太子や側近、近衛兵たちの控えの室だ。
二つの扉の真ん中に、カーテンがかけられた場所もあるが、キリルはその場所が何かは知らない。メイドの控え室か何かだろうか。
「……はぁ」
視線を巡らせていたキリルは、王太子のため息で意識を戻す。
跪いたまま王太子を見上げる。流れるような金の髪と、光を受けて益々輝く紫の瞳。パーツはレイエンフィリアと似ても似つかないが、顔の造形はよく似ている。特に目元が。
なるほど兄妹だな、と納得してしまう。
どちら部に共通して、『美しい』という言葉が当てはまる。この2人を表現するなら、この言葉ほど相応しいものはないだろう。
「…………始めようか」
その言葉で、キリルは身体が強張ったのを感じた。その言葉には、皇帝陛下ほどではないにしても威圧感がある。
拒むことを許さないような、強い言葉だった。
「立っていい、もっと前へ出ろ」
「……はい」
緊張を隠さず、キリルはゆっくりと立ち上がる。顔を上げて前に向き直ると、自然とエイルワード王太子の顔が目に入る。
────あ、れ?
妹バカだと聞いていたから、キリルはきっと、自分は邪魔者を見るような目で見られるんだろうと思っていた。
お前はいらない、とか。何を考えているんだ、とか。自分に対して否定的な者だと思っていたのに。
キリルの正面に座す彼は、むしろ──
ゆっくりと絨毯を踏みしめ、彼まで5メートルほどの場所まで進み出た。再び跪けば、目の前には3段ほどの段差がある。
すぐ先に、彼がいる。
「ファウルス家では、レイエンフィリアを守ってくれたそうだね。報告があったよ」
「……は、い」
「ラ・ステッラから君についての話も少し聞いたし、ラッペーソからも聞いた。後付けで得たにしても、非常に博識らしい、とね」
「…………」
言葉に引っ掛かりを覚える。
なるほど、この男は自分の出自をきちんと把握しているらしい。
ここから否定的な言葉を投げかけられるのかもしれない、と思いつつ、キリルは息を詰めた。
「正直、私は君の出自に興味はない。しかし聞いておきたい。君が妹に近づいたのは、地位のためではないのだろうね」
「無論です」
その言葉に驚いて、キリルは即答した。彼女の地位なんて、意識を向けてもいなかった。
「それが聞ければいいよ。レイエンフィリアには王位継承権が無い。そんな彼女に近づいたとて、正直意味なんてないからね」
「え……?」
人によってはGW最終日ですね。
みなさんいかがお過ごしでしょう。
私は宣言通り、ゲーム三昧でステイホームのGWでした。なにかと買い物に出かけはしましたが、本を買ったり、食材を買ったりした程度でした。
最終日は出かけずお家にいることでしょう。
ちょっとした時間にお読みいただけると幸いです。
次回更新は5/23、12:00です。
是非に〜




