41 共鳴のレチタティーヴォ - 02
ガタン、と音を立てて、レイエンフィリアはテーブルに手をついて立ち上がった。
「ちょっと待って、今から敬語使わないで!むしろ私が使わなきゃダメじゃない……⁉︎そうよね⁉︎そうだわ……!」
「別に今更……」
「無理!です」
「無理矢理感……」
キリルは呆れ顔で、とりあえず座ってください、と促す。渋々レイエンフィリアは座ったが、その表情は頑なだった。
「だいたい、皇女が側近に敬語を使って、側近が皇女にタメ口で話しかけていたらおかしいでしょう。俺の首が飛びますよ」
「……あっ…………」
────ああ、想像力を働かせる理性は残ってたんだ……
「殿下、スコーン落としてますよ」
「……へ?あ、あぁ……うん、あり、が、とう…………ございます」
「だから敬語やめてくださいって……」
「じゃあ貴方こそ敬語やめてくださいよ!」
「「…………」」
両者、ジトーーという効果音が入りそうなほどに睨み合う。どうしたって譲れないもの、というのがあるのだ、お互いに。
「いっそのこと」
沈黙──という名の睨み合い──を破ったのはキリルだった。
「“他人の目がない時に限り”お互いに敬語無し、というのはどうです?」
「…………」
「立場上、俺が貴女に敬語を使わない訳にはいきません。首が飛ぶのは嫌なので。ですが貴女も、俺に敬語を使われると微妙な気分になるのでしょうし……」
「えぇ、現在進行形で微妙な気分になっていますとも」
「ですので折衷案です。事情を知っている人間……俺と貴女以外の人間がいる時には、皇女と側近らしく。いない時には敬語無しで会話する。いかがですか?」
レイエンフィリアはしばし思案顔になったが、すぐに拗ねたような顔で言い返す。
「うまく言いくるめているけど、結局私が敬語を使う機会、ないじゃない……ですか。暁人様相手に常にタメ口ってことでしょ……じゃないですか?」
「もうすでに癖が抜けてないので、この折衷案で行きましょう」
そこで一度言葉を切り、キリルはずいっ、とレイエンフィリアに顔を近づけた。思わずレイエンフィリアは仰け反るが、端正な顔で『反論は許さない』と言わんばかりの笑顔を向けられ、ちいさく「はい……」とだけ返した。
それ以外返せなかった。
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そんなこんなで、紆余曲折あって。
「ラッペーソ、キリルを頂戴します」
「……いやそんな、一番聞きたいところを省略されましても……そう簡単に承諾できな「では失礼」……いや待って話聞いて⁉︎ちょ、聞く気全くないですよね⁉︎レイエンフィリア殿下⁉︎」
「ちょっとーーーー!?!?」と叫ぶラッペーソには目も──ついでに耳も──くれず、拗ねたようにレイエンフィリアは廊下を突き進む。その機嫌はあまり良くない。
「ラッペーソ、まだ叫んでますけど……いいんですか?殿下」
「ベンク、ラッペーソの言い分を聞いていたら、この後に待ち構えている大関門の前に心が折れちゃうわ。ここで頭を使うわけにはいかないの」
「大関門って……」
「兄殿下のことだろう。そうですよね?」
「ええ。アラドもベンクも、気をしっかり持ちなさい。あの人と話していると、悪いことなんてしていないのに、何故か“悪いことをしてしまった”気分になるの」
自分の意見を決して曲げず、かつ、自分が何と言ったかを一言一句覚えていないと揚げ足を取られる。その言葉責めの手法は警察の尋問さながら、と言ったところか。
実際にはやっていなくとも、だんだんとそう思えてきてしまうような、自分を貫くことをやめてしまいたくなるような、そんな恐ろしさがあるのだ。
ラッペーソ相手に、記憶の容量と思考のカロリーを使っていられない。そこに使うくらいなら自分の言葉を記憶する方に使いたい。
「部屋に戻ってキリルに合流、その後にお兄様の謁見の間に行くわ。2人は謁見の間の外で待機。呼べばすぐに室内に入れるよう、扉付近で待っていて」
「「承知いたしました」」
そこからレイエンフィリアの私室までは、一言も話さずに歩いた。言葉を話すことすら億劫だった。
部屋の前に着くと同時に、ベンクが扉を開けようと取っ手に手をかける。
「ベンク、アラド」
「「はい?」」
「キリルと話すから、中に入ったら私が呼ぶまで離れたところで待機。命令」
「「?……はい」」
レイエンフィリアが『命令』という時は、理由を聞かずに従う。これはレイエンフィリアの護衛になって少し経ってから、彼女から唯一、コレにだけは従うこと、と決められたルールだった。
『命令』と言った時だけは、理由を聞くことも疑うこともせずに、絶対に従うこと。これだけは誓ってくれと、そう言われたのだ。
アラドもベンクも、理由は分からなかったが、とにかく今は従うことに決めて頭を下げた。皇族ともあれば、護衛にだって聞かれたくない話の一つや二つ、あるだろう。
とにかく今は兄殿下──エイルワード王太子の説得の方が優先だ。
扉を開け、レイエンフィリアが室内に入ったのを確認する。そして2人は、扉は見えるが物音も会話も聞こえない、少し離れた場所に移動して壁にもたれかかった。
「俺たちを護衛につけるときも、こんなふうに揉めたのかな?」
「いや、護衛に関しては『すぐに決めろ』って大臣からの催促があったから、兄殿下も今回みたいに反対できなかったらしい」
「側近は別ってことかぁ」
「俺たち護衛は、私室以外にいる時に側を離れない。反して側近は、ほぼ四六時中一緒に過ごすからな。執務の時も、社交会やらお茶会やらに参加する時も」
「変な虫って見られ、思われてるわけだ、キリルさん。兄殿下様も妹バカだね」
「可愛くて仕方ないんだろうな。……殿下の寝室に、大量のぬいぐるみがあるらしいんだけど、それ全部、兄殿下からの贈り物らしいぞ」
「え、誰に聞いたの⁉︎その情報」
「マリン。埃になるし埃を被りやすいから、掃除が大変だって言っていた」
「ちなみに何個くらい……?」
「ローテーブル3個が埋まるくらい」
────愛(物理)が重い……
2人の視線の先、窓の向こうの空は、レイエンフィリアの心を映したようにどんよりと曇っている。
せめて晴れ間が覗いてほしいと思いながら、2人は主人の部屋の扉が開かれる音を、静かに待ち続けた。
コロナ、落ち着きませんね。
コナンの映画を見に行きたいのですが、行くのも憚られるような状況で……というかそもそも、近所に映画が見られる施設すらないんですけどね。
うん、考えても意味がなかった。
次回更新は5/9、12:00です。
GWは静かに、ピオフィオーレの晩鐘をプレイします。そのあとはCollar×MaliceかNORN9か……
とにかく乙女ゲーしかしないようです。
え?健康診断で太ってたんだから運動しろ?
ちょっとゴメン、ニホンゴヨクワカラナーイ。
乙女ゲーする前に小説書け?
あ、それはなんも言えない!言い返せない!!
はい、がんばって書きます……




