40 懐古のインテルメッゾ - 03
九龍院家には序列がある。
ただしそれは、年上の方が偉い、といった年功序列ではない。
成果主義、あるいは実力至上主義。
年齢は関係ない、結果が全て。強い者、結果を出した者が上に行く。
たとえ働き盛りの30〜50代であっても、10代の部下になることだってある。
そのいい例が、九龍院壮也と、九龍院美風である。
10代前半で九龍院家に入り、20代に足をかける前に幹部入りした、正真正銘の天才。そして彼が見つけ出した、田舎町に隠れた天才少女。
20代になる前に12大幹部に名を連ねた2人は、当然、周囲からの反感を買った。
『あまりにも若すぎる』
『若輩者のくせに』
しかし2人は、そんな言葉はものともしない。ただ笑って、言葉を掛け、そして──
歯向かって来た隊員の全てを、1分も掛けずに薙ぎ払った。終始、慈愛に満ちた顔を崩すことなく。
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美風と玲華は、初めて出会ってすぐに親しくなった。同い年、同性、九龍院家という共通点で、共有できるものが多かったからだ。
小学校や中学校は無理だったが、高校は同じ学校を選んだし、通学も一緒だった。部活は一緒に帰宅部で、選択科目も大体一緒。共通の友人もいたし、生活そのものは別に苦ではなかった。
九龍院家という影は常に隠していたし、力も出さなかった。というかむしろ、美風はスポーツ限定で運動音痴だった。
なぜそうなる、と言いたくなるほど、サッカーをしてみれば明後日の方向に飛んでいき、バレーをしてみればサーブの9割は空振った。バスケをすればパスという名の、相手チームへボールのプレゼントをした。
反して、玲華は球技ならまぁまぁ、それ以外なら少し得意、と言った程度の成績だったので目立つことはなかった。が、美風はといえば、先述したとおりアレだったため、逆の意味で目立ちまくっていた。
運動神経が良過ぎて目立つのは良くない。それはもう当たり前だ。しかし、だからと言ってやり過ぎじゃ……と玲華も思い、キャッチボールをしたことがある。
九龍院家の無駄に広い庭園──窓ガラスや鉢に植えられた植物などのない開けた場所──で、グローブもつけない、本当に軽いキャッチボールをしたのだ。
玲華の投げたボールは、一度とて手元に戻ってくることは無かった。基本拾いに行った。というか探しに行った。5球用意して、うち3球は見つからなかった。
メイドに頭を下げ、事情を説明したら、次の日には壮也様にまで話が広がっていて。朝食を摂りながら肩にポン、と手を置かれ
「スポーツに片足でも突っ込む動きは、美風は絶対にできないから。できた次の日には多分地球が滅ぶよ」
と笑いながら言っていた。声を上げて笑う一歩手前、という感じの声だった。
それを聞いた美風はひどく拗ねていたが、「そういう拗ねた顔も可愛いから、俺にはご褒美でしかないよ?美風」という一言で撃沈していた。
────壮也様、そういうところなんですけど。
見ているこっちが砂糖を吐きそうだった。ベーコンエッグのモーニングサンドがやたら甘かったのは絶対にメイドのせいじゃない。
砂糖を過剰摂取している気がした。その後は食後のコーヒーに入れるコーヒーシュガーを、いつもより減らして飲んだはずだ。半分以上。
お互いにお互い以外が眼中になく、誰と一緒にいようが怒ったりはしない。(見えないところで怒っていたのかもしれないが、見えない以上は知らない)
そんな壮也は、高校生が言うイケメン、というものの数段上をいく人だった。顔も性格も(九龍院家の中での)身分も良い。頭も良いし、実力もある。
美風だってそうだ。容姿端麗、とはいえないが良い子だったし、努力は惜しまない人だった。壮也の隣に立つにふさわしい人間であり続けようと努力していた。頭も悪いわけじゃない。
何より──
──何より、憧れるのは、その2人の在り方で。
みんな知らないふりをしているだけなんだ。
完璧で格好良くて、いつも助言をくれる壮也様が、唯一、涙を見せる相手が美風なんだって。
婚約者候補だから、とか。
自分が連れてきたから、とか。
きっとそういうのは関係ない。
壮也様の心の奥底まで理解しているのは、美風と総一郎様だけだ。
でも総一郎様の前でだって、“弱み”は見せなくて。壮也様の涙を見ることができるのは、美風だけ。
そもそも嬉し泣きをするような人じゃないし、声を上げて笑う人でもないから『笑いすぎて涙が…』とかもないし。
本当に、美風の前だけなんだ。
彼女の胸に縋り付いて顔を埋め、甘えるようにキスをして。たった2人、心を共有し合うのは。
なら、私は──
────なんとしても、守らなきゃ。
壮也様は美風にしか、美風は壮也様にしか、お互いに心を見せないのなら。
それはつまり、心の内を曝け出せる程信用しているのはお互いだけ、ということだ。
────なら、守らなきゃ。
壮也様の心の支えを、壮也様の次くらいに一緒にいる私が、守らなきゃ。
心の支えにはなれなくても良い。でも、何か小さな頼み事でも、「玲華に頼ろう」って思ってくれるなら。
あの儚くて、脆くて、でも美しいあの2人の関係を、壊させるわけにはいかない。
力のない私が、力のない私だからこそ、守る。
美風の隣にいよう。
だから私を頼って。
想いは受け止めるし、女の子同士、相談にだって乗るから。
心を見せて、なんて言わない。
でもせめて、我儘くらいは言って。
きっと、きっと。
私も協力してみせるから。
貴女という存在は、大事な大事な、死にたいとすら思わされた九龍院家に差した、か細いたった一つの、希望の光なんだから。
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ここから1年も待たず、玲華は堕ちた。そうなることを彼女はまだ知らなかったし、俺自身、まさかと思っていた。
俺は、徐々に徐々に迫ってくる狂気を、それに気付かない玲華を、離れた場所から見ているだけだった。
これは、九龍院美風という人間のその狂気に触れ、玲華自身が堕ちてしまう、その前の話。
書き終わって再度読んだ時、GLかな?と思いました。書いた本人のくせに……
違うんです!
九龍院という家そのものを嫌っている玲華にとって、美風という存在は、まだここにいたいと思わせてくれる相手だったんですーー!!!
いくら言葉を重ねても、重ねれば重ねるほどGLに見えてくる……
次回更新は、4/25、12:00です。
是非お読みくださいませ♪
ほんっっとうに、GLっていうわけじゃなくてですね⁉︎あれは(強制終了)




