39 懐古のインテルメッゾ - 02
九龍院 暁人は、その名を知る人の方が少ないほど、九龍院家の中でも有名な男だった。次期当主に最も近いと噂される壮也の、側近を務めていたからだ。
序列も、玲華と比べるのは烏滸がましいほど上も上、トップクラス。
次期当主候補、第1位・九龍院 壮也
第2位・九龍院 総一郎
第3位・九龍院 美風
第4位・九龍院 航夜
第5位・九龍院 集
そして──第6位が、九龍院 暁人。
18位の玲華が、簡単に言の葉を交わせる相手じゃない。九龍院家としての仕事なぞ、馬鹿馬鹿しくて行わなかった玲華が、頭も下げないのはあまりに失礼だ。
何せ暁人は、壮也が所有する五振りの刀の一つを、誉高くも任せられている。
刀の形をした妖、あるいは神。
辻切の名を与えられた五振りの刀を、壮也は自分が最も信頼を置く5人に預けた。自身を除いた、次期当主候補の上位5名に。
総一郎には『辻切風音』
美風には『辻切彩葉』
航夜には『辻切絢葉』
集には『辻切鈴音』
暁人には『辻切菖蒲』
魂を喰らい、血肉を食み、空間を断ち切り、神すら殺すとまで言われる刀を預けられた5人と、彼らを統べる壮也。彼らは九龍院家の強さと狂気の象徴だった。
──ヒトを守るために殺せ。
──守るための殺しを躊躇うな。
──ヒトの行く道を阻むものはみな、殺せ。
躊躇いはない。
心なんかいらない。
感情なんて捨て去った。
九龍院家の呪いだと、誰かが言う。
偉くなればなるほど、力と権力の代わりに心を失っていく。12大幹部なんて、ヒトの理を捨てすぎている。
ある者は死への恐怖を失った。
役目とはいえ、部下を死地へ送り出すことに抵抗すら抱かない。人はいずれ死ぬ。だから?弱いから死んだ。ただそれだけ。所詮その程度でしょ?
「いってらっしゃい。怪我しないようにね」
遠足に行く我が子でも見守るように、彼は笑顔で、死と隣り合わせの戦場へ部下を送り出す。死すら凌駕したこの身では、今更恐怖心など抱かない。
──みんなだってそうでしょう?
あるものは他者への情けを失った。
誰に対しても対等に、年上も年下も関係ない。敵も味方も関係ない。挑んでくるのなら、常に全力で叩きのめす。
「ほら、その程度じゃ俺に勝てないぞ?俺をこの場から動かしてみろって」
眼前に立つ者の、気高き心を穿ち砕く。挑んだ者の、奮い立てた心を踏み砕く。圧倒的な、物理的な強さで。
──挑むなら来い、全力で応戦してやるからさ。
あるものは他者を慮る心を失った。
他人と自分が、同じ価値観、同じ感覚、同じ感情、同じ意識でいると信じて疑わない。自分にできること、感じるもの、それら全てが他人と同じ。
「この程度の怪我で、なんでみんな倒れちゃうの?腕が無くなっただけじゃない」
この程度の痛みで倒れるはずがない。だって自分は平気だから。ヒエラルキーの最底辺は自分だから、自分より上のみんなが出来ないはずが無い。
──なんでみんな、この程度で死んじゃうの?
あるものは記憶を失った。
顔も声も、そんな記憶は必要ない。そういうものがあるから付け入る隙を与えてしまう。
「B班がほぼ壊滅?ふーん。なら、ちゃんと追悼しなきゃね。誰がいたか知らないけどさ」
幹部とその側近さえ覚えていれば、あとはどうとでもなる。自分の身も守れない人間なんて、邪魔なだけだ。
──自分で自分を守れるなら、顔は覚えてあげる。
あるものは痛みを感じる心を失った。
ヒトのためにヒトを殺す。守るための殺しを躊躇うな。その言葉通り、一瞬の躊躇いも、罪悪感も感じることなく刃を振るう。
「あーあ、返り血で服汚しちゃった。洗って落ちるかなぁ……」
ヒトの命の重さなど思考の片隅にもない。行く道を阻んだ、だから死んだ。それだけ。彼の眼前には、敵は立つことすら許されない。
──死ぬって決まってるのに、なんで態々挑むの?
九龍院家の悲願の為、心を捨てて力を得、人間をやめて神に近づいた。
────壮也は親友だし、上司だ。
そう思う心の反面、もう一つ、心の片隅で囁きが聞こえる。
────怖い。気持ち悪いくらい、怖い。
上位5人でだけ通じる言葉がある。
「命」と言う言葉だ。
暁人はこの言葉が怖くてたまらない。
ずっと壮也のそばにいる。あるいは、壮也の命を受けて仕事をしている。そんな時、ふと、耳にする。
「今日の戦いで、命2つ使っちゃった」
「うーん、午後になれば、命3つ使えるようになるよ」
「しばらく戦線に出ないわ。命が残り2つしか無い」
九龍院家の悲願の為、心を捨てて力を得、人間をやめて神に近づいた。
──人間を、やめて。
「あっ、マズイ!!」
「……ちょっと、今度は何をやらかしたのよ⁉︎」
「狙いが逸れて、アスファルトが抉れた!」
「「「…………………はぁ⁉︎」」」
「あっはっは、ごめん!」
「ごめんで済むわけないだろ!なにやってんだ!」
「だーってちょこまか逃げるんだもん、殺したくなるじゃん?」
「猫かお前は!このバカ!」
「力はセーブしろって、いっつも言ってるでしょう⁉︎なんで毎度毎度忘れるのよ!」
「あーあー、アスファルトにしっかり溝ができてるよ。これ治せるの?」
「どうにかするしかn……「あっ!またやっちゃった!」」
「「今度はなんだ!」」
「木、切っちゃった。何本も」
「「お前もういい加減動くな!!」」
「松林の木が……20本近く切り株になってる」
「アスファルトはまだいい!!でも生き物は切るなバカ!!」
「停電起こしたらどうすんのよ!」
「そこはまぁ、金と権力で黙らs「「お前が黙れ!!」」……う、うぃっす」
────あー、思い出しただけで頭痛くなってきた。
名前だけ出てきたキャラの一言紹介をば。
壮也さん『そうや』
微笑みながら人殺すお方
(会話には非登場)
総一郎『そういちろう』
脳筋だけどめっちゃいい人
(猫かお前は!って言った人)
美風『みかぜ』
実力でのし上がった元・一般人
(可哀想なほど苦労人その1)
航夜『こうや』
記憶ないから、”迷惑“とかわかんない人
(せめて木は切らないでください)
集『しゅう』
無口でマイペースだけど、割といい人
(お兄さん、傍観してないで参加しましょ?)
暁人『あきひと』
キリルの中の人(?)。
会話中、電柱の上でポカン、としてる。
(周りが規格外すぎて、のけ者感がハンパない苦労人その2)
次回更新は4/11、12:00です。
お楽しみに!




