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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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37  博愛のカバレッタ - 20

何とか間に合い、すんでのところで抱えたレイエンフィリアの顔色を窺うと、死期の迫った病人のように青い顔をしていた。




「何やってんですか貴女は!ここに何人の人間がいるかわかってますか!?」


「…………大臣の、側近たちも含めて……200ちょっと……」


「わかってるなら何でやったんですか!?ほぼ死にかけですよ貴女!」


「………周り、よく見なさいよ」




彼らは何に驚いている?


キリルは謁見の間を見渡した。

謁見の間には50人弱の大臣と皇帝がいる。そして謁見の間にあるいくつかの扉──キリルたちからは見えないが──の先には、大臣が引き連れている側近たちが主の用が終わるのを待つ、側近の待合室のような部屋がある。


大臣たちはその扉に入り、主の姿を確認した側近は駆け寄って、主ともども屋敷へ帰るのだ。


レイエンフィリアは言った。

周りをよく見ろ、と。




────こうなることを、分かっていたのか。




青い顔をして立ち上がろうとするレイエンフィリアに手を貸して、改めて周りを見る。


彼らが驚いているのは、【強欲の悪魔】と契約した経緯にじゃない。



──この謁見の間にいる人、全員に見せたのか?


──どれだけの魔力があるんだ……?


──これほどの人数に見せて、何故フラつく程度で済む……?



側近たちに見せたことには気付いていないが、大人数に見せたことに驚いているのだ。




「超人的ですね、貴女の魔力量は」


「貰い物だけどね」


「……そうですね」




この人もか、という言葉は飲み込んだ。

さっさとこの場所から立ち去りたい。


たしかにレイエンフィリアは立っているが、左肩をキリルの胸に預けている。もたれ掛かって、ようやく立っているような状態だ。


顔色の悪さはさっきより酷い。




「……大丈夫ですか」


「魔力の補填がしたい」


「お茶でも?」


「座るか横になればすぐに戻る」


「なら戻りますか?」


「……ん」


「……あー、っと……ど、どうやって……?」


「……ぅ、うーん……」




なかなかのことをやらかしてしまったので、周囲の大臣たちはザワザワと近くの同胞に声をかけ、チラチラと視線をレイエンフィリアに向ける。


この状況で『じゃ、あとはヨロシク!』なんて言ってそそくさと下がれるほど無礼じゃない。


レイエンフィリアとキリルは「どうする?」という言葉を視線に乗せて顔を見合わせる。


動こうにも、動けないのだ。




「リンペラトリーチェ」




その場が一気に静まり返る。

大きな声ではない。ただ口にしただけ。


それだけで場の空気が支配され、ざわついていた大臣たちが押し黙った。


レイエンフィリアとキリルはすぐさま跪いた。




「はい、陛下」




皇帝が息を吸う。

周囲の温度が下がった気がした。

空気が振動して、圧縮される。




「『自室に下がれ』」




え?と。

顔を上げた時にはもう、そこは謁見の間ではなかった。振動も、術を使った気配さえ。ただあったのは、空気が圧縮されるような感覚のみだ。




「空間転移ですか」


「お父様の使う技よ。思考までは操れないみたいだけど、行動は強制できる」


「それで殿下の部屋まで飛ばすって、規格外ですね。さすがは皇帝」


「宝石4個くらい使えば私もできるけど、手持ちがなくなっちゃったのよね。もらって来なくっちゃ」




跪いた姿勢を解き、立ち上がる。レイエンフィリアの顔色はほぼ元通りに戻っていた。とはいえ、今使える魔力量は帰城した時の半分以下だ。


キリルは彼女に手を貸し、執務室の椅子に腰掛けさせた。机の上のベルを鳴らし、マリンを呼ぶ。


隣の使用人控え室から、バタバタと音がした。それも一つではない。




「……姫様!?」




勢いよく扉を開けて、最初にそう言ったのはマリン。

それに続いて、




「殿下、いつの間に!?」


「だ、大丈夫でしたか!?」




アラドとベンクが声をかけてくる。


ああ、賑やかだ、と思いつつ、レイエンフィリアは微笑んだ。




「平気。マリン、お茶を入れてくださる?」




マリンは久方ぶりに会えたレイエンフィリアに嬉しそうな顔を向けながら、意気揚々とお茶の準備に取り掛かる。


一方キリルは、レイエンフィリアの口調が元に戻ったな、と思いつつ、これからのことを思っていた。


レイエンフィリアが正式に着任命令を出してしまえば、なにかと忙しなくなるだろう。


特に養父──ラ・ステッラに着任が知られれば、『何をやらかしたんだ』とかなんとか言って問い質されるのだろう。




────まぁ、それでもいいか。




道中の馬車の中でレイエンフィリアに頼まれた、第3皇女付きの側近への着任。


それはそれで面白いかもしれないと思いながら、キリルはアラド、ベンクの背中を押して使用人控え室に下がった。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




ねぇ、私の側近にならない?



……安直に決めすぎじゃないですか?



なぁんにも知らない人を据えるより、よっぽどタメになると思うのよ、私の。



俺のメリットは。



給金倍増?



ちょっとトキメキました。



……嘘ばっかり。まぁでも、貴方の頭の良さも借りたいし、能力を活かせる場もあげられるし。それに何より──



…………



見つけちゃったんだもの。もう手放せっこないでしょう?……私に捕まってよ。



いや、貴女に捕まるのは別にいいですけど。大臣たちへの言い訳はどうするんですか?こんな一気に護衛も側近も決めて。



出会ってしまったからには仕方がないでしょう?何かやらかしたら腹程度いくらでも切るし、毒だって飲んであげる。死ねないけどね。



死ねないもの同士、肩組んで仲良く連もうぜ、ってことですか。



楽でいいでしょ?



まぁ、楽できるのはいいですけど。言い訳は、ちゃんと考えてくださいよ。



それは側近になってくれる、と受け取っていいのかしら?



断っても強制連行するでしょう、貴女は。……俺は流れでこの仕事をしていただけです。七光で城に入った。貴女が俺に生きる場所を与えてくれるなら、いくらでも行きますよ、我が主?



やだ、やめてよ。普通に呼んで?



……どうぞよろしく、殿下。

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