表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
30/160

30  博愛のカバレッタ - 13

「姉……!?アラド、彼の言うメイリアって、貴方のお姉様だったの!?」




そう口にしながら、レイエンフィリアの頭には数日前にアラド、ベンクと交わした言葉が蘇った。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「……アラド、貴方……貴族なの?」


「はい」


「……知らなかったわ」


「聞かれなかったもので」


「でも、クラメンディーレ家なんて聞いたことないわ。私が知らないだけ?」


「隣国の貴族なんですよ、コイツ」




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「自分の家は商人たちのリーダーとして取りまとめをする一家で、商人代表として貿易相手の国へ赴いたり、王族と共に会議に参加していたりしました。無論、宝石を仕入れるために、この一家にも来ていたでしょう」


「……アラド」


「はい」


「その……お姉様は、今……?」


「王族の、王太子妃の1人でした。いわゆる……愛妾、です。とても美しい人でしたよ」




────でした?




レイエンフィリアは、アラドの言葉に引っ掛かりを覚えた。


まるで、もう──




「姉には感謝しています。自分が騎士になりたいと思う、きっかけをくれました」


「………っ!?」




ピリッ、と。

レイエンフィリアの側頭部に痛みが奔った。


頭痛の始まりのようなそれは一瞬で消えてしまい、キリルにもアラドにも気付かれてはいないけれど。


例えば、何かを思い出せと、頭が勝手に動いているような。




「……でも何故、殿下がメイリアの名を?」




キリルの考えを伺おうと、レイエンフィリアはキリルを仰ぎ見る。キリルとレイエンフィリアでは、頭ひとつ分あるかないか、くらいの身長差がある。


しかし、レイエンフィリアとキリルの視線は一向にかち合わない。むしろキリルの目は“現在”を全く見ていないようにすら見える。




「……キリル」




レイエンフィリアが声をかけると、ピクリと肩を揺らして、キリルが視線をレイエンフィリアに向けた。




「どうしたの」


「……いえ、ちょっと……説明は後でします。長くなりそうだ」


「…………?」




レイエンフィリアは小首を傾げるが、キリルはどこか納得したような顔である。さらに言えば、どこか苦しそうにアラドを見つめている。




「……殿下」


「?」


「螺旋階段でご自分がどうなっていたか、おわかりですか」




螺旋階段。

歩を進めるたびに思考が侵食され、意識が侵され、狂うように溺れていったのを覚えている。


けれど、『どうなっていたか』まではわからなかった。


自分を客観的に、それこそ別の誰かの視点で見ることなどできないからだ。




「……いいえ、わからないわ。どうなっていたの?」


「……貴女は、貴女が服の中に忍ばせている宝石を通して、“悪魔に取り憑かれかけていた”んです」




どういうことだ?

何故?

どうやって?


そこまで考えたところで、レイエンフィリアの思考が、動きが、止まる。否、玲華としての記憶が、思考を巡らせることを強制的に辞めさせた。




「……そうです。俺たちは、“それらを考えることができない”。元々削ぎ落とされた思考ですから。『Who done it』は言わずもがなですが、『How done it』は考えても意味がない。物理法則すら歪めることができるのが、魔術であり、魔法です」




ここに来てなお縛るんですよ、俺たちを。


そう言わんとするキリルの思考を感じ取り、レイエンフィリアは舌打ちをしたくなるのを堪えた。


『Who done it』──誰がやったか。

確かに言わずもがなだろう。クルースだ。


けれど。


『How done it』──どのようにやったか。

こればかりは考えても仕方がない。


魔法や魔術がそこらじゅうにあるこの世界で、宝石、という触媒を通して誰かを呪うなんて、できる者ならばいくらでもできるだろう。

やろうと思えば、レイエンフィリアにだって。


物理法則を歪め、世界の理を犯す。

──それが、魔術。


レイエンフィリアは意を決してキリルに笑いかけた。




「……話して」


「……貴女が取り憑かれかけたのは、【色欲の悪魔】です。最初にクルースの体を使って接触してきた、女の声の【悪魔】。階段を降りている際、俺は急に壁にぶつかったような感覚がありました。壁の向こうは見えているのに、先へ進めなかった」


「……壁?」


「結界か何かでしょう。貴女に取り付こうとしている最中に、俺に邪魔されないように。足を止めた貴女の背後に、黒いモヤが現れました。やがて人の形になり、俺によく似た姿になった」




そう言われ、レイエンフィリアも思い出す。


“目元を覆い隠して”囁かれた言葉。

無意識に感じた、恐怖からくる“拒絶の寒さ”。


あれは、あの時のキリルが──




「【色欲の悪魔】……?」


「そうです。覚えていますか?あの時、俺は貴女に言いましたよね。『声が戻って、真っ先に口にしたのが俺への命令とは。嬉しい限りですね』と」




そうだ、確かに言われた。

レイエンフィリアは記憶をたどり、そう思う。


甘い言葉を囁くキリルに、直感的に恐怖を感じてレイエンフィリアは叫んだ。


このキリルが本物ならば『何からですか?』などと声をかけてくれるだろう。

偽物ならば、本物のキリルが助けてくれる──そう、信じて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ