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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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22   博愛のカバレッタ - 05

「部屋が書き換えられている……って、どういうこと!?」


「そのままの意味ですよ。本来の部屋の上から、魔術によって作られた偽物の部屋……今俺たちが見ているこの部屋の景色を上書きしたんです。ブドウの皮を剥いて実を食べるように、この術を解けば本来の部屋が出てくるはずです」




そう言われ、レイエンフィリアは辺りを見回す。術だというのなら、何処かに魔法陣や触媒になる石などが置かれているはずだ。


アラドやベンクも同じように周囲を見回しているが、そもそもこの部屋には『ものが何も無い』のである。机や本棚はあるというのに、それらさえ物と捉えられないというか、背景としか感じない。


そこに机がある、というのではなく、まるで……




「……視界にモヤがかかってるみたい」




雪でホワイトアウトした視界で、そこに何かある、という漠然とした感覚で前に進むような。

ここに椅子があったはず、と思いながら、暗闇に慣れていない目で夜中に部屋の中を歩くような。


見えているのにはっきりと見えていない、そんな感覚に陥る。


レイエンフィリアの言葉に眉根を寄せたキリルは勢いよく扉を振り返り、叫ぶ。




「……モヤ?……っ、そうか、しまった!」


「キリル!?」




キリルは声をかけたレイエンフィリアの腕を掴み、捲し立てるように言葉を投げかける。




「早くここから出ましょう!石化の効力が切れる!」


「だから、一体どうし……「早く!」」




焦ったように遮って言われてしまうと、レイエンフィリアも何も言えない。


駆け足になりつつ部屋から全員が出ると、モヤのかかった獣には目もくれず、部屋に入る前まで身を潜めていた廊下の角に再び舞い戻った。




「キリル、一体どうしたというの?」


「あの獣の性能を甘く見ていました。あれはアラームなんかじゃ無い。……いや、そういう機能もあるとは思うんですけど、それだけじゃなくて……」




キリルは悔しげに前髪を握りしめ、目を閉じて項垂れる。


一方のレイエンフィリアたちは、彼が何を言わんとしているのかがさっぱりわからず、顔を見合わせて眉根を寄せるだけだった。


はぁ、と。

キリルが重くため息をついてレイエンフィリアに向き直る。




「すみません、動揺してしまいました」


「構わないわ。見解を聞かせて」


「あの獣はおそらく、『自分に魔術がかけられると部屋を書き換える』仕組みになっているんだと思います」




腕を組んで、キリルが眉根を寄せる。




「殿下、ここに来た者がモヤに包まれた獣の姿を見れば、動けなくしたり、記憶を消したりして通過しますよね。その先に用事があるのなら、尚更」


「……そうね。目的のものが目の前にあるのなら、彼らは障害になるもの。どうにか手を打って進もうとしてしまうわね」


「それを逆手に取られたんです、我々は。どうしたって、進むためにはあれが邪魔になる」


「誰もが思わずとってしまう行動を、逆に利用したと?」




彼らに手を出せば部屋は書き換えられ、違和感のある執務室に変貌する。


手を出さずに進めば、何かしらの攻撃を受けるだろう。物理攻撃か精神攻撃かはわからないが。


どちらにせよ、阻まれることに違いはない。




────なら、一体どうしたら……




4人の間に沈黙が流れる。どうしたものかと、誰もが頭を悩ませた。


──遠くで、何かの鳴き声がする。


レイエンフィリアの耳に、鳴き声が届いた。ふと視線を上げ、辺りを見回す。

他の3人も気が付き、視線を彷徨わせて声の主を探した。




「今のは……?」


「……イーゼット……?」


「殿か!?「キュイー!」……痛っ!」




モッフモフの白い毛を持つ、うさぎだかリスだかよくわからない姿の獣が──




「痛っ!ちょ、痛い痛い!何ですかこいつ!爪が刺さるって!」




──ベンクの後頭部で暴れている。


レイエンフィリアは脱力し、訝しげな視線を送っていた。




「……殿下、お知り合いで……?」


「……イーゼットよ。イル・バガットの使い魔で、お母様のお気に入り」


「皇妃様の……?」




日本で言うところの動物愛好家であるレイエンフィリアの母は、このイーゼットのことも大変可愛がっている。


今イーゼットが着ている服──薄い紫のマントに濃い青の糸で刺繍がされている──も、彼女が作ったのだろう。


はぁ、とため息をついてから、レイエンフィリアは動物にするように、イーゼットに向かって手を広げた。




「イーゼット、ベンクなんかと遊んでないでいらっしゃい」


「なんか!?今『ベンクなんか』って言いましたよね殿下!!」


「お黙りベンク」


「ぐぅ」


「キャウ、キューイ!」


「痛っ!?……ちょ、追い討ちかけんな!!」




ベンクの額を踏み台にして、イーゼットがレイエンフィリアの胸元に飛び込んでくる。

誘惑に対し既に白旗を上げているレイエンフィリアは、飛び込んできたイーゼットを抱きしめながら頬を寄せた。




「可愛い……!」


「絶対可愛くない……!」


「可愛いわよ。ね、アラド!貴方もそう思うわよね?」




イーゼットを己の顎先あたりに抱え上げ、アラドに向かって見せつける。


改めてまじまじとイーゼットを見つめるアラドは、探偵が証拠の物品を見るように、顎に手を当ててじっと見つめている。




「……可愛い……のか?」


「可愛いわよ!ほら、触ってご覧なさい。モッフモフよ」




そういってレイエンフィリアがイーゼットを差し出すようにすると、アラドはその大きな手の親指の腹で優しくイーゼットの頭を撫でる。


そして、一言。




「あー、モフい……」


「よし、同志獲得だわ!」




イーゼットをアラドに手渡して任せ、レイエンフィリアはふふん、と嬉しそうにベンクを見た。ベンクは信じられないものを見た、とでも言うように愕然とした顔で口を開けている。


レイエンフィリアはキリルに向き直り、彼の真隣に立って見上げながら問い掛ける。




「キリルは?キリルもそう思うわよね!?」


「いや、可愛いかどうかはともかく……何をしに来たんでしょうね、この小動物」




キリルの言葉に全員が顔を見合わせ、改めてアラドが抱えているイーゼットに視線を向けた。

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