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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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20   博愛のカバレッタ - 03

間取りからして、この屋敷で一番怪しいのはファウルス家現当主の執務室なのではないかと、レイエンフィリアは事前に、アラドとベンクに話していた。


ダンスホールから最も遠く、部屋の広さを活かせていない家具の配置なのが引っかかっていた。




「真っ先に目指すのはそこよ。怪しいにも程がある。何より、一階に執務室があるなんてありえないわ」


「何故ですか」


「賊に襲われたとして、普通なら一階から侵入するでしょう?侵入経路によっては真っ先に狙われてしまうわ。位が高ければ高いほど、階数は上に執務室を作るのよ」


「一階に作る理由があったと?」


「えぇ、多分ね」


「どのような理由でしょうか?」




ベンクが首を傾げる中、レイエンフィリアは悩むように口元に手を寄せ、小さく呟く。




「宝石……一階……執務室……」


「……殿下」


「……?」


「宝石って、基本的にどうやって保存するんですか?」




既に答えを知っている顔で、レイエンフィリアを抱える男は聞いてくる。よくもまあ自分を抱えたまま走れるものだと、妙な所で感心しながら、レイエンフィリアは答えた。




「管理は使用人に任せているから、私も詳しい訳ではないけれど……そうね、気温や湿度に気をつけて、ジュエリーボックスで保管しているわ」


「でしたら、尚のこと都合が良いのでは?執務室が一階にある方が。ファウルス家の現当主としては」


「……なるほど、そういうことか」




男の言葉に、レイエンフィリアとベンクが首を傾げる。アラドだけは納得したように、目の色を変えて男を見た。




「わかったか?アラド」


「はい、流石です」


「……どういうこと?」




レイエンフィリアが眉を顰めながら問うた。ベンクもアラドの隣で、レイエンフィリアに同意するように頷いている。




「地下ですよ、殿下」


「地下?」


「地下室というのは、基本的に夏場でも気温が安定しています。問題は湿度が籠りやすいことですが、この国には魔術や魔法が根付いています。人喰いの術を編めるくらいですから、除湿の魔術を編むなんて簡単なことでしょう」




そうか、と、レイエンフィリアは思い至る。


妙な間取りの執務室も、地下への出入り口があるのだとすれば納得できる。


ダンスホールから最も遠い位置に執務室があるのも、客が誤って執務室に足を踏み入れないためだ。


一階に執務室があるのは、執務室内に地下への出入り口を作るため。使用人や家族に見られたくない、という思いからだろう。


根拠が揃えば揃うほど、怪しい。




「……そういえばだけれど、貴方は一体誰なのよ?」


「随分今更では?」


「聞く余地もなく走り出すからでしょう」


「ウェルナヴェイルです。キリルザード・ウェルナヴェイル」




耳に覚えがあった。

ウェルナヴェイル……?小さく口に出し、ハッとする。




「ラ・ステッラと同じ名前!?」


「義理ですが息子です。皆キリルと呼びます」


「俺たちの教育係だった方です。信頼できますし、実力も確かですよ」




自分のことのようにベンクは語るが、このキリルという男、容姿からして穏やかそうなのに、こうも機敏に動くのはそれが理由なのか。




「養父とはいえ、父には随分と仕込まれましたよ。剣や作法や城の間取りまで」




何を教えているんだ、とレイエンフィリアは言いたくなったが、キリルに言っても意味がないので飲み込んだ。


しかし何よりも驚くべきなのは、彼の知識と観察眼、洞察力だ。


確かに、腕は確かと見える。


ふと、キリルがレイエンフィリアを床に下ろす。




「この角を曲がれば執務室です」




先ほどと同じように、アラドが廊下の先へ視線を送る。ベンクは後方から人が来ないか見張っているようだった。




「しかし殿下、作戦立案をした後の作戦遂行は隊員に一任していた貴女が、自ら作戦の指揮を執り、遂行の舞台ともなるこの屋敷に赴いたのは何故ですか?身の危険は百も承知でしょう」


「貴方たち隊員内での権力争いを白紙に戻すためよ。私が首を突っ込めば、活躍の機会を目の前で晒せる。そう考える連中ほど術に嵌るようにしたのよ。ねぇ、ベンク?」


「ハハハ、ソウデスネェ」


「視線を逸らしていないでこちらをお向きなさいな」




レイエンフィリアがわざとらしく笑う。今度はキリルが首を傾げる番だった。




「意味が分かりませんが」


「ベンクにね、術をかけさせたのよ。今言った通り、今回の作戦に下心がある連中ほど効果が現れる、そんな術をね」


「それを編むのにどれだけ苦労したと……」


「あら、私も手伝ったじゃない」


「ええ、ええ、殿下が手を出してものの20秒で完成しましたからね!返してください!俺の努力と苦労の2日と16時間!実働8日間!」


「お前、アレに1日8時間も費やしてたのか」


「ふふっ、給金倍増と私直属の護衛への任命で許して?」


「えぇ、えぇ!それでしたら許しますけどね!」


「許すなよ、そこで……」




はぁぁ、とキリルは頭を抱えてため息をついた。




「今までの貴女らしくないと思ったんですよ。こんな風に前線に立って動くような方ではなかったのに、と」


「あら、失望したかしら?」


「いいえ、アラドとベンクを見つけてくださった貴女です。失望などおこがましいでしょう」


「ならいいわ」


「しかし、説明はしていただきますよ」




何が、と、レイエンフィリアは首を傾げる。

キリルは先ほどまでの雰囲気を消し、見極めるような目で問う。




「先ほどから、貴女の部隊の隊員と一人も遭遇しないのは、貴女が編み、ベンクが掛けた術のせいですね?」

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